最終日、全員で歌った「今日の日はさようなら」 銀座最後のキャバレー「白いばら」の最後をつづった同人誌が話題に

楽しいひとときから最後のときまで。フルカラー42ページでつづられた白いばら愛。

» 2018年09月10日 20時00分 公開
[辰井裕紀ねとらぼ]

 2018年1月に惜しまれつつ閉店した、1931年創業にして銀座最後のグランドキャバレー・白いばら(関連記事)。そこに務めていた元ホステスの3人(夢さん、恋さん、愛さん)によって書かれた同人誌「キャバレーは今も昔も青春のキャンパス」が夏コミで完売するほどの人気を博しています。



白いばらの同人誌 あの独特な入店口が表紙になっている

 現在、一部の委託先と通販によって購入できるこの一冊は、彼女たちが勤めていた白いばらの空気感がいっぱいに詰まっています。今回は運良く入手することができたので、ページをめくってみましょう。


こんなに「昭和」が残った場所だった!

 そもそもキャバレーとは、ステージでのバンド演奏があり、ショーがあり、そして接客をするホステスがいる飲食店のことで、最近ではなかなか見られなくなった営業スタイルのお店。

 全国的にも数の少なくなったキャバレーですが、白いばらの在籍ホステスはゆうに200人以上。それ以外のスタッフも約30人。建物は木造三階建てで、1〜2階にある客席は約380席。吹き抜けに面した中2階にはバンド演奏やショーに使われるステージもあり、銀座を代表する娯楽の殿堂でした。

 そんな白いばらでたっぷり味わえたのが、「昭和をそのままパッケージングした空気感」。この本ではそれを随所に感じることができます。


白いばらの同人誌 店内の様子

 例えば、巻末のホステスの絵。白いばらでは「黒髪ロング」「おでこを出す」「ヒールのあるパンプス」「赤い口紅」「色白」などの姿が推奨されており、その可憐な姿が描かれています。


白いばらの同人誌 「お客さんが思う女の子」になる

 さらに白いばらには宝塚歌劇団のような「レヴューショー」が当時まだ残っており、そのショーダンサーだったジャスミンさんへのインタビューも収録。ボーイッシュな男役でしたが、ショーの時間以外はホステスとして接客しており、そこでお客さんに「(ショーを観て)元気になったよ」と激励を受けることもあったそうです。

 そのほかにも87年間の歩みが2ページでわかる「年表」も用意され、「1959年、ステージに当時24歳の美輪明宏が出演」などの、老舗店ならではの重厚な歴史を味わうことができます。


実は「東京出身」がいちばん多かった

 白いばらといえば、お店の前の大きな日本地図。「あなたの郷里の娘を呼んでやって下さい」というキャッチフレーズとともに、日本中の女の子を指名して飲めるのがウリでした。

 しかしいちばん多いのは、実は東京出身。ただ、変わったところでは奄美大島などの出身者もいたそうです。指名なしで入ってきたお客さんに「東京出身です」と答えると、ちょっとがっかりされたこともあったとか。

 この本では、こんな「実は……」といううちあけ話的な内容もたっぷり紹介されています。


白いばらの同人誌 店頭の名物「日本地図」

客を楽しませるために「模擬結婚式」も

 お客さんを楽しませる工夫がいっぱいの白いばら。1年を通してさまざまなイベントが行われ、2月の節分ではラムちゃんコスプレのホステスがお菓子を配り、8月は甲子園優勝校を当てると抽選でワインボトルをプレゼント。10月はホステスがお客さんに手料理をふるまう「料理教室」などがありました。

 中でも特にホステスたちも楽しみにしていたのが11月の「キャバレー文化祭」。 その中には「模擬結婚式」なる出し物があり、ドレスとタキシードを着た男女の馴れ初めを勝手にスタッフに言われる、お客さんにとっては照れくさい時間だったそう。さらに「水着で騎馬戦」はお客さん3人とホステス1人で騎馬を作るゲーム。このほかホステスの仮装まで楽しめる、盛りだくさんのイベントだったそうです。

 また通常の出し物も見どころが多く、生バンドによるイントロクイズは、4択×4問を全問正解するとスクラッチくじを進呈。さらに「トイレットペーパー巻取りレース」なるものもあり、客たちの目を楽しませていました。


白いばらの同人誌 時季によってさまざまなイベントが行われる

白いばらの同人誌 お客さんにとってはある種夢のイベント、「模擬結婚式」

実録「閉店への歩み」

 そんな白いばらが、とうとうその幕を下ろすときがきました。「実録 閉店への歩み」では、最後までホステスを務めた恋さんが、閉店の発表から最終日までの様子をレポートしています。

