深海生物との出会いが少年の人生を変えた 幻想的な風景に命への思いが交錯する漫画『マグメル深海水族館』
深海に届いた光はきっと心にも届く。
宇宙よりも遠い海と呼ばれ、人類にとって未知の領域であった深海が、品川駅から電車でたった20分の距離になった近未来。深海生物漫画『マグメル深海水族館』(椙下聖海)は、水深およそ200メートルの深海に開かれた水族館の物語を描きます。
主人公は尊敬する父に教わった深海を目指し、マグメル深海水族館の清掃員として働き始めた天城航太郎(てんじょう・こうたろう)。アルバイトながらも深海生物に並々ならぬ思いを持ち、人々に深海のすばらしさがなかなか伝わらないことにひそかな不満をつのらせます。
ある日、航太郎はダイオウグソクムシの水槽の前で始まったお客さん同士のいさかいに巻き込まれてしまいます。そこに仲裁に入ってきたのは、なんとマグメル深海水族館の館長。深海のスペシャリストとしても名高く、人々に“ミナト館長”と親しまれる大瀬崎湊人(おせざき・みなと)でした。
ミナト館長の案は、めったに動かない生態を持つダイオウグソクムシをカウントダウンでジャンプさせる即興ショーの披露。即興で芸ができるのかと見守る航太郎の前で、ミナト館長はグソクムシのジャンプを見事に成功させてしまいます。
偶然目前にしたミナト館長の手腕に、航太郎は戸惑いを隠せません。しかし、ダイオウグソクムシの生態からトリックのヒントも思いついていました。
もしかして、「匂い」ですか? 航太郎の一言はダイオウグソクムシのジャンプのトリックを見事に言い当てたのです。航太郎の鋭さにミナト館長は驚き、ミナト館長のアイデアに航太郎は感心します。互いの存在を意識し合った瞬間でもありました。
飼育補助の仕事を任されるようになると、人の顔を見るチョウチンアンコウや、死の間際にあるメンダコなど、一癖も二癖もある生物たちが航太郎の前に次々現れます。迷い、時にぶつかりあい、トラブルを前に力を合わせ、マグメルの一員としても成長を重ねる航太郎から目が離せません。
不思議な姿かたちの深海生物も、全て一つずつの命。航太郎はどんな深海生物にもひるむことなく、一様に「助けたい」と心を砕きます。
マグメルの従業員たちとも打ち解け始めた航太郎は、彼ら一人一人が抱いているマグメルへの思いにも触れ、同時に航太郎自身の思いもマグメルへとひっそりと通じていきます。深海とマグメルを知りつつある航太郎のあこがれと願いは、やがて強い決意へと変わっていくのでした。
航太郎が深海に灯した瞳の光は、深海生物の生き様やマグメルに秘められた真実を照らし出していきます。彼の優しさと志は『マグメル深海水族館』という作品の道しるべ。水族館の水槽をながめるようにゆっくりと、本のページを開いてみてください。
また、作者の椙下聖海先生のTwitterで、『マグメル深海水族館』本編で使われなかった深海生物の豆知識などが描かれています。漫画本編はもちろん、こちらのこぼれ話も見逃せません。
描かれている深海生物たち
ダイオウグソクムシ/ラブカ/カイロウドウケツ/マッコウクジラ/チョウチンアンコウ/メンダコ/キンメダイ/オンデンザメ/オウムガイ/オオタルマワシ/フジクジラ/
作者のTwitter
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