「現実の方がむごい」 “ヤバいマンガ枠”扱いされる“知るかバカうどん×クジラックス”の白熱対談(2/2 ページ)
マンガと社会の犯罪行為の相互影響について
稀見:ところで、クジラックス先生は、いわゆるクライムマンガというか犯罪行為のマンガを描かれるときの社会への影響、あるいは逆に、社会から自分の作品にもたらされる影響みたいなものはどういう風にとらえていますか?
クジラ:僕は割とニュースから着想を得たりすることが多いので、現実社会が先って感覚です。あんまり必死に言い訳するのもキモいんでまあいいんですけど。でも犯罪する人は僕のマンガ読まなくてもどうせ犯罪するんじゃないかなぁ。
うどん:どうせしますね。
稀見:マンガの影響で犯罪するわけではなく、悪い人がたまたまマンガを読んだだけというロジックですね。うどん先生はよく裁判の傍聴に行くとも聞きますが、作品を作る上で、そういうソースから着想を得る感じなんですか?
うどん:そこからそのまま使うことはないですね。むしろ、大体自分の知り合いの話を聞いて描く感じです。
稀見:では世間というよりは自分の周りが中心? いじめの話なども結構ありますけど、これも自分の周りで見てきた風景が多かったんでしょうか?
うどん:そうですね。まあ、ゴキブリ入れるって現実ではなかなかないやろって思いますけど(笑)。ないけれど、いじめ描写ばかりにページを割いてたら読者がダレてしまうので、一発でわかるやつ。消しゴムのカスじゃインパクト弱いので、ゴキブリしかないと思いました。
稀見:そこはインパクト重視。どこにでもいる女の子がいじめをする、どこにでもいる女の子がいじめられる、というところが現代的というか、スクールカーストの空気感がすごくうまく表現されてるなと思います。
うどん:女同士って現実世界でも誰一人仲良くないと思うんです。皆見下し合ってると思うんですよ。
稀見:本当、今後が気になります。先ほど原稿を見たんですが、あれは1巻ラストの続き?
うどん:いや、掲載NGだったやつです。メロンブックスさんの特典として付く予定です(編注:特典は数に限りがあります。詳細は各店舗にお問い合わせください)。
クジラックス「現実の方がむごい」 知るかバカうどん「完全に同意」
稀見:うどん先生は、クジラックス先生にこの機会に聞いておきたいことなどはありますか?
うどん:『がいがぁかうんたぁ』に出てくる「結束バンド」。あのネタってどうやって仕入れたんですか?
クジラ:はいはい。確か「結束バンドで親指同士をきつく縛るだけで痛くて外せなくなる」みたいな記事をネットで見て描いた記憶があります。ただ結束バンドで手首を縛る、とかなら僕は古谷実さんの『シガテラ』(講談社)でも見たし、洋画のサスペンス作品でも何度か見かけたので、僕自身は特別珍しいものだとは思っていないんですけど。
うどん:拘束具としてはキモい部類やろ〜(笑)。
稀見:確かに縄とか手錠の方が多いイメージですね。だから逆にリアリティーがあるって。「本物はこっち使うぞ」みたいなリアリティーが。
クジラ:後は「その描写にページを割く」ってことですかね、印象に残すには。縛る描写って小さい1コマで済ませてもいいし何ならなくてもいいんだけど、それに数コマかけることで臨場感というか、生々しさが出るのかなと思います。
うどん:あと、アイドルオタの女の子のうちわの描写とか細かかった。クジラックス先生がTwitterに上げていたの見てたんですよ。
クジラ:あれは結局描き途中で放置してしまっているなぁ〜(汗)。
「アイドルオタのJKがダフ屋にだまされてAV撮影」みたいなネタなんだけど、あれは打ち合わせで水道橋に行った帰りに、駅周辺でたくさんの女性がチケットを求めてスケブを持ってズラッと横に並んでる場に出くわして。どうやらその日ちょうど東京ドームでコンサートがあったらしいんですが、その光景に衝撃を受けて描きました。そのうち同人誌で出せたら……!
