焦がれた相手を葬り去るたった一つの冴えたやり方 Lv.もちこ:美しいだけの国 ――東京レッドライン(1/2 ページ)
エメラルド――#2。
山手線の列車で暴漢に襲われ怪我をした。顔面は裂傷しているが大したことはない、問題は頭部の損傷で大事に至らなければいいがと言われた。
美しい楕円状の筐体に入りながら、私は奇妙な安心感にとらわれていた。顔は最悪皮膚移植で何とかなるだろう。しかし出血がある場合、このまましばらく家に帰れないかもしれない。連続的に回転しながら水素原子をコンピュータ上に再現する近未来的な機具に身を委ねながら、私は小さくため息を吐いた。
『愛は元素に還元されない』
あなたの肉体は主に11の元素で構成されている。
水素。炭素。酸素。窒素。リン。イオウ。亜鉛。ナトリウム。etc。
感情を司る脳の断面図を眺めながら、考える。
物質で愛を感じることが出来たらどんなに楽だろう。
物質とは肉体である。下世話な話セックスである。
極端な話、肉体的な交流のみで愛を感じることができたら簡便である。
にもかかわらず、なぜかわれわれ人類はそれをしない。むしろ進化の過程で、セックスを忌避すべき対象として禁忌の領域に追いやっている。
「あなたが本気で付き合ってくれたら他の人なんていらないのに」
そう言われたことがある。コンビニで売られている雑誌の表紙を飾るような存在だった。魅力的な相手だったが、私の他に5人ほど継続的に性的交渉をもつ相手がいた。愛人契約で万札を本の栞がわりにしておくような異性を、自分に変えられるとは思えなかった。そもそも、変える必要性も感じなかった。変えることが正しいとも思えなかった。私は極力相手の私的な事柄には立ち入らないようにしてた。
『むしろそうした相手を愛せる自信がなかった、自分の方に問題があったように思える』
当時の手帳には、そんな風に書き記してある。が、その言葉はうそだ。私は未熟だった。愛せる自信がないのではなく、自分の魂が裂傷するのが恐かったのだ。それが頭部の損傷のように大事に至る可能性を忌避していた。要するに自分を守っていたわけだ。
肉体的な愛。だがその愛とは即物的なものだ。
即物的とはすぐに消滅するという意味である。
にもかかわらず、なぜわれわれは肉体的な愛に制約を受けるのだろう?
拘束力を働かせようとするのだろう?
束縛しようとするのだろう?
永遠を感じようとするのだろう?
単なる性的交渉に意味はないと感じてしまうのだろう?
焦がれた相手であればあるほど虚無感に襲われるのはなぜだろう?
なぜ行為で付いた魂の傷痕はいつまでも消えないのだろう?
私は鉄道警察隊の前で自分の倍ほどはある年齢の男を泣きながら謝罪させ、録音レコーダーを回しながら訴訟の可否を選択し、医療点数のかさむ救急車ではなくタクシーを選択するという冷静な判断を下しながら、傷痕が付かなければあらゆる行為は無価値なのだろうかと考えた。
「綺麗だ」
大輪の花びらのように輪切りにされた空白の投影画像を眺めながら、医者は言った。そこにあるのは虚無だった。心のない孤独が頭蓋の真空の容器に浮かんでいるようだった。傷一つ付いていなかった。ホチキスで強引に継ぎはぎされた外側の頭蓋には傷があるのに、内部にはまるで傷がない。感情は恐怖に苛まれているのに、目に見えない。存在しない。存在しないかのように見える。無意味であるかのように見える。
ところで最近、記憶が脳の外部にあるという話を聞いたことがある。
科学における知見で、プラナリアという生物は脳以外の場所に記憶があるらしい。心は腸にあるのではないか、という説もある。臓器移植に伴う記憶転移は比較的知られた事例である。
感情とは記憶の集積であるとプラトンは言った。
記憶がもしわれわれの頭蓋ではなく、肉体に宿るなら、感情もまた論理的には、器官に宿る。
性的交渉に意味はない。虚しさが残る。
どのような事柄も時間的経過にともなう虚しさとは切り離せない。
言葉の交流にも意味はない。虚しさが残る。
