医療関係者から批判受けた映画「MMRワクチン告発」、日本の配給会社が公開中止に
関連性を示した研究論文は2010年には英医学誌「ランセット」に正式撤回されており、その論文の中心人物が映画の監督を務めていました。
医療関係者から公開に対し批判があがっていた映画「MMRワクチン告発」について、配給会社のユナイテッドピープルは11月7日、同作の公開を中止すると発表しました。劇中のグラフに問題点があることがわかったためだと理由を説明しつつ、チケット購入者や関係者に向け謝罪しています。
映画「MMRワクチン告発」は、元医師のアンドリュー・ウェイクフィールド氏が監督するドキュメンタリー作品。アンドリュー氏は1998年に発表した共同研究の論文で、麻疹とおたふくかぜ、風疹を予防する「新三種混合ワクチン(MMRワクチン)」には自閉症を引き起こす可能性があると指摘しており、本作では米国疾病対策センター(CDC)がその因果関係を隠蔽した不正に迫る、という内容でした。
しかしその論文は米誌「Newsweek」日本版によると、2004年時点で共同研究者13人のうち10人がワクチンと自閉症の関連性を否定し、2010年には論文を掲載した英医学誌「ランセット」も正式に撤回しました。英国の医事委員会も倫理違反などを理由にウェイクフィールド氏から医療免許を取り上げた、と米紙「New York Times」が報じています。
こうした経歴を持つウェイクフィールド氏が監督を務め、同論文を肯定的に捉えた映画を日本で公開しようとしていたユナイテッドピープルに対し、10月末から医療関係者から疑問の声が相次ぎました。配給会社アップリンクの代表・浅井隆さんはTwitterで、同社でも配給を検討したことがあったものの、専門家に本編を見てもらい意見も聞いた上、配給を断念したことを報告しています。
ユナイテッドピープルはMMRワクチンと自閉症の因果関係については「科学的な証明がなされていない」と承知しつつ、同作における「MMRワクチンの安全性について追加調査や研究が必要」「安全性が確認されるまで、単独接種を推奨する」という点に合理性があると判断し、11月17日に劇場公開する予定でした。しかし次の経緯から公開中止を決定したと公式サイトで説明しています。
作中には、MMRワクチンによる影響を連想させる形で、日本で自閉症患者の数が右肩上がりに増加しているグラフが登場します。日本では1993年に事実上MMRワクチンが中止されているにもかかわらず、グラフではその後も自閉症の数が増え続けていたため、この矛盾についてユナイテッドピープル側はウェイクフィールド監督側に指摘していました。
するとウェイクフィールド氏は、「日本では1994年の法改正により、満1歳からはしかと風疹の予防接種が同時に推奨されるようになった」と説明。映画で推奨しているような3種それぞれのワクチンを単独で接種するものではなく「生ワクチンにさらされる状況」であり、グラフで自閉症が再び増加するのも「はしかと風疹のワクチン接種増加とちょうど比例していた」とし、関わりがある可能性を示唆しました。ユナイテッドピープル側もその背景があるなら問題がないだろうと公開への準備を続け、監督の説明動画を最後に加えることで対応する予定でした。
しかし11月2日に小児科医から「1994年当時、はしかと風疹のワクチンは1カ月ほど間を空けて打っていた」という指摘を受け、ウェイクフィールド氏の説明に疑問を抱くことに。その後多数の文献に目を通し、複数の専門家や厚生労働省を含む機関にヒアリングをした結果、2種混合ワクチン「MRワクチン」の定期接種が2006年に開始されるまでは、1994年以降「はしかと風疹ワクチンの単独接種」が少なくとも推奨されていたという事実がわかりました。
これは監督の主張と食い違うもので、問題点が判明した以上公開は適切ではないと判断、中止することに。「事実確認が遅かったのではないかと指摘されれば、その通りです。医療の専門家でない立場で、難しい分野の映画を取り扱うにあたり、それなりのリサーチはしておりましたが、足りませんでした」とし、公開直前での中止について謝罪しました。
チケットの購入者には返金手続きを行うとのこと。同作からの配給からは手を引きますが、公開中止になった理由を説明する機会として、12日に予定していたジャパンプレミア上映会は「一度限りの上映会」として実施するとしています。
(黒木貴啓)
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