神戸地検、「ブラクラ貼った」と書類送検された男性2人を起訴猶予処分に 「ウイルス罪に該当」との認識は変わらず
被害者は“0人”だったというこの事件について、当事者の男性2人を取材しました。
インターネット上の掲示板に「不正なプログラム」を書き込んだとして検挙された39歳男性と47歳の男性に対し、神戸地検が起訴猶予処分とする見通しであることが5月27日、関係者への取材で分かりました。
ブラクラ事件のあらまし
猫のアスキーアート(AA)とともに、「何回閉じても無駄ですよ〜ww」と書かれたポップアップが繰り返し表示されるサイトのURLをインターネット上の掲示板に書き込んだとして、13歳の女子中学生が補導、39歳と47歳の男性が家宅捜索を受けたとの報道がなされたのは3月初旬のこと。一部では掲示板に貼られたURLが「ブラウザクラッシャー」(通称:ブラクラ)にあたるとの報道もありましたが、問題視されたURLを確認してみると当該プログラムにブラウザをクラッシュさせる機能はなく、厳密には「無限アラート」へのリンクであり「ブラクラではない」という意見の人が多くみられます。
またポップアップについてもタブを閉じてしまえば消せることから大きな害はほとんどなく、いたずら目的のジョークページとみる人が大半ですが、女子中学生ら3人は「不正指令電磁的記録供用未遂の疑い」(通称:ウイルス罪)で兵庫県警の摘発を受けました。
神戸地検は「起訴猶予処分」と判断
ねとらぼ編集部では2019年3月に当事者の1人である39歳の男性を取材。掲載記事(「あなたブラクラ貼ったでしょ?」→39歳男性を書類送検 検挙男性が明かす「兵庫県警“決めつけ”捜査の実態」 )の中で、兵庫県警が「あなたブラクラ貼ったでしょ?」「あなたがやったことはこれだけ大きな罪なんですよ」と、男性が貼ったURLがブラクラであることなどを決めつけているかのような取り調べを展開していたことなどをお伝えしてきました。
その後、男性は5月9日に神戸地検に出頭し、取り調べを受けました。担当検事は兵庫県警と男性とのやりとりを把握していたと言いますが、「特定のスマホ機種で該当URLをクリックすると、なかなか画面が閉じられなかったり、場合によっては修理が必要になったり、専門家への対応を依頼する必要となる可能性があるため、これがウイルス罪を成立させる要件の1つ『人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録』の『意図に反する』の部分に抵触する。そのため(男性の行為は)ウイルス罪に該当する」との認識を示したと言います。
また男性によると、担当検事はネット上に残されていた情報をもとに判断したと話していたと言いますが、該当URLが「ブラクラ」に該当するのかどうかについては明言せず、5月27日に「不正指令電磁的記録の容疑はあるが、諸般の事情により、起訴猶予処分にする」との方針を固めました。
検察が下した「起訴猶予処分」とは?
今回の起訴猶予処分とは、被疑者が犯罪を起こしたことは間違いなく、起訴をすれば有罪となる可能性が限りなく高いが、犯罪事実自体が軽微なことや本人が深く反省しているなどの場合、そうした事情を考慮して起訴を見送る、というものです。
「被害者は0人」だった39歳男性の事件
39歳男性(以降、Aさん)が起訴猶予処分確定後にあらためてねとらぼ編集部の取材に応じました。
――現在の心境を率直に教えてください。
Aさん:検察側が、「アラートループのページへ飛ぶURLを貼り付ける行為が不正指令電磁的記録供用罪に該当する」という主張を変えなかったことについては非常に残念ですが、不起訴処分(起訴猶予処分)が決定したことについては大きな前進になったと思います。処分が決定するまで僕や家族は不安で眠れない日々が続いておりましたので、家族一同、今夜から安心して眠ることが出来そうです。
――前回の取材時には兵庫県警の決めつけ捜査についてのお話を伺いました。
Aさん:いろいろと言いたいことはあるのですが、一番印象的だったのは、女性刑事が私の携帯電話に白バイの動画などが入っていたことをきっかけに難解なこじつけを展開したことです。
――詳しく教えてください。
Aさん:もともと警察車両が好きで、白バイなどの動画を好んで見ていたのですが、それを知った女性刑事から「警察に好意を持ってくれているんだ。これだけ警察が好きだったら、今回の事件も『相手を懲らしめてやろう』と思ってやったんじゃないの?」と聞かれたんです。