稀見:ある意味、プロとしての観察欲! うどん先生的にはクジラックス先生が描かれているリアリティーにつながる描写は気になりますか?
うどん:めっちゃ気になって、めっちゃ聞きたかったんですよ! 『歌い手のバラッド』のあれもちゃんと実際にあるような場所を参考にしてるんかなって。検証画像みたいなん見たりしてんのかなって。
クジラ:そんなのあるの!? もともとリアルなアイテムや場所を描きたいというのがあって、基本的にはネットで調べる感じですね。でも歌い手関係の話は、連載を始めてから、元歌い手だった男の人や歌い手のファンだった女の子が感想を寄せてくれて、そのときにこちらからいろいろ取材したりもしましたね。
稀見:じゃあ、取材も紛れているんですね。
クジラ:そうですね。メールでとかが多いですけど。
うどん:私もしますね。クジラックス先生と同じ感じで、感想を言われて、それを参考に。全く同じですね。
稀見:お二人とも現実から想像を膨らませて、脚色してマンガにしている部分も大きいですね。だからリアリティーがある。そして、先生のマンガに魅せられた人々がまた集まってきて情報を提供してくれる。循環がありますね。
うどん:でも、現実の方がむごいなーとか思いますよ、個人個人の話を聞くと。
クジラ:そうそう、現実の方がむごい。
稀見:猟奇マンガ家の早見純先生は、現実がむごいからそういうマンガ描くの辞めたと言ってましたからね。
クジラ:ちょっとわかるな〜。「現実では今もむごいことが起こっているのに、家でチマチマ描いてる自分何なの!?」みたいな気分になることがあります。
クジラックス「なぜTwitterでは常に何かに怒っているスタイルなの?」
稀見:クジラックス先生はうどん先生に聞きたいことはありますか?
クジラ:気になっていたのは、なぜTwitterでは常に何かに怒っているスタイルなのか? ですかね(笑)。
うどん:自分に怒ってるんですよ基本的に、あと怒ったらみんな喜ぶんですよ。
稀見:キレ芸!? でも、そのせいかどうかわかりませんが、先生は頻繁にアカウント凍結されていますよね。
うどん:4回されました。今5代目です。
稀見:担当さん的にはどうですか? ヒヤヒヤですか? うどん先生のTwitterは。
K澤:そうですね。炎上での話題づくりもいいですが、何よりも作品づくりに集中してほしいです。あまりやりすぎないようにお願いします。
稀見:一応指導が(笑)。
うどん:K澤さんの言うとおりなので、ちゃんとします。
稀見:クジラックス先生もアカウントが凍結されたことがありましたよね?
クジラ:昔されましたね、今は落ち着いたかな。最近はむっちゃつまらないツイートしかしなくなっちゃって。ヤバいマンガ描いてる人みたいに言われるから、作った料理の写真などをアップして「普通の人だよ」みたいな空気出しがちです。
稀見:印象の中和ですね。
クジラ:僕は描いてる漫画の内容のわりに、実際は気にしいでいろいろ人の目を気にするタイプなので、その辺はうどん先生と真逆だなって思って面白いです。僕にはできないから、ちょっと憧れもあるかな。
うどん:オ●ニーカレンダーみたいなの、またやらないんですか?
