周防正行監督、成田凌に抱いた“違和感”から生じる初々しさ 役者がありのまま挑んだ映画「カツベン!」を視覚と聴覚で楽しめるわけ(1/2 ページ)
成田さん「『カツベン!』自体がサイレントで流れていても大丈夫なんじゃないかな」。
「Shall we ダンス?」や「舞妓はレディ」などで知られる周防正行監督の5年ぶりとなる最新作「カツベン!」が12月13日から公開。約100年前を舞台に、まだ映画に音がなかった“映画の創世記”に活躍したカツベンこと“活動弁士”の姿が描かれます。
幼いころからカツベンに憧れる主人公の染谷俊太郎を演じるのは、同作が映画初主演となる俳優の成田凌さんで、周防監督とは初タッグ。視覚と聴覚どちらでも楽しめるという「カツベン!」についてお2人に話を聞きました。
周防監督が成田凌に抱いた“違和感”
――お2人のタッグは初ですね。お互いの印象はどうでしたか?
周防正行監督(以下、周防監督): 最終的に成田さんを主演に選んだ理由は、“好きになれそうだ”と思ったからですが、初めの印象は“初々しさ”。初めてお会いしたとき(2019年1月公開映画「チワワちゃん」)、成田さんは金髪でしたが、そういう格好だったからこそ、余計に初々しさを感じました。違和感と言うんでしょうか、格好とたたずまいの“違和感”から生じる初々しさがありました。あと、「僕を使ってください!」という過剰な売り込みの感じがなくて、それがよかった。
ちょっと会っただけではその人のことが分かるはずもありませんが、最終的に成田さんを主演に選んだ理由は、成田さんと最初に会ったときに感じた初々しいイメージにあったと思うんです。作品が映画の青春時代の話ですので、初々しさというのは大事にしていました。黒島結菜さんにも違った意味の初々しさを感じたので、ヒロイン役に選ばせていただきました。
――成田さんはいかがですか?
成田凌(以下、成田): 監督はものすごく穏やかで優しい印象です。あと常に笑顔。僕は笑顔の人が男女関係なく好きなので、現場がすごく楽しかったです。そういう監督の良さがこの映画に出ていると思います。
――作品は、約100年も前の話ですね。なぜ活動弁士を主人公にした映画を撮ろうと思ったのでしょうか?
周防監督: 今回、初めて自分の企画ではない作品となりました。「それでもボクはやってない」(2007年公開)以降僕の作品で助監督をしてくれている片島章三さんの脚本を5〜6年前に「読んでみてください」と渡され、自分が活動弁士の存在を無視していたなと思いました。
学生時代からサイレント映画をたくさん見てきましたが、サイレント映画だからサイレントで見るのが正しいと思って、活動弁士も音楽もなしで見ていました。実際にそれで素晴らしい作品にも出会っていますし、弁士の説明も音楽もいらないじゃないか、と思っていたこともありましたが、片島さんの脚本を読んで、明治の終わりから大正、昭和とサイレント映画をサイレントで見ていた人は誰もいなかったのではないかと気付きました。
アメリカやヨーロッパだって生演奏の音楽がありましたし、日本だと、そこに活動弁士の説明も加わっています。だとすると、日本の映画監督は上映の時に活動弁士の説明と音楽がつくことを前提として映画を撮影していたんです。
本当の意味で活動写真、サイレント映画を見るというのは、弁士の説明と音楽があって見るのが正しいのではないかと。「しまった」と思いましたね。活動弁士は世界の映画史にとっても特別な存在ですし、その存在が映画監督にどんな影響を与えたのかという意味でも、ちゃんと考えたいと思いました。
反省の意味も込めた「カツベン!」
――なぜ今、このタイミングだったのでしょうか?
周防監督: 映画というものの定義が変わりつつ……というかほぼ変わっています。“映画の父”と言われるリュミエール兄弟は、フィルムで撮影して、スクリーンに映写して、不特定多数の人と一緒に見る「シネマトグラフ」を発明しました。でも、今はデジタルで撮影して、スマホや配信という形で家で1人で見ることも映画といいますよね。これを映画とは呼ばせないという人も中にはいますが、これも映画だとすると、映画の定義が変わっているんですよね。
だからこそ、世界で映画と呼ばれるものがどういうものだったのか、日本で映画がどう始まったのか、活動弁士とはどういう存在だったのか、それを今撮らないと、映画の始まりを誰も知らない状況になってしまう。「それはまずいだろ」と反省の意味も込めて活動弁士という存在を多くの人に知ってほしいなと思ったからです。
――今作の監督を務めるにあたって、いつもとは違った緊張感があったとおっしゃっていましたが、その緊張感とは具体的にどういったものですか?
周防監督: やはり、僕の書いた本じゃないというところ。自分でシナリオを書くときは、ある程度自分の頭の中でいろいろなシミュレーションをしながら、その頭の中に浮かび上がってきた映像を書き写していくというシナリオの作り方をしています。もちろん、その見たい画というのは現場に入ってロケハンをしたり役者が実際に演じてみたりすると変わっていきますが、“何を捨てたか”というのはシナリオ段階でも現場でも分かる。
でも、人が書いた本というのは、そこにある文字しかない。何を捨てて、どうしてこうなったのかという深い理由が分からない。片島さんのカツベンに対する知識量や世界観に僕が遅れてスタートして追い付くということはまず不可能です。なるべく取材をしていろいろなことを吸収しますが、僕が完全に把握していない、理解していない、なぜそうなったのかきちんと分かっていない中で映画を作る、という意味でこれまでの作品とは違った緊張感がありました。変なものを作ったら片島さんに見透かされてしまいますしね。それに、こんな面白い本をつまらない映画にしたら片島さんに申し訳ないです。
撮影は、現場に入って役者さんが実際に演じてみて気付くことがたくさんあり楽しかったですね。自分で書いたときもそういった気付きはありますが、全然違いました。頭の中ではいろいろ思い浮かべていたのに、実際見てみると「あ、このシーンはこんなにもすてきなラブシーンだったのか」と気付いたりとか。面白かったですね。いい意味でライブ感のある、今までに感じたことのない楽しさでした。
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