森永卓郎が解説〜過去最高益のなかでセブン&アイが大リストラする本当の理由
「物を買いに出かけなくなった」。
「垣花正 あなたとハッピー!」(11月13日放送)に経済アナリストの森永卓郎が出演。大手グループセブン&アイ・ホールディングスのリストラ策と、それに関連して小売業の実情、ネット通販がもたらしている影響について語った。
セブン&アイが3000人リストラ、大量閉鎖
10月10日に発表されたニュース、流通業界の大手、セブン&アイ・ホールディングス。ここは西武百貨店やそごう、イトーヨーカドー、セブンイレブンを傘下に持つ日本最大の流通グループなのですが、大きなリストラ策を発表したのです。百貨店では2020年8月〜2021年2月までに、西武百貨店の岡崎店などの店舗を5店閉店し、2店縮小します。スーパーのイトーヨーカドーは、33店舗で他の企業と提携するか、閉店を検討する。さらに最大の勝ち組であるセブンイレブンも、およそ1000店舗の不採算店を閉鎖、移転を検討するということです。これによってグループ従業員を3000人規模で削減するという発表をしました。
この注目点の1つは、セブンイレブン・ジャパンが過去最高益を叩き出すなかで、このリストラを発表したということです。セブン&アイ・ホールディングスは今年(2019年)2月期の決算で、4065億円という天文学的な利益を出しました。かつては「行き詰まってやむを得ずリストラ」をしていたのが、いまは絶好調のなかでリストラを発表する傾向にあります。未来を見据えて体力のあるうちに、ということなのですが、西武百貨店の福井店はもともと「だるま屋」という名前で創業した、西武百貨店の原点です。1928年にオープンしたのを西武が買収して、西武百貨店ができて行ったという、歴史のある店舗なのです。しかも、西武大津店も同時に閉鎖されることになったのですが、大津は西武グループ創業者の堤康次郎の出身地です。血も涙もない、バッサリと歴史を切り捨てるくらいのリストラ策です。
小売業界が抱える今後への不安
売り上げがいいにも関わらず、老舗を閉鎖しリストラもする。なぜこういうことをするのかと言うと、小売業界に未来への不安が広がっているからです。小売、卸売業界の商業動態統計ですが、今年の8月まで9ヵ月連続で前年割れが続いています。しかも、9月こそ消費増税の駆け込み需要でプラスになったのですが、業界の噂としては百貨店の売り上げが、前年比で2桁以上のマイナスになるのではないかと言われています。百貨店の調子が悪くなって、スーパーの調子が悪くなり、コンビニまでという、恐ろしい事態が業界全体で起こっているのです。
ネット市場の急速な発展で、物を買いに出かけなくなった
なぜみんなが物を買わなくなったのか。いちばん大きな理由はネット市場だと思います。ネット通販市場はいまや18兆円という、とてつもない規模に達しているだけでなく、未だに破竹の勢いで増えています。Amazonが入って来たときは書籍中心でしたが、いまは何でもAmazonで買えます。ネットスーパーも普及して、スーパーにも行かなくなって来ています。全国的にそうなっているのですが、問題は既に大都市中心部で、Uber Eatsという料理の宅配サービスが急激に拡大していることです。食べ物の購入ですら出かけなくなって、コンビニにも行かなくなっている。セブンイレブンはそれに対抗して、1000円以上だったら食べ物を届けてくれる「セブンミール」をやっています。マクドナルドも届けてくれますが、これは都心部だけです。埼玉県では所沢市は届けてくれませんが、さいたま市は届けてくれます。将来的には全国に広がるでしょう。
拠点のないインターネット業者は法人税を払っていない
宅配が日常生活分野にも広がっていることは、日本経済に大きな影響が出ると思います。1つは日本経済全体、財政への影響なのですが、Amazonは法人税を日本に払っていないのです。恒久的な営業施設を日本に持たないと、法人税が課税できない仕組みになっていて、Amazonは日本に支社がありません。それはこの制度を見越してやっているもので、利益はシステム使用料ということでアメリカ本社へ行き、タックスヘイブンへ行っているのではないかと言われています。グローバルなIT資本にどうやって課税するか、世界では大きな議論になっています。そして、Uber Eatsも同じような仕組みです。国籍はどうでもいいのですが、税金は払うべきだと思いませんか?
AmazonやUber Eatsで働くほとんどは非正規労働者、個人事業主
もう1つ、もっと大きな問題は働く人の疲弊です。例えばAmazonの倉庫で働いていると、指令が出た瞬間にカウンターが動き始めます。商品を取って来て出荷に回すと、次の指令が出て、またカウンターが動くのです。その働く人を監視するのも、実はアルバイトです。みんながアルバイト給料で忙しく働かされるという状況になっています。そのおかげで我々は安く提供を受けているので、胸の痛む話です。Uber Eatsはもっとすごくて、配達員は個人事業主として配達を契約するのです。そうすると雇用者ではないので、厚生年金、雇用保険、健康保険、労災保険の適用がありません。もしかしたら、この方式は今後多用されるかもしれません。Uber Eatsの需要がどういう日に集中するかというと、雨の日や風の日です。Uberでは発注した人が、配達する人の現在位置などを地図上で全部見られるようになっているので、ゆっくりしてはいられないのです。実はこれがAmazonにも広がろうとしていて、Amazonはかつて佐川やヤマトが運んでおり、いまでもヤマトがメインなのですが、ヤマトが働き方改革で値上げをしました。そこで、Amazonでは配達を個人事業主契約に変えようと、水面下で動いているのです。
買い物くらい身体を動かして買いに行くべき
私が危惧しているのは、こういう働き方が明るい未来につながるのかということです。どうしてこういう変化が起きてしまったのかと言うと、みんなが買い物へ行かなくなってしまったからです。商店街が衰退したのも、みんなが商店街へ行かなくなったからです。コンビニさえだめになってしまったら、日本はおしまいです。国民は、買い物くらい体を動かすべきです。こういうことを理解した上で、自分のお金を誰がどういう風に使っているのかを考えて、買い物をしなければいけません。ずっと部屋にいてスマホばかりいじっていたら、健康にもよくありません。
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