説明するマン:カレンダーみたいなの
自分のオ●ニーをした日や回数(しかも尋常じゃない多さ)などをカレンダーに記録したものを公開し、話題となる。
クジラ:いや〜もうあのときのキワキワ感(?)みたいなのはなくなっちゃってる気がするなぁ〜。ちょっと枯れてきてます(笑)。
稀見:あのネタはいまだに伝説になってますからね。ある意味、神格化されています。
クジラックス「『君に愛されて痛かった』は“メンヘラかよ”と一蹴されてしまいそうな女の子の内側を描きたいのかと」
稀見:『君に愛されて痛かった』は今後も続いていくわけですが、うどん先生はどういう話を描いていきたいですか? 見どころみたいなものをお聞きしたく。
うどん:まぁ、ゴールは提示してますからね。見どころで言うと、登場人物が間違った努力をしてる様を描きたいです。幸せになりたいのに幸せになるための正しい努力をしていない様を。本人たちにとっては正しい努力、それしか選択肢がない努力なんですが。
例えばパチンカスっておるじゃないですか。あの人らも皆かわいそうなんですよ、皆「パチンコやめろ」って言いますけど、やめられない理由があるわけで、その原因や理由を知ろうとせず、ヤイヤイ文句や正論を言うわけじゃないですか。そういうのをちゃんと描きたいなって思います。パチンコやらずにはいられない理由があるんやって。
稀見:いろいろなものに抗っている、不器用な人間たちのドラマですかね。そういうものを伝えていきたいと。
うどん:そうですね。
クジラ:ざっくりとした言い方になっちゃいますけど、『君痛』は、“メンヘラかよ”と一蹴されてしまいそうな女の子の内側を描きたい、ということなのかなと思いました。
K澤:メンヘラはうどん先生自身も……?
稀見:確かに。でも作家がメンヘラだとマンガ描けないじゃないですか。ちゃんとメンヘラを分析できる客観性を持っている。
うどん:(笑)。というか、まともになりたいんですよ。私はまともになりたいし普通に生活したいんです。マンガ描くんやったら頭がおかしい部分を自分で理解したり客観視しないと描けないじゃないですか。という感じで自分がまともになれるよう、正しくなれるように更生するために描いてるんですよ。
クジラ:更生のために(笑)。でも、漫画家がマンガを描くのはセルフカウンセリングみたいな側面もありますよね。デトックスでもあるというか。描いちゃうとそれについて悩まなくてよくなるというか。
稀見:デトックス的な部分はありますね。でも、完結に向かってより生々しく、そして自分のためにもマンガを描いていこうということですね。もっと更生しましょう!
最後に
稀見:そろそろ対談のまとめに入りたいと思いますが、その前に、『君に愛されて痛かった』は単行本発売以外にも動きがあるそうですね?
K澤:はい。6月21日発売の『月刊コミックバンチ』8月号に番外編が載ります。
基本的にはこれを読まなくてもストーリー展開上は問題ないですが、物語の裏側で別のキャラクターの視点ではこういう感情があったというのが見られるようになって、コミックスを読むときにより深い理解ができるようになると思います。
稀見:なるほど。僕はこの作品を多くの方に読んで頂きたいと思っています。
一般的にうどん先生の作品は有害のレッテルを貼られやすいジャンルだとは思います。でも先生の作品には、編集のプロさえ心を揺さぶられる力があり、作品とは別にいろんなことを考えさせられる、自分と対峙(たいじ)するきっかけになるという意味で、特に若い読者に読んでもらいたい推薦図書だと思いますね。半分ぐらい、自分の本が有害図書指定されたやっかみもあるかもしれませんが(笑)。
自分も、一読者、一ファンとして応援させて頂きます。今日は皆さんお忙しい中本当にありがとうございました。
あ、最後にクジラックス先生。先生の作品にぜひうどん先生を登場させてください!
クジラ:僕はうどん先生いじるのは怖いな〜。絶対反撃されるというか、ボコボコにされる(笑)。
うどん:ボコボコりんにしますね!
聞き手:稀見理都(きみ・りと)
美少女コミック研究家、インタビュアー、ライター。日本マンガ学会所属。『増補エロマンガ・スタディーズ』(永山薫、ちくま文庫)の監修、『いちきゅーきゅーぺけ』(甘詰留太 、白泉社)のエロマンガ時代考証を担当 。企画「エロまんがとSF」にて第24回暗黒星雲賞受賞。2015年、2016年にカリフォルニアで開催された北米最大のアニメイベント「Anime Expo」に「HENTAIスペシャリスト」の肩書でゲスト招待され講演を行う。サークル「フラクタル次元」主宰。著書に『エロマンガ表現史』(太田出版)、『エロマンガノゲンバ』(三才ブックス)がある。
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