「一線越えた」神回はこうして生まれた 湯浅政明、「DEVILMAN crybaby」を語る
永井豪「まさしく、ちゃんとデビルマン」。
永井豪さんの漫画『デビルマン』を原作としたNetflixオリジナルアニメ「DEVILMAN crybaby」(全10話)が1月5日に全世界配信されました。
これまでにリリースされた『デビルマン』の映像作品と異なり、「原作をラストまで描く」ことで話題の同作。セクシャルでバイオレンスな原作を、「夜明け告げるルーのうた」でアヌシー国際アニメーション映画祭のグランプリ(クリスタル賞)を受賞した湯浅政明監督が映像化。特徴的な画調が独創的で特異な原作にかぶさって、ほぼ半世紀前に生まれた作品に現代のポップな命を吹き込んでいます。
原作を知らない世代にも、あるいは、これまでの映像化に思うところがあった人にもお勧めしたい同作。本記事では、永井さんと湯浅監督に作品公開を迎えた心境を聞きました。
永井豪「DEVILMAN crybabyはまさしく、ちゃんとデビルマン」
── 湯浅監督は「ほかの人にやられるぐらいなら自分で作りたい」と同作の監督を引き受けたと聞きました。なぜそのように思ったのですか?
湯浅 『デビルマン』は衝撃を受けた大好きな作品で、まさか自分が映像化するとは思っていませんでしたが、誰かがやるのなら自分がやりたいと思いました。基本的に作るのが難しそうで、故に“怖い”作品ですが、まだ漫画版の最後まで映像化しきった作品はなかったので、最初に自分が示せればいいなという気持ちで挑みました。
今、原作が“好き”とか“衝撃を受けた”とか言いましたけど、最初にこの作品に触れた当時、作品を十分に理解はしていなくて。人間の弱さみたいなところだけじゃなくて、最後のシーンの意味だったり、シレーヌとカイムに代表されるように、“悪魔にも愛情がある”ことだったり、(不動)明を失いたくなかった(飛鳥)了の気持ちだったりを自分なりにそしゃくして、そしてつなげていきました。
── 作中に登場するラッパーなど原作から変化を感じる部分もありますが、原作から変えてみようと思った部分は?
湯浅 物語を今現在の現代で起こるかもしれない話として描きました。自分が高校生のときに原作を読んで衝撃を受けたり面白かったりした部分は感じたままに描きつつ、当時、一読しただけでは分からなかったような部分を「こうだったら当時の自分はもっと分かったかな」と自分に向けて作った感じです。アニメーションは一方通行で、(コミックを読むように)行って戻ったりすることができないのでそこは丁寧に描きました。
原作に出てくる不良グループも、変えるというより現代に置き換える感じで、あのように面と向かって因縁を付け、その後はヒロインの牧村美樹と運命をともにするようなキャラって、現代だとラッパーしかないのかなと。「今はこういう時代」という状況を説明する吟遊詩人的な役割も担ってくれるので。
永井 僕は『デビルマン』を描いた時点で自分の出したいことは全て出ていると思っているので、映像化に当たっては(デビルマンという)素材を提供するだけで、それをどう料理するかは自由、というスタンス。過去にもさまざまな形で映像化されてきましたが、変えたいものがあれば変えてもいいと思うし、どんなに変わっても自分としてはうれしいものです。
── 湯浅監督の画調がここまでフィットするのかと驚きすらあったんですが、永井さんが本作をご覧になった感想は? Netflixでの配信ということもあって、表現もかなり攻めていますよね。
永井 湯浅監督の「夜は短し歩けよ乙女」「夜明け告げるルーのうた」は見ていて、「この監督ならかなりシュールに作ってくれる」と感じていました。実際、なまじリアルに作りすぎてもうそくさいし、齟齬(そご)も出てくる悪魔という存在を描くのに、湯浅監督の抽象的なアニメーションのスタイルは合っていると思いましたね。
僕が『デビルマン』を描いたとき、デーモンやデビルマン、あるいは“悪魔化”というものを象徴的、比喩的に使っているのを自分でも感じていました。例えば“悪魔化”なら、殺人兵器を持たされていきなり戦場に駆り出され、「いくら殺してもいいよ」と言われる人間と一緒、という思いで使っていたり。湯浅監督は抽象的に表現した本質的な部分をきちんと押さえてくれていて、まさしく、ちゃんとデビルマンになっていました。
ネットもスマホもないような時代に描いた作品ですが、例えばネット炎上の先に待つ危ない世界まで描き出していたり、デビルマンで描きたかった方向性が現代でも通用することをうまく伝えてくれていますね。
あとは、表現に対する規制が寛容なのは一番いいことですね。セックスシーンもバンバン出てきますし、これは今までできなかったことだなと(笑)。自由度が低くて制約がある中では作れない作品だったと思います。
湯浅 自由度があるからこそできることもありましたし、映像の尺もはっきりとした決まりはなかったので、エンディングの形を話数によって臨機応変に作ったりすることもできましたね。内容的にもネットを伝播していくことを描いていることもあるので、配信で世界の人が見られるっていいなって。
── 永井先生はセクシャル&バイオレンスな部分の出来はどう感じましたか?
永井 あ、やっちゃったな、いいなって(笑)。
湯浅 作っていくに当たり永井先生にお聞きしたいこともありましたが、お聞きするのもおこがましいなと(笑)。完成された作品が既にあるので、それをただ「理解するんだ」という気持ちで、他の漫画や映像化作品なども見ながら「シレーヌのぬれ場が描きたかったのかな」など永井先生の当時の思いをあれこれ想像しました。永井先生が「やってくれ」と言っているんだと思うことにして(笑)。
第9話は「一線越えた」神回
── 今作は、不動明や牧村美樹に陸上部という設定を与え、さらにリレー競技の「バトンをつなぐ」行為と重ね合わせながらデビルマンの物語が紡がれているように感じました。湯浅監督は作品をどう解釈し、こうした表現を挿入していったのですか?
湯浅 “了に愛情というものを伝える話”と解釈しました。了が最期に気付くことは、明たちが守ろうとしているもので、それが了に伝わるまでさまざまな現実の出来事にも対峙(たいじ)している姿をバトンやリレーのイメージで重ねて描ければと思いました。
1人だとそうでもないけど広がれば力となっていくというのは、ジョン・レノンの「Imagine」のような青臭さかもしませんが、理想を持って生きていくことが人間らしいと思います。合理的でもない愛情という概念をバトンに託して伝えるイメージでした。
── どういう状況でも理想は捨てない美樹を描いた第9話のエンディングに至る流れには震えました。原作でも印象的なシーンですよね。
永井 あそこでデビルマンが助けちゃったりすると、それは物語を描いてきた自分を否定することだと追い込まれるような気持ちで生まれたシーンですね。“普通の漫画”になってしまうかどうかのポイントでした。
── 今作では1人で原画を手掛けた“1人原画回”もあると聞きますが、間違いなく9話もその1つですよね?
湯浅 そうですね。9話の内容は僕も原作で最も衝撃を受けたシーンです。9話は小島崇史さんに1人で原画をやってもらっています。いつもいい原作をいただいて、それがうまくできているのか不安になることも多いんですけど、9話は「一線越えたな」という手応えがあります。
自分でも“神回”と言ってるんですが、「できている」と思えたのでよかった。(美樹の)叫び声も気合が入っていて、何度も見るのがつらい感じではありましたけど。
(C)Go Nagai-Devilman Crybaby Project
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