おっこが自分で気付き、成長していく過程が大事 「若おかみは小学生!」脚本・吉田玲子インタビュー
映画「若おかみは小学生!」の脚本を手掛けた吉田玲子さんにメールインタビュー。吉田さんの作家性にも迫っています。
交通事故で両親を亡くした小学生の女の子・おっこ(関織子)が、祖母の温泉旅館「春の屋」で若おかみ修行に励み、成長・自立していく。アニメーション映画「若おかみは小学生!」(以下、若おかみ)は、そのかわいらしいタイトルとは裏腹にハードかつハートフルな物語で、9月21日の公開以降、劇場を訪れた多くの観客の涙を誘っています。
公開直後には上映を打ち切る劇場が出てくるなど苦戦を強いられましたが、熱心なファンを中心に映画の感想や、主人公のおっこやグローリー・水領といった人気キャラクターのファンアートが次々とアップされるなどSNSで口コミが拡散。反響の大きさに復活上映する映画館も出てくるなど、異例の盛り上がりを見せています。海外でも高く評価され、10月23日には韓国で開催された「第20回プチョン国際アニメーション映画祭(BIAF2018)」の長編部門で、2016年の「君の名は。」以来となる優秀賞・観客賞の二冠を達成しました。
そんな「若おかみ」の脚本を手掛けたのが、現代の日本アニメを代表する脚本家の一人である吉田玲子さん。アニメーションの脚本家としては、1994年に「ドラゴンボールZ」でデビュー。2002年にはスタジオジブリの「猫の恩返し」を担当し、2010年代に入るとテレビアニメ「けいおん!」「ガールズ&パンツァー」「のんのんびより」、劇場版アニメ「映画 聲の形」「夜明け告げるルーのうた」「リズと青い鳥」といった人気アニメを次々と手掛けるなど、アニメファンの間では知られた存在です。
「若おかみ」後も、担当するアニメの脚本執筆に追われ多忙を極めている吉田さんですが、締め切りの合間を縫ってメールインタビューに答えていただきました。上映時間の関係でカットせざるを得なかったエピソードから、おっこを描く上で気に掛けたこと、吉田さんの作家性についてまで、貴重なお話をお届けします。
映画「若おかみは小学生!」概要
交通事故で両親を亡くし、祖母の温泉旅館「春の屋」で暮らすことになった小学6年生の女の子・おっこ(関織子)が、ユーレイのウリ坊(立売誠)やライバルの秋野真月に助けられながら、次々とやってくる変わったお客さまをもてなすために、若おかみとして毎日奮闘する様子が描かれる、笑いあり涙ありの物語。原作は、累計発行部数300万部を突破した講談社青い鳥文庫の人気シリーズ(原作:令丈ヒロ子さん/絵:亜沙美さん)。2018年には全24話でテレビアニメ化された。
悩んだのは「亡くなった両親が夢に現れるタイミング」
―― 「若おかみ」の脚本を担当することになった経緯を教えてください。
吉田玲子(以下、吉田) マッドハウスさんからお声掛けいただきました。
―― 原作を読まれてどういう感想を持ちましたか?
吉田 登場人物たちがとても生き生きとしていて、読後感のよい作品だなと思いました。長いシリーズとなり、愛されているのがよくわかりました。
―― 原作は全20巻の長編小説であり、それを90分でまとめるのは大変な作業だったと思います。当初の脚本では、90分にはとても収まらなかったとのことですが、どのように削り出していったのでしょうか。また、どのエピソードを省いたのか、問題なければ教えてください。
吉田 高坂監督の書かれたプロットの中で、終着点がきちんと見えていたので、大まかな構成にはそれほど苦労しませんでした。ただ、人物の出入りが多いので、短いシチュエーションで登場する人々をどうわかりやすく、かつ魅力的に見せるかにちょっと悩みました。
最終的には、えりかという若い女性客のために温泉を蝋燭(ろうそく)で飾る……という、当初、監督が絵的にやりたいと思われていたエピソードを、コンテの段階で削っていただきました。
テーマをひとつだけに絞ることはしないで、原作にある「両親の死とどう向き合うかということ」「環境も人も変化していくこと」「我を忘れて仕事することで人は変わっていくこと」などを全部詰め込もうと考えました。 ――プロダクションノートで明かされた高坂監督の考え
―― 脚本を書く上で、高坂監督からオーダーされたことはありましたか?
