「キャリア、ライフステージ、そしてオタク事が三つ巴」――“オタク女子と労働”の大変さと楽しさを『本業はオタクです。』劇団雌猫かんさんに聞いた:女子と労働(2/2 ページ)
“三つ巴”はみんな大変
――劇団雌猫さんは、20〜30代女性の読者が多いように思います。この世代のオタク女性がもっている仕事の悩みはどのようなものがあるのでしょうか。
オタクや非オタク関係なく、20〜30代は仕事も私生活も大変な時期なんですよね。仕事では、「昇進しないといけない」「キャリアアップしなきゃ」という意識や、「同期の男性と比べられる」「差が付いてしまう」ことも気になってくる。その一方で結婚・出産というトピックがある。してない人はプレッシャーを感じているし、している人も「いったんキャリアが止まるんじゃないか」という焦りがある。
ただでさえ大変なときに、オタクには「推し」がいるんですよね。「推しは推せるときに推せ」という言葉がありますが、実在の人物だったら「数年後には活動していないかも」ということがありえるし、二次元の作品でも「ちょうど連載の展開がすごいことになっている」なんてこともある。キャリア、ライフステージ、そしてオタク事が三つ巴になっていて、優先度の付け方が難しくて苦しい……。
――ただでさえ悩みが多い時期なのに。
今回いろいろな女性から話を聞いて、「みんなラクラク両立してるわけじゃないんだ」と知って、変な話ちょっと安心しました(笑)。Twitterで見てると、みんなすごく簡単にバランスをとっているように見える。私はすごく苦しかったので、「ひとりじゃないんだ」と。
出産にリミットがあるというのはよく言われていることですが、推しの卒業、ゲームのサービス終了などオタク活動にもリミットがある場合がある。そして実は、仕事にも「昇進の時期」「能力が伸びる時期」「新しい仕事を与えてもらいやすい時期」というのはリミットがある。ただこの三つ巴の中で、「仕事が一番、何回でもやり直しがきく」と私は思っていて。他は他者がかかわることだけど、仕事は自分自身の行動でどうにかなる。私たちの世代は70歳まで働くことになりそうだから、この長い時間で何回でも新しい仕事にチャレンジできるんじゃないかな。
オタク女子たちの、有給を取りやすくするテクニック
――本の中では、読者からの「仕事とオタ活を両立させるテクニック」も紹介されています。
人間関係の大事さがあらためて響きましたね。「普段はきちんと仕事をして職場内での評価を上げておく。上司との人間関係を円満にしておく。この2点で有給は格段に取りやすくなります」といった声があったんですけど、オタ活のために休めるように、日ごろ真面目に働いて評価されようとするオタクが多い。
――ただ読んでいてちょっと思ったのが、有給は労働者の権利なんですよね。有給を取る際には理由も言わなくていいことになっています。でも実際はまだまだ有給が取りにくいし、申請時に理由を言わなくてはいけない職場も多いんでしょうか。
そうですね……私個人の感覚でいうと、有給をとるときはやっぱりちょっと気まずいし、「有給取ります」というときは理由も言わなくちゃいけない気になります。それは私が価値観をアップデートできていないのかも。あと、仕事の内容によって休みの取りやすさって変わってくると思うんです。例えば芸能人のマネージャーなんかは、自分ひとりの都合ではなかなか休みを取りにくい。チームプレイでやっている仕事も、「休むことで迷惑がかかる」と思うタイミングがあるはず。個人プレー的だったり、自分の裁量が大きい仕事だったりするほうが、お休みは取りやすいかもしれません。
――確かにそうですね……。私(編集記者職)は今かなり柔軟に有給を取っていますが、昔学校の教員だったときは全然休めませんでした。1日休むと生徒数十人に影響が出てしまうし、時間割の関係で振り替えも簡単ではないし。
しかも会社のカルチャーによっても全然違う! 上司のスタンスによって全然違いますし、けっこう“職場ガチャ”みたいなところがあります。本来なら、その人がどんな人でもどんな用事でも有給を取れるべきですが、まだまだ実際の現場では、「気持ちよく有給を取らせてもらう」というスキルが必要とされている段階じゃないでしょうか。
読者さんからのアンケートで印象的だったのは、「同僚や部下にも有給や早上がりを推奨する」というもの。チームメンバーにまず「休みたいときに休める」という思いをしてもらうことで、自分も取りやすくなるというワザですね。私もこれやろう! と思いました(笑)。
――仕事とライフステージとオタ活のバランスを取るのは大変だけど、その中で頑張るオタク女子が増えていけば、みんなが働きやすい社会になっていくかもしれませんね……! 最後に、働く女性が「オタク」としての面を持っていることの“強み”って、なんだと思いますか?
先ほど話した「スキルに反映されている」というのもあると思いますが、一番はモチベーション。社会人になると、仕事って生活のほとんどじゃないですか。でも、それよりももっと多く心を占める好きなものが人生の中にあることって、メッチャ幸せだと思うんです。推しがいることが何よりの支えだし、生きるモチベーションになっている。私、推しがいなかったら仕事を辞めてただろうなということが何度かありました。でも来年までオタ活の予定が埋まっているから(笑)、「働かなきゃ!」とむかつくことやつらいことを乗り越えられています。
ずっと仕事だけやっていて、退職後に居場所のないサラリーマンの話はよく聞きますが、オタクはそれと正反対。オタクが生きやすい時代になってきたのもあると思いますが、働くオタク女子は本当に誇りを持っていいと思います!
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