「女の子同士が手をつなぐ」ことから始まったプリキュアが「男の子同士が手をつなぐ」までに至ったことに祝福をサラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)

» 2018年09月27日 18時00分 公開
[kasumiねとらぼ]
前のページへ 1|2       

あなた方が望むストーリーを僕は生きられない

 第33話「要注意!クライアス社の採用活動!?」では、天才スケーター「若宮アンリ」君を中心にお話が展開されました。

 この若宮アンリ君、出演するたびのプリキュアファンの間で大論争を巻き起こす魅力的なキャラクターなのですが、この第33話では「さらに一歩すすんだ表現が」がみられました。

プリキュア HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア クライアス社 キュアマシェリ キュアアムール ジェンダーレス 若宮アンリ 氷上の王子、若宮アンリ

 アンリ君は「似合っていれば、女性の服でも着る」といった価値観の男性です(自分を「氷上の王子」と呼称していることから、性自認は男性のようです)。

 「自分に似合うから、ドレスだって着る」といったジェンダーレスな感覚を持っているアンリ君。

 第33話では、その男女を超越したルックスと考え方を、大人であるファッションデザイナーの吉見リタ先生が「男・女は関係ない。美しさは全てを凌駕(りょうが)する」「ボーダーレス」と定義づけ、それが彼の魅力である、と評しています。

プリキュア HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア クライアス社 キュアマシェリ キュアアムール ジェンダーレス 若宮アンリ 若宮アンリを「ボーダーレスが魅力」と評するファッションデザイナー、吉見リタ

 しかし、本人はそんな「定義」自体には全く興味を示しません。

 また、マスコミの望む姿にさせられようとしたときには、「あなたがたが望むストーリーを僕は生きられない」と言い放ち、自分は自分であること、他人に定義されることを否定します。

 男とか女とか、ボーダーレスとか安易な言葉で自分をカテゴライズすることはできず、そのどれも本当の自分ではなく、そんなカテゴライズでしか自分を表現できない大人にイラだっているようにも見えました。

プリキュア HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア クライアス社 キュアマシェリ キュアアムール ジェンダーレス 若宮アンリ 一見、完璧な人間に見えるアンリ君ですが……

 そんな完璧な人間に見えるアンリ君ですが、実は繊細な心の持ち主であり、クライアス社からスカウトされ「時間を止めることの幸せ」を示唆されたときに悩むのです(このとき、アンリ君は足を痛めていて、それを誰にも言えずにいるのですよね)。

 アンリ君のセリフを引用します。

  • ボクってなにもの?
  • いろいろなうわさ、カテゴライズ。そこに真実があればいいのに
  • 全てを超越した存在? でも声も低くなったし背もどんどん伸びてる
  • 生きづらい時代だね。みんな他人のことを気にしている。1人になれば、何も気にしないで済むのかな?

 子どもの頃「なんでもなれる、なんでもできる」を体現していたアンリ君は、その体の成長とともに「できなくなること」が増えていくことに恐れを抱いています。(これは輝木ほまれが直面している問題と同じですよね)

プリキュア HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア クライアス社 キュアマシェリ キュアアムール ジェンダーレス 若宮アンリ クライアス社からスカウトを受けるアンリ君

 「足のケガ」のこともあり、「勝ち続けること」に不安を抱いているアンリ君。この先、「時間を止めれば成長も止まって、幸せをずっと維持することができる」というクライアス社の勧誘に乗ってしまう展開になるのでしょうか。

 かつて「自分を愛すること」をプリキュアたちに教えたアンリ君。

 今度は「自分を愛し、他人を愛する」を体現するキュアマシェリとキュアアムールの2人が物語のカギを握っている気がしてなりません。

男の子2人が手をつなぐのに15年掛かった

 その第33話において、若宮アンリ君と愛崎えみるの兄、正人君、2人の男の子が「手をつなぐ」というシーンが意図的に挿入されました。

プリキュア HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア クライアス社 キュアマシェリ キュアアムール ジェンダーレス 若宮アンリ えみるの兄、正人(左)と、若宮アンリ(右)

 本番当日、演技に向かうアンリ君の左手を、正人君が右手でつなぎ「君はできる」と励まします。

 「男子2人が手をつなぐ」このシーンに、ネット界隈(かいわい)もややザワつきをみせました。

 でも不思議ですよね。プリキュアという作品において「女の子2人が手をつなぐ」のは2004年2月1日「ふたりはプリキュア」第1話ですでに表現されています。男の子2人が手をつなぐことはそれと同じことです。