 恋さんが更衣室に上がると、「建物の老朽化が著しいため2018年1月10日に閉店します」という社長からのお知らせがスピーカーから流れていました。


白いばらの同人誌 当時の空気感が如実に表されたレポート

 閉店を知って辞めてしまう子がいた一方で、多くのホステスは最後までお店に残りました。そして閉店の知らせを聞いて押し寄せる人たち。最初こそ新規のお客さんも多かったものの、やがて予約は常連客優先となり、そのうち新規客は入れなくなりました。残り少ない日々を常連さんに楽しんでもらうためだったそうです。

 それでも白いばらは連日満員で、ホステスの数を大きく上回るお客さんで座席はいっぱい。「居酒屋状態」と例えられるほどで、ホステスは補助の丸椅子に座って接客したといいます。


最終日、最後に集ったみんなで歌った「今日の日はさようなら」

 そして最終日。外にはお客さんの長蛇の列ができていました。お店では「今日でなくなるなんてウソみたいだね」という会話も。


白いばらの同人誌 閉店の日、白いばらを取り囲むような行列ができた

 ですが残された時間はアッという間になくなり、最後の閉店時刻が近づきます。もともと白いばらには、3人のホステスがステージで「今日の日はさようなら」を歌って、お客さんを見送ることが長らく名物でした。

 しかしその日に歌ったのは、3人だけではありませんでした。社長と店長が前に出て「みんなで歌いましょう」と、全員での大合唱を呼びかけたのです。そしてステージに降りてくるお客さん、感極まって歌うお客さん、ホステスやスタッフで嗚咽の交じる大合唱になり、白いばらは87年もの歴史に幕を下ろしたのでした。

 そしてこの後も、心温まるようなエピソードがあるのですが……それは、手に入れた方のお楽しみにとっておきましょう。


次へ歩き出す、ホステスとスタッフたち

 実は、前述のショーダンサー・ジャスミンさんのインタビュー最後で、思わぬ報告がされています。「九月には白いばら復活ショーを予定しています!」と。

 今では数少なくなった「レヴューショー」を踊る現役のダンサーである彼女たちにとって、久々の「白ばらダンサーズ」としての晴れ舞台。告知から数日で全日満員になり、その根強い人気をうかがわせています。

 ジャスミンさんはインタビューでこれからの道についても語っています。またホステスさんは閉店をきっかけに次の道へ進む人が居たり、別のお店に移る人も居たりするとか。そんな、彼女たちの過去と現在と未来がのぞけるなのです。


「夢みたい」な世界を42ページフルカラーでとじこめた一冊

 「女性は素人 あなたはもてる 夜の大人の遊園地」と、なつかしい香りのするキャッチフレーズで愛された白いばら。その甘美で怪しく楽しい世界を、42ページフルカラー全体で教えてくれる一冊です。

 なおこの本のホステスさんたちの座談会は、この言葉で結ばれています。

 「唯一無二のお店でしたね。」

 「夢みたいだったね!」


白いばらの同人誌 背表紙には「閉店のごあいさつ」が。公式HPにも同じメッセージが載っている。

画像:「キャバレーは今も昔も青春のキャンパス」より




Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/14/news019.jpg ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  2. /nl/articles/2412/10/news133.jpg 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  3. /nl/articles/2412/12/news089.jpg フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. /nl/articles/2412/14/news081.jpg 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  5. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  6. /nl/articles/2412/15/news002.jpg 毛糸でフリルをたくさん編んでいくと…… ため息がもれるほどかわいい“まるで天使”なアイテムに「一目惚れしてしまいました」「うちの子に作りたい!」
  7. /nl/articles/2412/14/news038.jpg 「釣れすぎ注意」 消波ブロック際に“カツオを巻いた仕掛け”を落としたら…… 驚きの結果に「これはオモロい!!」「こんなにとは」
  8. /nl/articles/2412/14/news063.jpg 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  9. /nl/articles/2412/14/news002.jpg 【今日の難読漢字】「男衾」←何と読む?
  10. /nl/articles/2412/15/news024.jpg おじいちゃん「昔はモテた」→孫は信じていなかったが…… “今では想像できない”当時の姿が140万再生「映画スターのよう」【米】
先週の総合アクセスTOP10
  1. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  2. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  3. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  4. 高校生のときに付き合い始めた2人→10年後…… 現在の姿に「めっちゃキュンってした」「まるで映画の世界」と1000万表示突破
  5. 大谷翔平の妻・真美子さん、ZARA「8000円ニット」を着用? 「似合ってる」「シンプルで華やか」
  6. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」 投稿者に感想を聞いた
  7. 高校生時代に父と撮った写真を、29年後に再現したら……再生数1000万回超えの反響 さらに2年後の現在は、投稿者に話を聞いた
  8. 散歩中、急にテンションが下がった柴犬→足元を見てみると…… 「そんなことあります?」まさかの原因が860万表示「かわいそうだけどかわいい」
  9. コメダのテイクアウトで油断して“すさまじい量”になってしまった写真があるある 受け取ったその後はどうなったのか聞いた
  10. 「やめてくれ」 会社で使った“伝言メモ”にクレーム→“思わず二度見”の実物が200万表示 「頭に入ってこない」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」