というのも今回私がURLを貼ってしまった掲示板では「(児童ポルノの)動画貼れやボケ」という書き込みがされていて、それに返信する形で私が該当URLを貼り付けてしまっていたからでした。私としては「児童ポルノを貼れだなんてひどい書き込みだなぁ」「以前見かけたURLを貼り付けて、クリックしたらビックリするかな?」というくらいの感覚だったのですが、それを女性刑事は「間違った正義感を持って該当URLを貼り、相手を懲らしめてやろうと思った」という風に解釈し、最終的には押し切られた私もそういう内容の調書にサインをしてしまいました。今ではこのサインは誤りだったと反省しています。
――ほかにも気になった点はありますか。
Aさん:兵庫県警が該当URLについて、「ブラクラである」という表現を何度も用いていたことに加え、「マルウェアの一種だ」と説明していたのは違和感がありました。また書類送検後の検事からの連絡も少しひどいところがありました。
――確か最初に担当する予定だった検事と、今回取り調べを担当した検事は別の人なのですよね。
Aさん:そうです。当初私を担当しようとしていた検事から「来週来てください」という連絡があったのですが、あまりにも急過ぎたことや私は地方に住んでいて、兵庫県に行くためにはある程度の費用が必要だという事情があったので、「すぐには行けません」と返答したんです。そうしたら「青春18きっぷで来ればいいじゃないですか。安いですよ」と、さも当然という感じで話されまして。私が住んでいる場所から「青春18きっぷ」を使っていくなどというのは、途方もない時間がかかるので現実的ではないことなのですが、ちょうど4月に検事の異動があるということで「どうしてもこの日までに来るように」と譲りませんでした。人の人生を異動の都合で決めるのか、とショックでした。
――その後はどうなりましたか。
Aさん:ありがたいことに、「日本ハッカー協会」さんが呼びかけた寄付で集まった支援金から弁護士をつけていただけることとなり、弁護士と検事が話し合った結果、取り調べ日を変更していただけました。
――検事の取り調べの中で「意図に反する」という部分に該当するからウイルス罪に該当するというような話があったそうですが、実際に今回貼ったURLを踏んで被害に遭った方はいたんでしょうか。
Aさん:その点については私も確認しましたが、被害者は0人とのことでした。
――今回の経験を踏まえ、最後に一言お願いします。
Aさん:今回、私たちにアドバイスや支援をしてくださった加藤公一さんをはじめ、日本ハッカー協会の皆さん、私と47歳の男性を支援するために寄付してくださった皆さん、応援してくださった皆さんには本当に本当に感謝しています。特に寄付については、進捗を聞いており、皆さんに一刻も早くお礼を言いたい思いだったのですが、弁護士と相談の上、処分確定までは公式的な発言は控えてきました。あらためて厚く御礼申し上げます。
47歳男性、「一緒に検挙された13歳の女子中学生のメンタルが心配」
また今回の処分決定を受け、47歳男性(以降、Bさん)もねとらぼ編集部の取材に応じました。
――検挙に至るまでの経緯を教えてください。
Bさん:私は2018年9月にアラートループを貼り付けた疑いで2019年3月初旬に検挙されました。私がよく利用している掲示板には多種多様な人たちがいろいろな系列のURLを張り付けており、その流れでイタズラスクリプト(該当URL)を投稿したのですが、当時は10年ぐらい前に流行ったアラートループを偶然見つけたことで「懐かしい」という思いや、猫のアスキーアートにかわいいという認識があり、悪意はありませんでした。
該当のURLを貼り付ける前には自分でもいろいろと調べて、タブを閉じれば消えることなどを確認していたので、「どうせ昔からあるイタズラだし、(URLを踏んだ人から)かわいいって言ってもらえるかな」ぐらいに考えていました。
――検挙時の様子を教えてください。
Bさん:兵庫県警が訪ねてきたのは早朝6時30分ごろでした。「ちょっと出てきてください」と言われて外に出たら、「家宅捜索令状」と車の「差し押さえ令状」を見せられて。その後は「携帯電話とPCを提出するように」と言われたり、「ブラクラ貼ったよね?」と聞かれたりしましたが、ピンとこないし、見ず知らずの他人(警察官)が複数人で部屋にあがってひそひそ話をしているしでパニックでした。当日中に最寄りの警察署で事情聴取を受けることとなり、そこで「不正指令電磁的記録供用未遂の疑い」という話が出てきましたが、一体何の件で摘発されているのか、「不正指令電磁的記録」が何なのかずっと分からない状態が続きました。
――該当URLの話だと分かったのはなぜでしょうか。
