漫画のサブスクや無料広告モデルは可能か 業界1位「LINEマンガ」に聞く5年の軌跡と漫画ビジネスの未来(1/3 ページ)

「漫画村問題」で揺れた漫画業界。読者と漫画家に適した漫画のビジネスモデルの在り方とは――漫画アプリ業界1位の「LINEマンガ」に取材しました。

» 2018年08月11日 11時00分 公開
[黒木 貴啓ねとらぼ]

 海賊サイト「漫画村」によって漫画業界が大きく揺れた2018年上半期。4月半ばからサイトは閉鎖状態となっているが、漫画村に多くのアクセスが集まってしまった背景には「基本無料」「作品が網羅されている」など“海賊サイトに利便性で対抗できる正規サービス”が存在しなかった要因もあると指摘され、業界では新しい漫画のビジネスモデルの模索が続いている。

 音楽や動画のように、漫画も定額読み放題サービスに参入すべきではないのか。全出版社・レーベルを横断しながら人気作品を読めるプラットフォームは作れているか。作品を全て無料で公開しながら広告収入のみで作家に還元できる仕組みは果たして可能か。

 あらゆる案があがる中、「漫画の無料連載」「出版社を横断したプラットフォーム」を早い内から実現し、漫画アプリ業界で1位を走り続けているサービスがある。2018年4月で5周年を迎えた「LINEマンガ」だ。アプリ市場を分析するApp Annie調べによると、2017年2月時点ですでにダウンロード数と月間利用者数(MAU)、アプリ年間収益で漫画アプリランキング1位を記録しており、以降も首位をキープし続けている。

LINEマンガ ビジネスモデル 取材 LINEコミックス サブスクリプション 広告 「LINEマンガ」5周年に公開された実績

 LINEマンガはどのようにして出版社を横断しながら600作品を無料連載するに至ったのか。自社レーベル「LINEコミックス」からオリジナル作品を生み出しているが、漫画アプリならではの作品の広げ方は。そしてLINEブランドには「LINE MUSIC」という音楽の定額聴き放題サービスがあるが、LINEマンガでは定額読み放題は検討しているのか。

 LINEマンガ事業部LINEマンガサービス運用部部長の原田圭さん、LINEマンガ編集部編集長の中野崇さんに、話をうかがった。

LINEマンガ ビジネスモデル 取材 LINEコミックス サブスクリプション 広告 左から原田圭さん、中野崇さん。LINE本社の巨大ブラウン人形の前にて

LINEユーザーと漫画のタッチポイントを創出 漫画アプリ1位になるまで

―― LINEマンガは2013年4月にサービスを開始し、現時点でダウンロード数2000万を突破し漫画アプリ業界1位を走り続けています。そこに至るまでの道のりを教えてください。

原田: LINEマンガは最初はコミックス(単行本)のストア機能のみで始めたんです。2012年に戦略発表会でLINEのプラットフォーム化について発表し、「コミュニケーションを通じてコンテンツをデリバリーする」という考えのもと、コミュニケーションと漫画は相性がいいという経緯で開始しました。その後、単行本を無料で配信するキャンペーンや「無料連載」などの機能も追加し、漫画作品とユーザーが触れ合う「タッチポイント」を生み出してきました。

LINEマンガ ビジネスモデル 取材 LINEコミックス サブスクリプション 広告 LINEマンガ事業部LINEマンガ運用チームマネージャー・原田圭さん

―― 2013年に「comico」「マンガボックス」などマンガアプリが軒並み立ち上がる中、LINEマンガならではの強みはそのタッチポイントをいかに多く作り出せるかにかかっていたと思います。そのための取り組みは何かしたのでしょうか。

原田: LINEマンガのストアで作品を購入すると作品のLINEスタンプをダウンロードできる特典を設けていました。そのユーザーがLINEのトーク画面で作品のスタンプを友達に送ることで、友達が興味を持ち、そこで新たにユーザーとLINEマンガならびに作品とのタッチポイントが生まれるという流れです。出版社さんにコミックス販売を持ちかける時点で、LINEスタンプ化する企画も一緒に打診していました。

LINEマンガ ビジネスモデル 取材 LINEコミックス サブスクリプション 広告 5周年時の、他社のマンガ作品とコラボしたLINEスタンプ

―― タッチポイント以外にも、他の漫画アプリにはない特色はありましたか?