吉田 おっこが虫を最初、イヤがる……というのは監督からの提案だったのですが、最初、食べものを出す旅館に“虫”を出すことに抵抗がありました。
ですが、モデルになった旅館に伺ったところ、きれいな女将さんが朝食の間に出てきた大きな蜘蛛を、そっと両手ですくって外に出していたのを見て、「ああ、これだ!」と思って納得できました。
―― 「若おかみ」のような原作ものの脚本を手掛ける場合、どういったことに気を付けますか?
吉田 この作品ならではの魅力、書き手の方が何を大切とされているか、それをどう描こうとされているかは意識します。映像では実際に時間が流れていくので、その中の流れや緩急、構成には気を配っています。出来事や場所、登場人物たちの感情が、見る人にとって違和感ないようしたいなと思っています。
―― テレビ版や原作とは違い、映画では事故のシーンが衝撃的な映像でもって描かれました。それにより、フラッシュバックのシーンや木瀬親子とのエピソードでは、おっこにより深く感情移入できた観客も多かったのではないかと思います。事故のシーンを入れる案はどのように生まれたのでしょうか。
吉田 当初から、監督が、事故は回想でなく、オンタイムで見せたいとおっしゃっていたので。最後に、木瀬親子が客として訪れることも決まっていましたので、そこはそれほど難しくはありませんでした。亡くなった両親が夢に現れるタイミングをどこにするかの方が、悩ましかったです。おっこの成長と逆行するようなシーンなので。
―― 原作に比べ、祖母やエツ子さんのおっこへの接し方が優しかったように思います。これは事故のシーンを入れたりと、おっこにとってつらい出来事が描かれることのバランスをとる意味があったのでしょうか。
吉田 おっこはまだ小学生で、ちゃんとした職業人ではありません。自主的に旅館をお手伝いしている段階ですし、おっこが自分で気付いて成長していく過程を描くのが大事だと思い、そちらを優先しました。
―― 「若おかみ」は高坂監督にとって初の児童文学であり、インタビューでは「初見で抵抗感がありました」とも語られています。一方、吉田さんはこれまでに「夢のクレヨン王国」「おジャ魔女どれみ」「かいけつゾロリ」といった児童向け作品を手掛けられており、ある意味でアドバンテージがあったとも言えます。脚本や表現などについて、監督から何か助言を求められたりしたことはありましたか?
吉田 たぶん、私に脚本を依頼していただいたのは、原作が女児向けだったからなのだと思うのですが……。高坂監督も「女の子だったらこういうことが楽しいだろう」「こういうことが気になるだろう」ということをたくさん考えていらっしゃいましたし、「かわいい、に挑戦する!」とおっしゃっていたので(笑)、でき上がったおっこや真月やグローリーさんは監督の挌闘の結果だと思います。
―― 一緒に仕事をされる中で高坂監督についてどのような印象を持たれましたか?
吉田 作品づくりに対して真摯(しんし)で、独りよがりでなく見ている人々の事にも思いの至る監督さんだと思いました。
おっこが自分で気付き、考え、決めることが大切
―― 「若おかみ」のような子ども向け作品の魅力について、吉田さんはどのような考えを持っていますか?
