“メシ”を通して危険な相手を取材する 「ハイパーハードボイルドグルメリポート」と「ウシジマくん」が描く“ヤバいやつらの世界”(1/4 ページ)
「個人がSNSで訴えても届かない声を伝える力が、自分達にはあるじゃないですか」
「実家が薬剤師で、温室育ちなのがコンプレックスだったんですよ。それで不良っぽいこともいろいろやったんですが、真っ黒だって言われてる奴は本当に黒いのかなっていう気持ちが今の番組につながってたりします。『世の中は白黒はっきりしないだろう』っていう感じというか」
リベリアの元少年兵やアメリカのギャング、ロシアのカルト教団などなど、世界のヤバい奴らはどのような飯を食っているのか……。危険と隣り合わせな場所に暮らす人々の「食事」にフォーカスした異色のドキュメンタリー「ハイパーハードボイルドグルメリポート」。そのプロデューサーである上出遼平は、自分が危険な現場に飛び込んでいく根本的な理由は、自身のコンプレックスだと語る。
ヤバい現場に体一つで入り込んでいくのは、強い動機と心構えが必要となる。コンプレックスを動機にその取材をこなしてきた人間は、一体何を考え、どのように作品を作り上げているのか。今回、新作「ウルトラハイパーハードボイルドグルメリポート〜ヤバい世界のヤバい奴らのヤバい飯〜」の放送にあわせて対談をセッティング。裏社会への取材を繰り返して作られた『闇金ウシジマくん』の作者である真鍋昌平を迎え、“危険が伴う現場取材”にまつわる、当事者だけが分かることを語ってもらった。常人が足を踏み入れるのをためらう現場に通いつめる彼らは、一体何を感じ、何を考えてきたのだろうか。
「ウシジマくん」と「ハイパー」、2人の作者は飲み友達
――そもそも、この二人ってどういったご関係なんでしょうか。
真鍋: 現担当編集者の豆野さん(関連記事)が知り合いだったんです。豆野さんから面白い番組の制作者の上出さんと一度会ってみないか? と。それで、初めて紹介されたときは既に自分は泥酔してて……。
――何年くらいの付き合いなんですか?
上出: 1年……? そのくらいは経ってます。
真鍋: そんな最近でしたっけ?
上出: われわれ、記憶がちょっとアレなんですよね……海馬が……。
真鍋: アルコールでダメになっちゃってる(笑)。
※編注:実際に2人が初めて出会ったのは2018年4月。新宿ゴールデン街にて。
上出: 僕は真鍋さんってもっと怖いと思ってました。なのにサングラス取ったときのお顔がちょっと優しい。でもやっぱり人の暗い部分とか見てるんだろうな……って警戒してたんですよ。そっからしばしばご一緒させてもらって、毎回先に酔いつぶれて寝てるんで、これは安心できる人だなと。これが人間を安心させるテクニックなんじゃないかという気もするんですけど(笑)。
真鍋: 取材で飲む際は、泥酔してもいいようにずっと録音だけは回してるんですよ。最初に「録音していいですか?」ってレコーダー回して、そのままつけっぱなしにしちゃう。
上出: テクニックですね。
真鍋: 基本的には録音していいか伺うんですが、場面によっては言わずに回しちゃうときもあります。
――それって、バレたら怒られますよね?
真鍋: 怒られます。もうバレたときには、謝るしかないなと思ってるんですけど。
ほぼ偶然だった、「ハイパー」ができるまで
真鍋: 「ハイパー」ってなんでできたんですか?
上出: 基本的に新番組って、編成局がジャッジするんです。僕の企画は一度も通ったことがなかった。それと別に、制作部のプロデューサーたちが選ぶ若手チャレンジ枠がまれにあって、そっちに出したら選んでくれました。
――王道ではないルートなんですね。
上出: そうじゃなかったら成立してないです。似たような企画は昔から提案してたんですけど、「どこが面白いの?」と言われたときに今までにない番組ってどうしても説明しづらくて。でも企画を選んでくれたプロデューサーは僕に近い人たちだったんで、そこで信じてくれた。
真鍋: 自分の中で「いけるな」っていう確信はあったんですか? あれってグルメ番組じゃなくて、ご飯を通してそこに住んでいる人たちの気持ちとか生活とか人の本性を浮き彫りにしてる番組じゃないですか。そのへんをうまく表に出せるという予感はあったんですか?
