プリキュアも場合によっては“侵略者”となる 価値観の衝突を描いた「スター☆トゥインクルプリキュア」第8話がアツイ:サラリーマン、プリキュアを語る(2/3 ページ)
宇宙の平和のためには、小さいことを犠牲にしても良い?
プリキュアの4人が探していた「プリンセススターカラーペン」はケンネル星の象徴たる「ご先祖様の像」のシッポとして刺さっていました。それをケンネル星の人々は、「聖なる骨」として信仰の対象としていました。
ペンを手に入れたいプリキュアたちはケンネル星人、ドギーにお願いします。
「ドギー、お願いがあるの」。
「聖なる骨をよこせだと!?」。
「私たち、あれが必要なの」。
「ダメだ。あの骨は大切なものだと言っただろ!」。
「宇宙の平和のために無いと困るルン」。
「聖なる骨」はケンネル星にとっても必要なものです。当然拒否されます。宇宙の平和のためにはペンが必要だから像から抜いてしまおう、と提案するプルンス。「全体の幸せのためには、少数を犠牲にしても良い」という功利主義的な提案ですよね。
しかしキュアソレイユ、天宮えれなは「この星の人たちにとって大切なもの。それを奪うってことは、笑顔を奪うってこと」と葛藤します。
プルンスは、それでも「宇宙平和のため」にペンを奪うことを提案しますが、「ものの大切さ、価値観は人それぞれだよ」と、えれなはいくら宇宙平和のためとはいえ、ペンを強引に奪ってしまうことができません。
プリキュアも侵略者になる価値観
そこにカッパード率いるノットレイダーが現れ、ペンを奪おうとします。ノットレイダーは宇宙の支配をたくらむ悪い敵。プリキュアは宇宙を守る正義の女の子。僕たち視聴者はずっとその価値観で「スター☆トゥインクルプリキュア」という作品を見てきました。
しかし、この第8話でのプリンセススターカラーペンを巡る三者三様の攻防は、その価値観を大きく崩すものでした。
自国民の笑顔のため、「聖なる骨」を渡したくないケンネル星住人。
宇宙の平和のため、ペンを手に入れたいプリキュアたち。
宇宙の支配のため、ペンを奪いたいノットレイダー。
祭壇の像に祭られている「聖なる骨」を奪おうとするノットレイダーの幹部カッパード。それに対し、プリキュアは「ペンは渡さない! それは友達の大切なものなんだ!」と啖呵(たんか)を切ります。
あくまで友達のために、ペンを渡すことはできないと戦う意志を見せました。
「お前たちも、このペンを奪いにきたのだろう?」というカッパードの正論に対し、「一緒にしないで! 私たちは……」と反論するプリキュア。
普通ならば、ここでプリキュアと友達になったケンネル星人が一緒に悪をしりぞける展開になるのでしょう。しかし、そこは「スター☆トゥインクルプリキュア」。一筋縄ではいきません。ケンネル星人ドギーは言います。
「一緒だ! お前たちみんな聖なる骨が目当てなんだろ」。
「俺たちから見ればお前たちもあの男も、まったく一緒だ!」。
そうなのです。
「宇宙の平和のために、スターカラーペンを取りにきた」プリキュアも、「宇宙を支配するために、スターカラーペンを奪いにきた」ノットレイダーも、ケンネル星住人から見れば、「聖なる骨」を奪いにきた侵略者に見えるのです。
カッパードが言います。「プリキュアも、この星では招かざる客か」。そう、プリキュアは、このシチュエーションでは「世界に歓迎されていない」のです。
プリキュアという地球のヒーローも立場が違えば「侵略者」。文化はそれぞれの国で培ってきた大切なものであり、その文化の違い、価値観の違いから生まれる衝突を「プリキュアも立場によっては侵略者となりうる」という、強烈なテーゼで子どもたちに示したこと、とても大切なことだと思います
悪いことは謝って、話し合って友達になろう
この文化の衝突、いかに解決したのでしょうか。結局、一方的にペンを奪うことを提案していたプルンスがケンネル星人に謝って、それでも「今だけでいいから、プリキュアを助けてほしい」と願います。その心がケンネル星人を動かし、ペンがプリキュアのもとに渡りました。
(このとき、つるつるのお肌が自慢のプルンスが「毛生え薬」を使って全身けむくじゃらになって危機を回避する、というのもすてきですよね。「相手の文化を尊重、受け入れること」を実践しています)。
プルンスというキャラクター、物語を動かすだけでなく、解説からツッコミから戦闘まで何でもこなすスタプリの名脇役ですよね。自分のイチオシキャラです。
「自分が悪いと思ったら素直に謝ろう」。これも当たり前すぎて忘れがちなのですけど、子どもの社会においては大切なことなのですよね。
結局、ケンネル星の像の「聖なる骨」は代わりのものが見つかり、プリンセススタ―カラーペンは無事プリキュアのもとに行くことに。「てんびん座のスターカラーペン」らしく、2つの文化をてんびんにかけてきっちりとバランスを取りました。
最後にえれなが「聖なる骨、大切にするよ」と、「スターカラーペン」ではなく「聖なる骨」って単語を使っているのも良いですよね。相手の文化をきちんと尊重しています。
この先社会に出る子どもたちへのメッセージ
いくら自分が正しいと思う行為でも、相手からすれば必ずしもそうではない可能性がある。まずはあいさつして友達になって、自分と友達の思いが衝突しちゃったら、まずは友達の立場になって見てみよう。友達の心を理解するように努めてみよう。仮に自分に非があると感じたのであれば、素直に謝ろう。お友達とのコミュニケーションはそこから始まるのですよ。
今回示されたのはプリキュア世界の「異文化間のコミュニケーション」だけではなく、実際にプリキュアを見ている未就学児、すなわち「ずっと家の中で家族とのコミュニケーション主体だった子どもたち」が、幼稚園や小学校などの「外の世界」への第一歩踏み出したとき、新しいお友達に出会ったときに立ちはだかる問題なのです。そんなとき、きっとプリキュアからのメッセージは大きな意味を持つのだと思います。
「自分の知らない世界で違う文化と接するとき、どんな風にお友達になれば良いの?」。
「まずはあいさつをして友達になって、相手のことをたくさん知って、自分の意志も伝えよう」。
これは、プリキュアを見ている子どもたちへのメッセージ。そんなメッセージをきちんと子どもたちに向けて発信してくれるプリキュアというアニメーションは本当に素晴らしいのだと思います。
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