原田: 1つのアプリで出版社を横断しながら作品を提供できる点が、出版社のアプリとは大きく違っていたと思います。ユーザーは作品を読むときに出版社から選んでいるのではなく、あくまでも作品の内容で選んで読んでいる。その垣根を取り払って全ての出版社さんにお声がけして、全てを扱うことに重きを置いていたのは大きかったのではないかと。

―― 出版社を横断して作品を配信するのは大変だったのではないでしょうか。

原田: 大変でした(笑) あと、漫画アプリでのコミックス1巻無料配信は今でこそどこでも当たり前になりましたが、当時出版社に持ちかけた際はやはり「タダで配信するの?」と反発はありました。電子においてタダで配信するということはその巻が書店で売れなくなるのでは? という懸念もあったようで、紙の部署との兼ね合いも大きかったです。

 しかし実際にやってみると、電子における続巻の売上はもちろん、紙の売上もあがったのです。そうして1巻無料で配信することが作品のプロモーションになることを理解していただいて、徐々に無料キャンペーンや無料配信の作品数を拡大し今につながっています。

―― 2014年7月に、今度は「無料連載」をスタートします。出版社の作品を「話」で分割して、週1更新で最新話を無料で読めるようにする、というものです。

原田: こちらも段階的に出版社から信頼を得ていきました。「無料連載」なんて出版社からすると、「自分たちの漫画雑誌で連載している作品を、なぜアプリでも連載しなくちゃいけないの?」という疑問があったわけで。そこをまずは、LINEマンガというプラットフォームを理解いただいてから、次に連載のお話を進めていく、という流れで交渉していました。

LINEマンガ ビジネスモデル 取材 LINEコミックス サブスクリプション 広告LINEマンガ ビジネスモデル 取材 LINEコミックス サブスクリプション 広告 無料連載

―― そこからダウンロード数を始め業界1位となっていくわけですが、何が他のアプリと違っていたのでしょうか。

原田: 1つの要因としては、「無料連載」を業界のなかでも早い時期に開始できたところが大きかったと思います。漫画以外でもスマホではたくさんのコンテンツが楽しめるため、例えば通勤時間がおよそ30分、40分などはゲームや動画といった他コンテンツと可処分時間の取り合いになるんです。そこであと1駅分、ゲームが終わったから何しようという隙間の時間に漫画を読んでもらうことにしました。

