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» 2018年08月19日 09時00分 公開

Twitter漫画「アフリカ少年が日本で育った結果」が書籍化 カメルーン系日本人が見た日本の姿は

人の内にある思い込みや偏見を、明るく軽妙に描いています。

[沓澤真二,ねとらぼ]

 タレントとして活躍するカメルーン系日本人の星野ルネ(@RENEhosino)さんが、Twitterで漫画を披露して好評を博しています。そのシリーズの1つ、「アフリカ少年が日本で育った結果」の書籍化が決定。毎日新聞出版より、8月20日に1080円(税込)で発売されます。


 漫画を執筆するようになったきっかけについて「アフリカ系日本人である自分の存在や体験などを表現して、新しい日本人の形を伝えたく上京しました。タレント活動の一環として、昔から得意だった絵で何か表現できないかと考えた時、エッセイ漫画に行き着きました」と、星野さん。同作では好奇の目にさらされた学生時代や、母親の思い出など、多彩なエピソードを軽妙に描いています。


アイキャッチ 異文化の接触には苦労もあったと思われますが、作者のポジティブさや理解ある友人の存在もあって、漫画はつらさを感じさせません

幼なじみが好奇の目から守ってくれた――「天使が生まれる時」

 星野さんがお気に入りの1つとして挙げたエピソードは、小学校入学時の出来事を描いた「天使が生まれる時」。当時は物珍しさから、全校生徒がひんぱんに星野さんを見物に来たといいます。


天使が生まれる時

 「ホンマに外人や!」「めっちゃ黒い!」など、心ない言葉も漏れ聞こえてきて、とても居心地の悪い状況でしたが、「いちいち見にくんな!」と守ってくれたのも、同じ学校の生徒。保育園時代に仲良くなった親友たちでした。

 星野さんは親友を「天使」とたとえてはいますが、かといって好奇の目で見てきた生徒たちが「悪魔」だったわけでもないとしています。「天使」たちも初めて出会ったときは、星野さんを不思議な様子で見ていました。それが、暮らしをともにするなかで同じ人間だと実感したことで仲良しに。それこそ「天使が生まれる時」だったのでしょう。星野さんは「彼らのおかげで幼少期の思い出はおもちゃ箱のようにわくわくで一杯だ」と述べています。


“はだ色”のクレヨンを貸してもらったら……? 「自分のクレヨン」

 その後星野さんが小学校になじんだとうかがえるエピソードが、「自分のクレヨン」。図工の授業で絵を描くときに、はだ色のクレヨンが足りなくなった星野さんは、仲良しの女子に貸してと頼みました。


自分のクレヨン

 すると、彼女から手渡されたのは茶色のクレヨン。「ルネのはだ色ってそれやろ?」と言われ、初めて「はだ色」が「はだの色」の意味と知り、星野さんは目からうろこが落ちたといいます。「はだ色」が指す色を1つと決めつけない、少女の素直な考え方に「『はだ色』の名称が『ペールオレンジ』や『うすだいだい』に変わった意味について考えさせられた」といった感想が多く寄せられました。


入学式で母親が本気すぎる! 「未知との遭遇」

 このようにいくらなじんでいっても、進学などをすると、また新たな環境で好奇の目にさらされることになります。そんな「節目」となる入学式が大嫌いだった星野さんは、高校進学時の思い出を「未知との遭遇」というエピソードで明かしています。

 「目立ちたくない……」と、憂うつな気分で式に臨んだ星野さんでしたが、その日は様子が違っていました。自分をそっちのけで、みんなが窓の外にいる誰かに注目しているのです。

 「アフリカン高校生」という未知との遭遇よりも目立つ存在とは何なのか? 気になった星野さんは、自分の目で見て戦りつすることになりました。そこにはカメルーンの民族衣装に身を包んだ、母親の姿があったのです。「授業参観のときに母親が全力でめかしこんでいて気恥ずかしい」なんてことはあるあるですが、レベルがはるかに違う。


未知との遭遇

 母親については、「愉快な家電たち」でも語られています。カメルーンの家庭では、親戚が集まり助け合いながら暮らすのが普通。だから彼女は、郷里の女性から「日本で1人で主婦をするのは寂しくないか」と聞かれたのだそうです。


愉快な家電たち

 母親の答えは、「日本はしゃべる家電が多いから結構なごむのよ!」。湯沸かし器は「お風呂が沸きました」、電話機は「留守番電話が2件あります」、炊飯器は「ご飯が炊けました」と、けっこうにぎやかですからね。それを聞いた郷里の女性は、「お鍋がお話しするってすてきね」「さすがは機械の国ね」と感心していたそうです。


日本語分かるのに、英語で親切にされると英語で答えてしまう……「協力者」

 やがて世間へ出た星野さん。駅の案内板などを見ていると、たまに英語で案内してくれる人に会うことがあるのだとか。そんな一件をエピソード「協力者」につづっています。


協力者

 星野さんは日本語は達者ですが、実は英語があまり得意ではありません。英語のうまい人に対しては「日本語分かりますよ」と自然に返すのですが、相手が緊張しながらおそるおそる話しかけてくるようなケースでは、ついがんばって「外国人」を演じてしまうのだそうです。

 そうして案内に従って礼を言えば、案内してくれた人は「困った外国人に英語で案内できた」と自信が付きます。星野さんも「困った外国人を“維持できた”」と満足し、これを「互いにかみしめる達成感」としています。気の遣い方がものすごく日本的。


アフリカ系を初めて見た子どもの反応は……? 「天使の答え」

 星野さんは電車内など公共の場にいるとき、ひそかに検証を楽しんでいるそうです(エピソード「天使の答え」)。それは「初めてアフリカ系の人間を見たときに、子どもがどんなリアクションをするか」。これまでの試行で、反応は4タイプに大別できたといいます。


天使の答え

 一番多かったのが、未知なるものをできるだけ遮断しようと、すぐに顔を背ける「遮断型」。残り3つは、好奇心旺盛に笑いかけてくる「歓迎」、終始目を離そうとしない「監視」、不安に耐えかねて泣いてしまう「号泣」だそうです。1度だけの例外として、攻撃をしかけてきた子もいたのだとか。




 一連のエピソードは、人に内在する「思い込み」や「偏見」を浮き彫りにするところもありますが、描写の明るさもあって、ネガティブさをあまり感じさせません。これについて、星野さんは「自分の意見や主張は最小限にして、体験したことをプレーンな状態で描くのが漫画へのこだわり。読んだ人それぞれ自由に感じてもらいたいです。自分がポジティブというか楽天家なので、基本的に明るい漫画に仕上がります」と、ねとらぼの取材に答えています。

 漫画を始めたときは、「1年で1万フォロワー」がひそかな目標だったという星野さん。結果的に2カ月で3万フォロワーを突破し、反響の大きさに驚いているそうです。「自分の何気ない体験がここまで多くの人の心を捉えるとは夢にも思っていなかったので、こんなに早く本になることがいまだに不思議でしかたありません」

 今後どのような活動をしたいか聞いたところ、「漫画はこのスマホ時代に、SNS向けに始めたもの。だから、スマホ向けのアプリやゲーム、映像を使った表現もしてみたい」とのこと。星野さんが表現の幅を広げたら、どのようなものが生まれるのか楽しみです。


作品提供:星野ルネ(@RENEhosino)さん

(沓澤真二)


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