吉田 子ども向けでも、光と影、聖と俗、正と悪の両方があるものが個人的には好きです。ちらりとでも物事の半面が見えるような、鏡の奥が少しのぞけるような、扉の向こうに闇が広がっているような……。
自分が子どものころにも、そんな雰囲気にドキドキしたり、ぞくぞくしたり、わくわくしたような気がします。
―― 「若おかみ」では、おっこがあかねに対して顔を赤らめたり、映画には登場しませんがウリケンとの恋模様が描かれたりと異性間での恋が描かれますが、映画では同性であるグローリー・水領との関係が特に密度高く描かれたように思います。高坂監督は舞台あいさつで「仕掛けがちゃんと引っ掛かって」とグローリー・水領の描写に力を入れていたことを明かしていましたが、彼女の活躍というのはもともと吉田さんの脚本にあったものなのでしょうか。それとも監督と話し合う中で生まれたものなのでしょうか。
吉田 プロットを作っているときに、グローリーさんの役割が増えていったような気がします。おばあちゃんや真月ができない、おっこの秘めていた感情を引き出す役回りとして、確かに「引っ掛かって」いったのだと思います。
―― (ネタバレになるので詳細は伏せますが)上の質問に付随して、ここ数年で吉田さんが手掛けてきた劇場版作品を振り返りますと、「ガールズ&パンツァー 劇場版」「リズと青い鳥」「のんのんびより ばけーしょん」と、女の子同士の友情を描いた作品が目立つように思います。異性間よりも女性同士のつながりを描く方が得意というようなことはありますか?
吉田 あまり意識したことはないですが、現実に同性に救われたり助けられたりしたことも多いので、実感をもって描ける……と言うことはあるかもしれません。
―― 吉田さんが手掛けられてきた作品の特徴として、悩みからの解放、心理的に閉塞的な場所からの脱出など、呪縛のようなものから解き放たれる描写がよく見られるように思います。ご自身としてそういった傾向があるように感じられたことはありますか? もしくは、何か一貫した作風があると意識したことはありますか?
吉田 新しい一歩を踏み出す、違う世界の扉を開ける、違う物の見方ができるようになる。人のそうした姿を描くのは基本的に好きです。
自分が物語に助けられてきたように、見てくださった方が「ああ、生きてくって大変だし面倒なこともあるけど、いいな」と思えるようなものが作りたいなとは思っています。
―― 高坂監督は「若おかみ」について「自分の感情をどう抑えるか」というのを描くべきテーマの一つに挙げていました。先ほどの質問で、吉田さんの作風として「解放」というワードを挙げさせていただきましたが、そういった意味では、相反する部分もあったのでしょうか。
吉田 「自分の感情を抑える」……というのは、“時として”ということだと思います。成長すると、周囲の人々にも自分と同じように喜怒哀楽があり、その人なりの立場もあり事情もある……ということが理解できるようになってきます。生きているのは自分だけでなく、ほかの人々や、人間以外のものたちにも生命があることも。そうした中で、自分はどうするべきか……と、おっこも考えたのだと思います。
そして、自分を無理に押し殺すのではなく、“顔で笑って心で泣いて”を選んだのだと思っています。解き放たれることも、やせ我慢も、時と場合によってはどちらも素晴らしいし、美しいのではないかな……と考えています。
―― 公式サイトでは高坂監督の考えについて、「原作の中で監督が重要と思われていることは、現実を受け入れる、そのうえで誰かに喜んでもらうために何かをする、前向きな毎日が自分も他人も幸せにするということ」と述べられていましたが、これは吉田さんの考え方とも合致したものでしたか?
吉田 そうですね。でも、そうできなくて、ぐだぐだしたり、悩んだり迷ったりするのも、人間らしくていいなと思います。
―― 「若おかみ」の脚本を手掛ける中で、何か挑戦したことや自身に課したものはありますか?
吉田 先にも書きましたが、おっこが自分で気付いたり、自分で考えたり、自分で決めることが大切だと思い、他人からの押し付けにならないように気を付けました。
―― ラストシーンをきれいに回収するというのも、吉田さんの作風の一つの特徴なのではないかと感じています。強く意識されていたりするのでしょうか。
吉田 ラストに向けて描き、ラストから立ち返って最初からまた書き直す……ということを繰り返すと、時間配分も含めてどう設計するかを考えざるを得ません(笑)。
―― 最後となりますが、「若おかみ」は、吉田さんのキャリアの中でどういった位置付けの作品となりましたか?
吉田 アヌシーでの上映を見たのですが、海外のかたが、登場人物の感情や行動をちゃんと理解して下さっていて、文化や歴史は違えど、気持ち……って同じなんだなと思いました。そうしたことを再認識させてくれた作品です。
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