 そうなると3〜5分で1巻のボリュームは読み切れないのですが、連載形式の1話単位であれば読める。早い段階に「無料連載」で隙間の時間に新しいタッチポイントをもたらしたことで、多くのユーザーに受け入れられてもらえたと思います。開始当初の作品数は1日5〜7作品程度、1週間で40、50タイトルもなかったのですが、出版社と関係を構築していくことで現状600作品以上にまで増やせました。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2403/17/news022.jpg 【追記あり】夫に「油買ってきて」と頼んだのに、手ぶらで帰宅した理由はまさかの…… とんでもないオチに「やめてww」「久しぶりに大爆笑」
  2. /nl/articles/2403/18/news022.jpg 1歳息子の“はじめての寝落ち”が140万再生 10歳兄のやさしい行動に「なにこの平和でかわいい世界」「最高に癒やされる」と絶賛の声
  3. /nl/articles/2403/17/news063.jpg 「予言者いた」「先見の明」 大谷翔平選手&真美子さんの結婚を2021年時点で予言(?)している投稿が発掘され話題に
  4. /nl/articles/2403/17/news047.jpg 北海道内の移動距離を本州と比較したら…… 感覚がバグるマップ画像に「これが北海道」「大きすぎる」
  5. /nl/articles/2403/18/news042.jpg 生後1カ月の赤ちゃん「ぼく泣かないもんねっ」 うるうるおめめとへの字口が「はぁ〜たまらん!」「ぐぁぁああああっっ」取り乱すほどかわいい
  6. /nl/articles/2403/15/news126.jpg 「一番イチャイチャしているように見える」 大谷選手が公開した写真でドジャース山本由伸選手の“手つなぎ”?が話題に 「そっちに目が行く」
  7. /nl/articles/2312/29/news019.jpg 「妻の服を勝手に着て脱げなくなったムキムキ夫とデカワンコ」に爆笑の嵐 シュールすぎる状況が500万表示突破
  8. /nl/articles/2403/18/news025.jpg “おしりが5日で変わる”トレーニング! 「明日からやるか」「1日1回だけなら続けられる」と累計3000万再生突破
  9. /nl/articles/2403/18/news056.jpg 大好きなボールを100個プレゼントされたときのワンコの表情に「放心ww」「引いてない?」 直視できない姿がSNSで話題
  10. /nl/articles/2403/18/news064.jpg 赤ちゃんが妙に静かだと思ったら…… 思わぬものへの“真剣モード”に笑顔になる人続出「たれたもちもちほっぺたまらん!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  2. 昭和時代に“無かった物”が写っている……? 細かすぎて伝わらない「未来から来たことがバレた写真」に6万いいね
  3. 「マジで汚い」「こんなもんです」 辻希美、“大散乱”のリビングと“新”キッチンの差を公開し共感の声集まる
  4. 双子の赤ちゃん、姉が全力でくしゃみして…… 被害にあった妹の反応に「生後3ヶ月でドリフのコントw」「めちゃどっちもカワイイ」と絶賛の声
  5. 「よくも病院に連れてきたな……」とにらむ猫、先生が来た瞬間 驚きの変貌に爆笑の声「これがほんとの猫かぶり」
  6. 急に片耳がたれたワンコ、慌てて病院にいった結果…… 「こんな可愛い診断結果初めて見たよw」「笑っちゃった」と反響
  7. 「何羽いる?」一見普通の“草むら”、よく見ると……? 思わず絶叫まちがいなしの1枚に「どっさりいるw」「まさに迷彩!」
  8. 店員に「この子は懐きませんよ」と言われたチンチラ、家に来て3日後…… 人を信じる姿に「愛が伝わったんですね」
  9. 元SDN48光上せあら、目を離した隙に……子どもが商品を触り“全買取” 「子連れママに厳しすぎないか?」
  10. 柴犬を子どものように育てた結果、人間みたいな行動をするようになった 何気ない幸せな日常に「完全に家族の一員」「全部が愛くるしい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
  2. パーカーをガバッとまくり上げて…… 女性インフルエンサー、台湾でボディーライン晒す 上半身露出で物議 「羞恥心どこに置いてきたん?」
  3. “TikTokはエロの宝庫だ” 女性インフルエンサー、水着姿晒した雑誌表紙に苦言 「なんですか? これ?」
  4. 1歳妹を溺愛する18歳兄、しかし妹のひと言に表情が一変「ちがうなぁ!?」 ママも笑っちゃうオチに「かわいいし天才笑」「何度も見ちゃう」
  5. 8歳兄が0歳赤ちゃんを寝かしつけ→2年後の現在は…… 尊く涙が出そうな光景に「可愛すぎる兄妹」「本当に優しい」
  6. 1人遊びに夢中な0歳赤ちゃん、ママの視線に気付いた瞬間…… 100点満点のリアクションにキュン「かわいすぎて鼻血出そう!」
  7. 67歳マダムの「ユニクロ・緑のヒートテック重ね着術」に「色の合わせ方が神すぎる」と称賛 センス抜群の着こなしが参考になる
  8. “双子モデル”りんか&あんな、成長した姿に驚きの声 近影に「こんなにおっきくなって」「ちょっと見ないうちに」
  9. 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほど様変わりした光景が379万表示「そこだけボッ!ってw」
  10. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」