「男女で着るものが違うことがおかしいんじゃないか」――“メンズサイズのかわいい服”ブランドはなぜ生まれたか(3/3 ページ)

» 2018年05月29日 10時00分 公開
[谷町邦子ねとらぼ]
前のページへ 1|2|3       

 10代のころは男の子になりたいという気持ちがあり、お兄さんのお下がりの丈を調整して着ていたこともある松村さん。スカートや女子向けの学生服を拒否する気持ちもあったそうだ。しかし、中学ぐらいから体形が女性へと変化すると、今まで着こなせていた男の子向けの服が着られなくなり、葛藤を抱えることに。

 「以前の私は『男』と『女』を別々のものだと分けていて、『嫉妬深い』とか『おしゃべり』だとか女性的だといわれる部分を自分から排除したかったんです。だけど成長するにつれ、『嫉妬深い』『おしゃべり』な男性もいて、女性と男性ってそれほど違わないんじゃないかな、と思うようになりました。すると、女性向けの服も悪くないなと感じるようになったんです」(松村さん)

 それからは女性向けのファッションを楽しんだり、制作したりするように。しかし、「レディースサイズのメンズ服」が普及していたら男性向けの服を着続けていたかという問いには「着ていたと思う」と答える。思春期に着たい服が着られなかった悔しい気持ちは、ブランド立ち上げにもつながっているようだ。

 そんないきさつで生まれた「blurorange」だが、現在は「トランスジェンダー向けのお洋服」とは考えていないという。

 「『トランス』という考え方自体、男と女は別々だという発想から来ているから、私は疑問に思っています。そもそも男女で着るものが違うことがおかしいんじゃないかって」と松村さん。「ただ、服に関しては男女で身体のフォルムが違うので、メンズサイズ、レディースサイズが存在するのはしょうがない。ブランドの表記は正直迷ったんですが、【大きいサイズのレディース服】にしてしまうと、男性として生まれたけどかわいいお洋服を着たいという人は、こそこそレディース服を買い続けることになる。それでは何も変わりません。だから【メンズサイズのかわいいお洋服】という表記にしようと思いました。男性がワンピースを着ることが自然な世界を作りたい。着るものが変われば、男女の無駄な争いもなくなるんじゃないかな」

 性別やファッションに対するそんな思いから、「メンズサイズのかわいいお洋服」という表記にしているそうだ。

これからの挑戦

 6月3日に、松村さんは女性装の大学教授として知られる東京大学の安冨歩さんとともに、学術イベント「ファッションポジウム-男女の垣根を越えたファッションの未来を考える-」を開催する。百貨店の丸井グループの協力を得て、東京大学安田講堂でファッションショーも行う点が異色だ。

ファッションポジウム

 安冨さんとは、2017年6月にブランドを立ち上げた当初、有名な人に来てもらいPRしようとSNSでアプローチしたことが出会いとなった。

安冨歩さん

 「『(商品を)プレゼントするので着てください』って言ったのですが、最初は『高いものなので申し訳ない』と断られてしまって。でも、話すうちに安冨さんも以前から同じ問題意識を持っていたことが分かり、応援してもらえることになりました。そして、安冨さんに『ファッションショーをしたいのですが、どこかインパクトのあるところありませんか?』とお聞きしたところ、『安田講堂はどうですか』とご提案いただいたんです」(松村さん)

 東京大学を象徴する大講堂、安田講堂。松村さんはそこで、「なぜ男女で違うものを着なければならないのか」という、ファッションや性別を通して人間の根幹を揺るがしかねないイベントを開催することになった。50年ほど前に、学生たちが革命を起こそうとしたその場所で、新たな革命が起きようとしている。

 またblurorangeでは3月21日から新作「晩夏 New Collection」に向けたクラウドファンディングを自社サイトで展開している。3万円から支援することができ、商品化されたものの中から好きなものをリターンとして受け取ることができる。

 「新作では今までのかわいらしさもありつつ、クラシカルな雰囲気のあるお洋服を制作しています。また、男性を単に女性に見せるのではなく、長身を生かして美しくみせるデザインにも挑戦しています」(松村さん)

 5月27日時点では350万円の支援が集まっているが、デザインした全ての洋服を商品化することはできず、3デザインのみ商品化可能となっている。より多くのデザインを実現するためにもクラウドファンディングを続ける予定で、6月2日にいったん締切り、6月3日から1カ月、再度資金募集をかける予定だ。デザイン画しかない段階からの支援者と違いを付けるために、6月3日のファッションポジウムでのお披露目以降は、リターンは同じだが金額は異なるという。

Blurorangeのワンピースを着る松村さん

 今回の新作からは同じデザインでレディースサイズも展開するとのこと。女性向けのサイズを作った理由は、「私が着たかったからです」と松村さん。カップルでのおそろいコーデも可能になりそうだ。

 ブランド名「blurorange」には「blur(ぼんやり) orange(オレンジ)つまり、『ぼんやりした夕焼けのように男女という枠組みもぼんやりでいいよね』という意味が込められています」(松村さん)。今後も体形や性別を超えたかわいい洋服作りを進めていくにちがいない。

2018年6月3日14時から東京大学(東京都文京区)の大講堂(安田講堂)で開催されるファッションポジウムでは「男女で違うものを着なければならない」というファッション業界の“切り分け”を、ディスカッションやblurorange主導のファッションショーなどで問い直す。16時からの「みんなのファッションショー」では、来場者もショーに参加可能。安田講堂の舞台でプロのカメラマンに撮影してもらうことができる。入場無料(子どもも歓迎)、入退場は自由

谷町邦子

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. /nl/articles/2412/18/news145.jpg “月収4桁万円の社長夫人”ママモデル、月々の住宅ローン支払額が「収入えぐ」と驚異的! “2億円豪邸”のルームツアーに驚きの声も「凄いしか言えない」
  3. /nl/articles/2412/16/news079.jpg “プラスチックのスプーン”を切ってどんどんつなげていくと…… 完成した“まさかのもの”が「傑作」と200万再生【海外】
  4. /nl/articles/2412/17/news060.jpg 100均のファスナーに直接毛糸を編み入れたら…… 完成した“かわいすぎる便利アイテム”に「初心者でもできました!」「娘のために作ってみます」
  5. /nl/articles/2412/17/news197.jpg 「巨大なマジンガーZがお出迎え」 “5階建て15億円”のニコラスケイジの新居 “31歳年下の日本人妻”が世界初公開
  6. /nl/articles/2412/17/news078.jpg 鮮魚コーナーで半額だった「ウチワエビ」を水槽に入れてみた結果 → 想像を超える光景に反響「見たことない!」「すげえ」
  7. /nl/articles/2412/18/news059.jpg 「奥さん目をしっかり見て挨拶してる」「品を感じる」 大谷翔平&真美子さんのオフ写真集、球団関係者が公開【大谷翔平激動の2024年 「妻の登場」話題呼ぶ】
  8. /nl/articles/2412/18/news015.jpg 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  9. /nl/articles/2411/25/news189.jpg 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」
  10. /nl/articles/2412/18/news056.jpg 日本人ならなぜか読めちゃう“四角形”に脳がバグりそう…… 「なんで読めるん?」と1000万表示
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」