プリキュア HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア クライアス社 キュアマシェリ キュアアムール ジェンダーレス 若宮アンリ 2004年に女の子同士が手をつないでから、14年たってようやく「男の子同士」が手をつなぐ描写が見られました

 「プリキュア」という作品にとって「手をつなぐ」というのは最上級に特別な意味合いを持っています。性愛的な意味だけではなく、博愛、信頼を含めたあらゆる好意的な感情が「手をつなぐ」という行為に収束されているのです。

 なぎさとほのかという女の子2人が手をつないでから14年。ようやくプリキュアという作品で「男の子2人が手をつなぐ」描写が実現しました。

(以前にも例えば「魔法つかいプリキュア!」ではサブキャラクターである「校長」と「クシィ」でも同様の兆候が見られていましたが、その段階をへてようやく、といった感じでしょうか)

 そして「男の子2人が手をつなぐ」という行為は「画期的なこと」でも何でもないのです。

 「ふたりはプリキュア」から15年。ようやくそれが「当たり前の世の中」になってきたからなのでは、と思います。

プリキュアで、多様性を描くこと

プリキュア HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア クライアス社 キュアマシェリ キュアアムール ジェンダーレス 若宮アンリ 小学生女子とアンドロイドという組み合わせのキュアマシェリとキュアアムール

 プリキュアを始めとした子ども向けアニメーションにおいて、ポリティカル・コレクトネス(政治的、社会的な公正)が挿入されることには、僕は大賛成の立場です。

 子どもと一緒にプリキュアを見ることによって、保護者の方の「古い価値観をアップデートすることができる」と信じたいですし、何よりも「見るアニメを自分で選択できる大人」と違い、保護者に視聴を制限される可能性もある子ども向けアニメーションにおいては、せめてその中でも多様な選択肢を提示してあげたほうが良いのでは? と思うのです。

 そういった意味でも、僕はプリキュアという作品で「イジメ」「ジェンダー」「高齢化」「同性愛」など社会的な問題を「直接的に」扱うことに賛成です。

 ポリティカル・コレクトネスに即した表現は、何も「HUGっと!プリキュア」だけに見られるものではありません。過去のプリキュアシリーズでも数多く見られてきました。今作「HUGっと!プリキュア」ではそれが「直接的な」表現で分かりやすく伝えられているだけだと思います。

プリキュア HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア クライアス社 キュアマシェリ キュアアムール ジェンダーレス 若宮アンリ 多様性を内包した5人のプリキュア

 昨今は小さな子どもにも独占できる「1つのモニター」がある時代です。そんな世の中において、日曜日の朝、親子で見られるという環境にある子ども向けアニメーションの社会的な役割は重要であると思われます。

 例えば、プリキュアだけではなく同時期に放送されている、子ども向け(男の子向け)アニメ「新幹線変形ロボシンカリオン」でも「他種族を滅ぼすのではなく、対話をしよう」というお話が展開されています。

 また、2018年3月まで放送されていた「プリパラシリーズ」もプリキュアの3歩先を行くジェンダー観、ルッキズムなどを包括した「多様性」の表現が見られた素晴らしいアニメーションでした。

プリキュア HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア クライアス社 キュアマシェリ キュアアムール ジェンダーレス 若宮アンリ 「異種族との対話」を試みる新幹線変形ロボ シンカリオン(Amazon.co.jpから)

プリキュア HUGっと!プリキュア ふたりはプリキュア クライアス社 キュアマシェリ キュアアムール ジェンダーレス 若宮アンリ 多様性の最先端を走っていた「プリパラシリーズ」(Amazon.co.jpから)

 きっと小さなころから、同性愛も高齢化社会も社会間格差も「大人により定義づけされる問題」ではなく「そこにあるのが当たり前の世界」である、という認識をもった未来の子どもたちは、僕のような「今のオトナ」よりも、きっと、断然に強い存在であると思うのです。

