「プラモにしたいんで図面ください」ホンダ「ありません」 異色の『美少女×耕運機』プラモデル誕生の秘密(前編)(4/4 ページ)
――この車体の上側のは燃料タンクですよね。
高久:これ、燃料タンクもすごい。ここが直接タンクになってるわけじゃなくて、中のパイプでつながった奥まった位置にタンクがあるんですよ。だから、この背面の板ってタンクが露出してるわけじゃなくて、ツライチ(段差がなくフラットなこと)にするための化粧板なんです。「背中側の出っ張りが車体の前後でつながってるとかっこいいよね」っていうだけの理由でこうなってる。超かっこいい!
――別にここ真っ平らでもよかったんですよね?
中島:機能的にはこの出っ張りは必要ないですね。タンクカバーっていう部品は二輪でもあるんですけど、それだって重心を下に持っていきたいからタンクを下に移して、上に何にもないとライダーが車体をホールドできないから、そのためについているという機能がちゃんとあるんです。F90のタンクカバーには本当になんの機能もない(笑)。おそらくこだわりがあったんでしょうねえ。
高久:外からタンクっぽく見える部分って、全部カウリングなんですよねこれ。ドンガラ(中身のない外装だけ)です、全部。
――ひょっとしてこれ、車体上部の外装は全部無意味なんですか……?
中島:意味があるとすれば、エンジンに直接触らないようにしようという、それだけですね。火傷防止のカバー。
高久:でも、それだったらF60みたいに四角いカバーにすればいいんですよね。
中島:この車体の上部パーツはいくつかに分割されてますけど、コストを考えたら普通ありえないですね。
この頃、ホンダは四輪の開発に着手しています。よって二輪や汎用は結構独自な開発をしているんです。当時のことを考えると、F90のデザインについても、独自の開発として認められたんではないかと推察できます
――やりたい放題の結果という可能性が高いんですね。
中島:F60のころって、(本田)宗一郎さんがバリバリに見てるから、「こんな無駄なことに金をかけさせるな!」「コストかけてお客さんに負担をさせるな!」ってすごくいわれてたはずなんです。ヘッドライトにしたって、丸目の物は生産性が悪いから、四角いライトが1つついてればいいんですよ。だから同じ時期の宗一郎さんの仕事だったら、ライトは全部四角いはず。
高久:四輪車に進出する前で、バイクもレースに出るの出ないのという時期のホンダがこんなにかっこいいものを作っていたというのはちょっと訳が分からないですよね。
中島:あとデザイナーのこだわりを感じる点というと、車体に白が入っているタイミングとかなんですよね。F60とかを見ると分かるんですけど、大体全体が赤じゃないですか。でもシルバーの部分とかも、ちゃんとエンジンから連続した位置に入ってるんですよね。
高久:ホンダのマシンって赤と銀というイメージですけど、この時代にもうそういう感覚ってあったんでしょうか?
中島:赤色へのこだわりは、これまでの耕運機のイメージを覆し、農作業のイメージを一新したいというホンダの考えだったようです。理由としては、真っ平らな畑の中で一番汚れが目立たなくて車体が目立つのは赤であると。しかも濃い赤ではなくて、ちょっと朱色っぽい赤。緑の中に置いても、茶色の中でも目立つのがこの朱色だということなんですね。
宗一郎さんに「目立たねえからこんな色じゃダメだよ!」といわれて目立つ色を探して、白を持っていっても「汚れが目立つだろ」とか、緑だと「見えねえだろ」とか、青でも「くすんで見えねえだろ」とか、いろいろやった結果赤になったんじゃないかと。
――確かに外で見ると際立って目立ちますね……。
高久:この赤とかクリーム色の部分の色合いは、キットでもこだわりましたね。色見本を持って(ホンダコレクションホールのある)茂木に来るだけの日とかありましたから。赤だけはどうしても色が定まらなくて、ホンダの歴史チームにも聞いたんですけど、当時の塗料の配合はもう分からない。
成分分析すれば分かるんだろうけど、青みが強い時期とか朱色みの強い時期とかいろいろあるし、コレクションホールに置いてある個体もある程度退色してるんですよ。あまりに決まらないので、最後は手元のボールペンを分解して、「こういうベターっとした赤です!」とボールペンの部品を中国の工場に送りました(笑)。
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