自分たちが吹き替えをしていることが最大の魅力になれば――宮野真守が明かす吹き替えの楽しさと難しさ
映画「スモールフット」でノリノリのお芝居を見せる宮野さんに話を聞いてみました。
声優の宮野真守さんや早見沙織さん、木村昴さん、立木文彦さんらが日本語版吹き替えに名を連ねる映画「スモールフット」が全国公開中です。
同作は、人里離れた雪深い山頂で暮らすイエティたちが、伝説とされている“スモールフット”(=人間)と出会う姿を描いた“モジャかわ”ミュージックファンタジー。宮野さんは、一度はブレークしたものの、三流タレントに転落し再起を狙う人間・パーシーを演じています。
宮野さんといえば、「STEINS;GATE」シリーズの鳳凰院凶真こと岡部倫太郎や「うたの☆プリンスさまっ♪」一ノ瀬トキヤ役、「機動戦士ガンダム00」の刹那・F・セイエイ役などをはじめ、ファンを魅了するお芝居が魅力。そうした意味でスモールフットでのお芝居にも期待が掛かりますが、本人に伝えると「木村昴くんと(木村さんが演じるイエティの)ミーゴが似ているだけでこの作品の勝利は決まった」ととても楽しげ。宮野さんに作品の魅力や吹き替え版に対する思いを聞いてみました。
経験が人間を形成していく――宮野真守の“パーシー”評
―― 数々の作品で多種多様なキャラクターを演じ、お芝居にも定評がある宮野さんが今作に興味を持ったのはどんな部分ですか?
宮野 最初にお話をいただいて、物語の設定などを知ったとき、人間が伝説の生き物、つまりイエティ側からの目線で描かれている斬新な世界設定がすごく面白いと思いました。
その上で、物語の紡がれ方がとてもコミカル&ハッピーで、自然と心が暖かくなる優しさに満ちた作品だなと。ミュージカル風に歌を紡ぐ作品で劇中でがっつり歌うのは僕にとっても初めてなので、ぜひともやりたいと思いましたし、そういう意味で意気込みは十分でした。
―― 宮野さんが吹き替えを担当したパーシーについてはどんな印象が?
宮野 僕、やらせていただくなら絶対パーシーがいいなと思っていました。ちょっと顔も似ているし(笑)、このキャラクターから自分の声が出ているのに何の違和も感じなかったので。パーシーが歌う劇中歌もすてきで、キャスティングされるなら熱唱したいと思っていましたね。
―― キャリー・カークパトリック監督はパーシーについて「愛すべきわんぱく小僧」の雰囲気があるとおっしゃっていましたが、宮野さんから見たパーシーはどんな存在ですか?
宮野 確かに“わんぱく小僧”といえますが、僕は、パーシーというのは経験をへた大人の人間とみました。なぜなら、三流芸能人に成り果てたパーシーが再び輝きを取り戻そうとして、ときに誠実さを欠いたような行動を取るのも、自分が今置かれている状況にすごくあせっているから。手段を間違えそうになるところも人間としては大事な経験だと思うんです。
僕は、経験が人間を形成していくと考えているので、ただわんぱくで無邪気にやるのではなく、さまざまな経験をへてたどり着いた大人の人間としてのパーシーを見せたいなと思いました。僕もうまくいかない時期がたくさんあったから、一生懸命頑張るパーシーの気持ちはちょっと分かるので。
後は、木村さんが吹き替えているミーゴは、体は大きいのにとても純朴で、ものすごいかわいいお芝居なんですよ。ミーゴよりも感覚的には大人なパーシーというのはよい対比になっているんじゃないかと思います。
―― 吹き替えをされて、作品にはどんな印象を持ちましたか?
宮野 コミカルさや暖かさを備えた素晴らしいエンタメが構築されているので、ハッピーな雰囲気を楽しんでもらうのも全然いいと思います。一方で、今作で描かれているイエティと人間という未知の種族間の交流は、いわば“自分と違うものといかに接するか”みたいなもの。それは例えば人間同士でも当てはまりますよね。そういうテーマを内包しているのもいいなと思います。
“合わせて寄り添う”吹き替えの楽しさと難しさ
―― 日本語吹き替えの難しさ、あるいはやりがいを感じた部分はありましたか?
宮野 やりがい、というか楽しさについて先に言うと、吹き替えは原音があるので、向こうの役者さんの素晴らしい演技に合わせて“寄り添う”のがすごく楽しいです。
楽しかったシーンはたくさんありますが、自分でも頑張ったなと思うのは、パーシーがミーゴと初めて対面したとき、驚きのあまり声がカスカスになるところ。原音がめちゃくちゃ面白くて、家で練習しすぎて声枯れちゃいましたから(笑)。現場でも練習の成果を披露したらスタッフの皆さんもすごく喜んでくれて。それくらい合わせていくのは楽しく、喜びを感じます。
一方で、難しさもまた“合わせる”ところです。パーシーはマシンガントークで、起伏の激しいテンションに合わせていくのは体力勝負でした。テンションもしっかり表現したかったし、一音も漏らしちゃいけないと集中していたので、作業は結構大変でしたね。
―― 吹き替えではアドリブのような要素は多分にあるのでしょうか?