 「なんでもできる、なんでもなれる。輝く未来を抱きしめて」。

 「HUGっと!プリキュア」は、この先、無限の未来を生きていく子どもたちのためのアニメーションです。

 そのアニメーションに教育的配慮がなされることは、未来の子どもの可能性を広げることである、と僕は信じています。


「HUGっと!プリキュア」
毎週日曜8時30分より
ABC・テレビ朝日系列にて放送中
(C)ABC-A・東映アニメーション

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2410/05/news022.jpg 「クレオパトラみたい」と言われ傷ついた55歳女性→カット&パーマで大変身! 「本当にびっくり」「素敵なマダムに」
  2. /nl/articles/2410/05/news040.jpg 伝説の不倫ドラマ「金曜日の妻たちへ」放送から41年、キャストの現在→75歳近影が「とても見えません」と話題
  3. /nl/articles/2410/02/news116.jpg 余りがちなクリアファイル、“じゃないほう”の使い方で食器棚がまさかのスッキリ 「目からウロコ」「思いつかなかった!」と反響
  4. /nl/articles/2410/05/news023.jpg 七五三で刀を持っていた少年→20年後には…… “まさかの進化”に「好きなもの突き進んでかっこいい!」
  5. /nl/articles/2410/05/news018.jpg 野良猫が窓越しに「保護してください」と圧をかけ続け…… ひしひし感じる強い意志と表情に「かわいすぎるw」「視線がすごい」
  6. /nl/articles/2410/05/news012.jpg 「あのお客さんに幸あれっ!」 小銭の出し方が完璧な“神客”にレジ店員感激 会計がスムーズになる配慮が参考になる
  7. /nl/articles/2410/04/news048.jpg 「こういうの好き」 割れたコップの破片を並べたら…… “まさかの発想”で息を飲むアート作品に 「すごいセンス良い」「前向きな考え」
  8. /nl/articles/2410/04/news040.jpg 50代女性「モンチッチみたいにしてほしい」→美容師がプロのワザを見せ…… 別人級の変身に「めっちゃお洒落」「すごい!」
  9. /nl/articles/2410/04/news025.jpg 「これが免許証の写真???」 コスプレイヤーが公開した“信じられない”免許証が話題 コスプレ姿との比較に「両方とも可愛いすぎる」
  10. /nl/articles/2410/05/news032.jpg 大型犬が18年間、ドアを開け続けた結果……そうはならんやろな驚きの末路に「どうしたらこんな風になるのよ」の声
先週の総合アクセスTOP10
  1. ネットで大絶賛「ブラウニー」にカビ発生 業務スーパーに7万箱出荷…… 運営会社が謝罪
  2. 「全く動けません」清水良太郎がフェスで救急搬送 事故動画で原因が明らかに「独りパイルドライバー」「これは本当に危ない!!」
  3. トラックがあおり運転し車線をふさいで停車…… SNSで拡散の動画、運転手の所属会社が謝罪
  4. 「ヤヴァすぎる!!」黒木啓司、超高級外車の納車を報告 新車価格は5000万円超 2023年にはフェラーリを2台購入
  5. そうはならんやろ “ドクロの絵”を芸術的に描いたら…… “まさかのオチ”に「傑作」の声【海外】
  6. 「ウソだろ?」 ハードオフに3万円で売っていた“衝撃の商品”に思わず二度見 「ヤバいことになってる」
  7. 「結局こういう弁当が一番旨い」 夫が妻に作った弁当に「最強すぎる!」「絶対美味しいビジュアル」
  8. “メンバー全員の契約違反”をライブ後に発表 異例の脱退騒動背景を公式が釈明「繋がり行為などではなく」
  9. 「言われる感覚全く分からない」 宮崎麗果、“第5子抱いた服装”に非難飛び……夫・黒木啓司は「俺が言われてるのかな?」
  10. 大沢たかお、広大プールを独り泳ぐ“バキバキ姿”が絵になり過ぎ 盛り上がる筋肉の上半身に「50代とは思えない」「彫刻みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  3. 友人に「100円でもいらない」と酷評されたビーズ作家、再会して言われたのは…… 批判を糧にした作品が「もはや芸術品」と490万再生
  4. 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  5. 「ま、まじか!!」 68歳島田紳助、驚きの最新姿 上地雄輔が2ショット公開 「確実に若返ってる」とネット衝撃
  6. 荒れ放題の庭を、3年間ひたすら草刈りし続けたら…… 感動のビフォーアフターに「劇的に変わってる」「素晴らしい」
  7. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  8. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  9. 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  10. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声