上出: 予感はありましたけど、不安でしたね。今までいろんな国で仕事をする中で、そういう人たちにくっついてったら面白いなとは思ってました。でも何が撮れるかは分からないから、企画が通ったときは怖くて震えましたね。成立するか分かんないし、そもそも危ないし。
――1人で危ないところに行くのが前提の番組ですもんね。
上出: 企画書に「テレビクルーでは入れないところに僕1人なら入れます」って書いちゃったんですよ。人数がいたら警戒されて入れないけど、1人なら今まで撮れなかったものが撮れますと。それが通っちゃったから、やんなきゃいけない(笑)。
真鍋: 例えばYouTuberの人たちってけっこう危険なことをやって、この後どうなるんだろうって予測がつかない感じがあるじゃないですか。「ハイパー」はあの予測できない感じがちょっと似てると思います。テロップとかで全国区の作りになってるけど、そういうハラハラ感は時代に合ってると思ったんですよね。
上出: 何が起こるか分からない感じは意識してますね。テンポも、僕の番組はYouTubeに近い速さでやってます。テレビは現象が起こったら、それを説明するカットが入るんですよ。それが僕の番組ではほとんどない。取材の現場で僕は何も説明されてないんで、番組でもそのまま行っちゃう。説明過多のテレビはもういいじゃないか……と思っています。
真鍋: 上出さんって面白いなと思うツボが明確にあるじゃないですか。あの番組でも、流れるように「こっちは面白そうだな」っていう方向に行きますよね。
上出: ロケも編集も頭はなるべく使わないようにしてますね。編集も頭使うと分かりやすくなって料理上手になっちゃうんです。素材をバコーンって中華鍋に入れて、ドーンとそのまま出したい(笑)。やけに長いおっさんの顔のカットとかが入ってるのは、その場で僕が感じたままを出したいっていう気持ちからです。
本当に1人で行って1人で撮影している「ハイパー」
――お二人は危ない現場に取材で行くこともあると思うんですが、そういうときの度胸はどこから発生するんでしょうか?
真鍋: やっぱり興味が勝つ感じですよね。でも、あの墓場で暮らしてた元少年兵とか怖いじゃないですか。
上出: 怖いですよね……。でもアドレナリンが出て突っ込んでっちゃうのが一番怖いんで、常に怖がらないといけないってのは意識してます。絶対撮ってこなきゃって興奮してるときが一番危ない。
真鍋: あれって1人で行ってるんですか?
上出: 1人です。向こうに着いたら現地のコーディネーターつかまえてますけど。リベリアでは膝に水がたまってて全然走れない50歳のおじさんと一緒に行きました。
――上出さんは取材前の段取りとかってどうしてるんですか?
上出: コーディネーターに関しては、僕の番組はけっこう時間をかけて関係を作るんですよ。ディレクターとコーディネーターの信頼関係が何より大事で、そこを裏切られたらもう死んじゃいます。「ハイパー」の前に世界に行く番組をやってたんですけど、そのときは日本人のコーディネーターと一緒に行って、その日本人のコーディネーターが現地のコーディネーターを雇って、3〜4人体制でロケをしてたんです。そこで関わるドライバーらと連絡先を交換して、その後コーディネーター抜きで僕とドライバーだけでロケができるようにして。それをこの4〜5年ずっとやってきました。結局ドライバーの方が現地の事情に詳しくて優秀だったりするんですよ。
真鍋: それに気がついたきっかけってなんだったんですか?
上出: ある時期、会社を辞めたくて仕方なかったんです。辞めてからも1人で仕事が成立するようにしておきたいと思ってたんで、それでですね。
真鍋: なんで辞めたかったんですか? 上出さんっていわゆるテレビっぽい番組とか、あんまりやる気ないのかなって思ってたんですけど……。
上出: ともすれば暴力になるようなことがテレビってけっこうあるんです。テレビってある現象を切ったり貼ったりするんで、その見せ方でもう全然違う見え方になってくるんです。いろんな番組で「そっちの見せ方はしたくない」ということが多くて。対象と向き合って撮影して、編集をするときに「思ってたのと違うな」ってなるのが歯がゆいし不誠実だなと。でも組織にいたらそれはやむを得ないし、それが嫌なら1人でやるしかないと思ってました。
――もう辞めて1人でカメラ持って行って帰ってこようっていう腹づもりだったんですね?
上出: 完全にそうです。それが図らずも実現できたのが「ハイパー」ですね。組織に所属してる状態で自分がやりたいことができてるんです。テレビで学んだこともたくさんあるし、テレビで得た仲間と今仕事ができているんで、1人ではこの番組は作れませんでした。やっぱりテレビってまだリーチさせるパワーがあるんですよ。それを捨てるのは、自分が何かを実現したいというときには賢いチョイスではないですね。だから、今すごく恵まれていい状態になっているなと思います。
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