宮野 まれに監督の要望でアドリブを入れてくださいと言われることもありますけど、吹き替えでは基本的に少ないですね。どちらかといえば、(台本に)書かれているものを自分の言葉にしてお芝居するのが大事なように思います。台本に書いてあるのに「勝手にしゃべったでしょ宮野」みたいにアドリブっぽく聞こえるのなら、それは自分の言葉になっているということでよいことかもしれませんね。
―― 宮野さんが劇中歌を熱唱する映像も見ました。すごく楽しそうにやっている印象です。
宮野 パーシーはロックっぽく歌うパートもあれば、心情を吐露するように歌うパートがあったり、曲ごとの表情というか、違いを出すのが楽しかったです。歌の中でもいろいろなパーシーが見られるので、歌唱でも感情の流れはすごく大事にしました。
―― ちょっとラップっぽいところもありますよね。ストーンキーパーの吹き替えを担当された立木文彦さんはゴリゴリのラップを披露していました。
宮野 吹き替えのキャストが発表になったときは、他の方がどういう歌があるのか詳しくは知らなかったので「立木さん歌うのかしら?」と思っていたんですけど、まさかラップをされるだなんて(笑)。実際に立木さんのラップを聴いたときは、重厚感あるシーンにふさわしい渋い声で、貴重なものを聴いている感じがして心が震えました。
―― 同作は「ミニオンズ」「怪盗グルー」シリーズを手掛けた原作・音楽スタッフの作品です。宮野さんは「怪盗グルーのミニオン大脱走」でも吹き替えを担当されましたが、今作の吹き替えで作品群に共通する特徴のようなものは感じますか?
宮野 “歌の遊び心”みたいなものを感じます。パーシーが歌う「PERCY'S PRESSURE」も、「誰なんだよ」と言いたくなる謎のダンサーがどこからともなく出てきてパーシーの後ろで踊り出したりするんですけど、そういう遊び心がすごく面白い。音楽でのエンターテインメントの表現の仕方はさすがだと思いますね。
―― その流れでもう1つ聞きたいのですが、宮野さんが“歌の力”を強く感じるのはどういったときですか?
宮野 言語関係なく“国境を越える”ときです。アーティスト活動もさせていただいている中で、海外の方から「楽しみにしています」と言ってもらえたりすると、僕自身は英語も達者な方ではないのに、僕のやっている作品は国境を越えられるんだと無限の可能性を感じます。
そういった意味で、僕は音楽――アニメの仕事もそうですね――で、本当にたくさんの人に自分のパフォーマンスを知ってもらえる機会をいただいたので、そこがやっぱりすごい。いろんな人に伝えたいので、何事も「できない」と一蹴するのではなくて、もっと磨いていかなきゃいけないなと思います。
自分たちが吹き替えをしていることが最大の魅力になれば
―― なるほど。ところで、宮野さんはイエティなどUMA(未確認生物)の存在についてはどう思いますか?
宮野 僕は怖いのが苦手で、オカルトやホラーがあまり得意じゃないんです。小学校のときとか、友達の家に集まって怖い話で盛り上がったりするじゃないですか。雰囲気を盛り上げるために部屋を暗くしたりして。僕は暗闇なのをいいことにずっと耳ふさいでたんですよね。全然聞いてないのに「怖くねーし」と強がったりして(笑)。お化け屋敷も目をつぶって走り抜ける子でした。
とはいえ、僕もファンタジーの世界にいる住人なので(笑)、ファンタジーとしてはもちろん楽しい。今作もイエティたちがモフモフしてかわいいですし。現実的な存在の有無を問われると、僕は「いなくね?」のウエートが若干強いかもしれませんが、ウルトラマンやゴジラは好きなので、そういうのなら実在していてもいいですね。
―― 今作は、吹き替えの魅力を十分に感じられるものになっていると思います。宮野さんが吹き替えで心掛けていることを最後に教えていただけませんか。
宮野 僕は、吹き替えを担当させていただくとき、“自分たちが吹き替えをしていることが最大の魅力になればいいな”といつも思っています。僕らのも見たいと思っていただける芝居をしようというマインドで、最高のパフォーマンスを届けようと。まぁ、今作は、木村昴くんとミーゴが似ているだけで勝利は決まったようなところはあるので(笑)、僕らがのひのびとお芝居している姿を楽しんでいただきたいですね。
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