だがその虚しさの蓄積だけが現実に生きる感情の虚数を反転させる。
あの一瞬。
そこに愛はあったのである。
確かに永遠は存在したのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
昨日の総合アクセスTOP10
眠くなった子猫が、飼い主のお布団にやってきて…… 胸キュンな行動に「まじ天使」「とけてしまう」の声
冨永愛、目元そっくりな15歳長男の写真公開 母を上回る長身に「もうかなり背は伸びたのに……」
「ゾクッときた」「もはや呪具」 家から出てきた「高1のときのノート」が“えぐい”とTwitterで話題に
「すでに完璧スタイル」「足が長すぎる」 冨永愛、7歳当時の完成された“モデル体形”に驚きの声
猫「ヒイィィィッ!」 恐怖におののくような猫ちゃんの表情が面白かわいい
深夜屋外で娘をあやしていたら…… 家の前で職質を受けてしまった話に「ほっこり笑った」「いいパパだ」
【なんて読む?】今日の難読漢字「摘入」
これがパリコレを歩いた脚……! 冨永愛、国宝級の“生美脚”に「日本の宝」「半端ない存在感」の声
「お前なにを人の足ばっか見とんじゃ!」 ガラスの靴を履いてくれない毒舌シンデレラ VS ポンコツ王子の童話が新解釈
確定申告が面倒すぎて異世界に逃亡するも…… 「投げナイフは消耗品費」「装備は経費」結局逃げ切れない漫画に涙
先週の総合アクセスTOP10
- 指原莉乃、すっぴんからのメイク動画が1日で100万再生を突破 「プレゼンがすごく上手くてビックリ」と高評価も続々
- お水を飲みたいカラスさんがとった行動とは……? 人間に“ある方法”でお願いするカラスが賢くてかわいい
- 菊地亜美、体調不良の原因は「赤ちゃんと同じような大きさの…」 RIZAP10キロ減から2年で襲った悲劇
- アンガ田中、「みなおか」で買わされた“高級腕時計”を披露 438万円→800万円に価値高騰で「欲しがるコレクターもたくさん」と反響
- 息子が「パパ」と言って指さしたのは……? 親子でバスに乗ったときのエピソードを描いた漫画がジワジワ面白い
- アントニオ猪木、“リハビリ中”の現在の姿を公開 激励相次ぐ「猪木さんは不死身の漢や!」「負ける訳ないやないか」
- 「綺麗で腰抜かした」「シワ少ない!!」 67歳の研ナオコ、華やかメイク動画で披露したすっぴん姿に反響
- 実家に「ねこ様元気?」と聞いた結果…… やりたい放題のお猫さまが笑ってしまうかわいさ
- 保護した子ネコに「寂しくないように」とあげたヌイグルミ お留守番後に見せた子ネコの姿に涙が出る
- インコさんが逆さまのまま「すやぁ……」 衝撃の寝相で爆睡するインコが面白かわいい
先月の総合アクセスTOP10
- 「訃報」「愛猫」「手風琴」って読める? 常用漢字表に掲載されている“難読漢字”
- 痩せたらこんなに変わるのか 丸山桂里奈、現役時代の姿が別人過ぎて「誰かわからん」の声殺到
- 保護した子ネコに「寂しくないように」とあげたヌイグルミ お留守番後に見せた子ネコの姿に涙が出る
- セーラーサターンの変身シーン、四半世紀を経てアニメ初公開にネット湧く 「ついに公式が」「感謝しかない」
- 「髪型体型全て違う」 丸山桂里奈、引退直後のセルフ写真にツッコミ 4年前のスレンダーな姿に「今も輝いててかわいい」の声も
- 鳥取砂丘から古い「ファンタグレープ」の空き缶が出土 → 情報を募った結果とても貴重なものと判明 ファンタ公式も反応
- 「マジで助けてくれ」 試験中止で教授に“リスのさんすうノート”を提出することになった大学生に爆笑
- 「140秒とは思えない満足感」「なぜこれだけの傑作が埋もれているのか」 崩壊した日本を旅する“最後の動画配信者”のショートフィルムが話題
- 「化粧! 今すぐ落としてこい!」 男性教師に怒鳴られる生徒をかばう女性教師を描いた漫画に納得と感謝の声
- 畠山愛理、いま着たらピチピチなレオタードを公開 「とんでもなく可愛い」「見惚れてしまいました」と反響