Bさん:私が貼り付けた猫のアスキーアートを見せられたからです。「これはブラウザクラッシャー(ブラクラ)じゃなくてイタズラプログラムです」と説明しましたが、「これを貼ることはウイルス罪未遂になる」と言われました。また調書を書く際には、兵庫県警の刑事が繰り返し「該当URLを見つけた際に懐かしいと思って“悪知恵が働き”、掲示板の人たち見せようとした」だとか「“悪意”をもって投稿しようと思った」というような文言を入れようとしたのですが、自分としては全くそんなつもりがなかったので、否定し続けました。
それでも言葉巧みに「悪意があった」「悪知恵が働いた」という話を調書に入れようとしてくるので、次第に「早く帰りたい」という思いが募っていきました。それにその日は取り調べのほかに、指紋と写真も撮られまして。「私がやったことは犯罪なんだな……」とひどく落ち込みました。
――取り調べで気になったことはありますか。
Bさん:私から、「該当URLを貼る行為がウイルス罪に引っかかるのなら、どういった部分が引っかかるのか詳しく教えてほしい」と頼むと終始はぐらかされたのは疑問でした。結局翌日も取り調べを受けて、書類送検をすると聞いたので「検事さんにも会うことになるのか」と尋ねると、この質問にも「分かりません」と曖昧な回答でした。
――検挙された後、生活で変わった点はありますか。
Bさん:とにかく毎日が憂鬱で仕方がありません。この年齢で自宅に警察がやってきて、自分の車に指さしする写真を撮られたりしていると、近所の人が不審な目で見てきますし、親族や同僚の中にも一部私が検挙されたということを把握している人がいます。また検挙直後は私たちが悪意を持ってURLを貼ったことを認めているというような、事実と異なる報道がされていたこともあり、精神的に落ち込んだり、不眠の症状が続いたりして頭痛がやみませんでした。
なんとかカラ元気を出して職場に向かっても徐々に体が悲鳴を上げていき、だんだん自分が何を悩んでいるのかが分からない状態になっていって、夜中にずっと散歩をしていたこともありました。本当につらかったし、今も精神的なショックは癒えていません。
――5月初旬には検事調べもあったそうですね。
Bさん:皆さんからの支援でお願いできた弁護士とともに神戸地検に出頭しました。その際、「今後このようなことは二度としませんよね?」という質問が何度もあったのですが、「他人に自分が見つけたURLを教えることはもう2度としません」と約束することはおかしいと思ったので、最終的に検事調べでの調書にはサインをせず帰りました。
――起訴猶予という処分が出たことについてはどう感じていますか。
Bさん:いやだな、と思ったというのが率直な心境です。結局処分が出た今でも、私の行為が刑法のどの部分に触れたのか。何をしたから検挙されたのかがすごく曖昧なままです。それなのに、私の行為は罪だと言われる、この状況がとてもつらいです。
今回、私が検挙された際、兵庫県警の刑事から「被害者は0人だが、サイバー月間だから摘発した」「あなただけを攻撃したわけではない」というような説明がありましたが、私からすれば兵庫県警も神戸地検も曖昧な法解釈で捜査をして、曖昧な処分を出した似た者同士だと思っています。
今でも私の行為のどの部分に問題があったのかを説明してほしいと思っていますし、万が一間違った解釈をしてしまったのであれば素直に「ごめんなさい」をしてほしいと思いますが、現実にはそれは難しいでしょう。今後は第2、第3の私が生まれないよう、警察や検察には「本当に刑法に適用される事案なのか」を慎重に検討してもらい、独自の法解釈を行わない体制を築いてほしいと思います。
また、最後にもう一つだけ言いたいことがあります。
――なんでしょうか。
Bさん:私の場合、Twitterやネットを通じて、空色即是さん、高木浩光さん、とつげき東北さん、加藤公一さんなど多くの方が支援をしてくださいました。しかし、私やAさんとともに検挙された13歳の女子中学生についてはどういった対応がとられたのかが明かされていません。私たち大人でさえもかなり大きなダメージを受けた事件です。近くに相談できる人や理解をしてもらえる人がいればいいのですが、私にも同じぐらいの年頃の子どもがいますので、彼女のメンタルをすごく心配しています。ご本人や周囲の方がこの記事を見てくれるかどうかは分かりませんが、私は今回のことは兵庫県警によるノルマ稼ぎのための行きすぎた捜査が招いたことと捉えています。どうか女子中学生やその周囲の方にも上手に解釈してもらい、心に傷が残らないようにと願っています。
(Kikka)
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