公式「?」 ネットミーム「シャミ子が悪いんだよ」が「ネット流行語 100」で表彰されるまでの誰も悪くない半年間を振り返る(1/2 ページ)

伊藤いづもさん「正直お受けしようかかなり迷いました」。

» 2019年12月16日 22時10分 公開
[コンタケねとらぼ]

 ドワンゴが12月15日、ネットで最もはやった単語を決める「ネット流行語100」発表式をニコニコ生放送で配信しました。年間大賞に「にじさんじ」、pixiv賞に「鬼滅の刃」と順当な単語が選ばれる中、niconico賞にとある単語が選出され会場はざわつきながらも笑顔に包まれます。その単語とは、「シャミ子が悪いんだよ」。

シャミ子が悪いんだよ ネット流行語大賞100 まちカドまぞく 千代田桃 受賞の瞬間(画像はニコニコ生放送から)

 ああ、「まちカドまぞく」作者の伊藤いづもさんが……担当の土居航洋さんが困惑している……そしてシャミ子と桃も困惑している……当事者たちが一番困惑している……何だこの状況……“太陽神”扱いされたときの松岡修造さんを見ている気分だ……。

 こんなにも関係者たちが困惑している理由は、「シャミ子が悪いんだよ」というせりふが原作に一切出てこないため。そう、これはキャラのせりふではなく、ネットミームなのです。

 なぜネットミームがここまで広がり、ついには表彰されるに至ったのか。誕生からの約半年間を振り返ります。

 なお、以前掲載した「シャミ子が悪いんだよ」について紹介した記事では、さまざまな事情から起源についてはあえて言及しませんでした。しかし今回はニコニコで大々的に紹介された上に伊藤いづもさんや起源となったTwitterユーザーもコメントを出すに至ったため、以前よりも詳しい完全ノーカット版で紹介します。

「まちカドまぞく」とは

 「シャミ子が悪いんだよ」の説明の前に、元ネタである「まちカドまぞく」について。

 同作は、芳文社の『まんがタイムきららキャラット』で伊藤いづもさん(@izumo_ito)が2014年から連載中の4コマ漫画が原作。まぞく(魔族)の子孫である吉田優子(シャミ子)と、魔法少女の千代田桃を中心に、不思議な街「多魔市」で繰り広げられる日常が描かれます。

シャミ子が悪いんだよ ネット流行語大賞100 まちカドまぞく 千代田桃 「まちカドまぞく」キービジュアル

 2019年7月にはアニメ化され、全12話で原作2巻の最後までの内容が消化されました。第3巻の内容が非常に濃いため、原作勢からは第2期が期待されています。

 シャミ子は貧困・貧弱・天然とポンコツ3階建てまぞくで、本来敵であるはずの桃に命を助けられたりお金を工面してもらったりと借りを重ねていきます。逆に桃は、貧弱過ぎるシャミ子をかなりスパルタ方式で鍛え始めます。こうして敵対するはずの2人は親交を深めていき、並たいていではないほどの友情が育まれていきました。

 ……育まれすぎた結果、一部の過激な視聴者たちが2人の間に咲き誇る百合の花を垣間見始めてしまいます。正直に言えば筆者にも見えました。すみません。

“シャミ悪”の誕生

 放送中だった8月、とあるTwitterユーザーが1枚の二次創作イラストを投稿します。それは、桃がシャミ子にイケナイことをしようとしているもので、このイラストで桃が放っていたせりふこそが「シャミ子が悪いんだよ」だったのです。



 なお、このイラストの前にも「シャミ子が悪いんだよ」とツイートしていたユーザーもいました。ただし、こちらも同じく桃がシャミ子にイケナイことをしようとしているときに言いそうなせりふとして投稿したものであり、人類の業を感じます。

 では、なぜ二次創作によって生まれた言葉がこんなにも広まりを見せたのでしょうか。それは、「ものすごく原作で言ってそうな感じのするせりふだったから」です。

原作で言ってないだけで言ってる説

 前述の通り桃は逃げ出そうとするシャミ子を鍛えまくるのですが、「ちがうよしかたないんだよ」「町とシャミ子のためだからだよ」と諭すシーンが数多くありました。そんな数多くあるせりふの中の1つとして「シャミ子が悪いんだよ」がありそうな気がして仕方ないのです。

 あまりにも言っていそうな気がするため、ネット上では「原作とアニメで言ってないだけで言ってる」「たまたまそういうシーンが描かれていないだけで言ってる」「言ってるけど原作とアニメでカットされただけ」「言ってないというのは原作者の勝手な解釈」という新解釈が広まる始末です。

 アニメでは鬼頭明里さんが桃の声を担当したのですが、一度アニメを視聴した人であれば脳内再生が余裕でできてしまう謎の説得力があります。こうして「二次創作で百合っぽいことをしているシーンのせりふ」「でも原作でも言っていてもおかしくない自然さ」の2つがいびつな合致を見せ、「シャミ子が悪いんだよ」はネットミームとして1人歩きを始めます。

 どれぐらい1人歩きしているかと言うと、ニコニコ大百科の「シャミ子が悪いんだよ」のページのレス数が「まちカドまぞく」の項目のレス数を超えてしまいました。おかしいやろがい。

 しかし、どれだけ広まったとしてもネットミーム。原作者の伊藤いづもさんは、「シャミ子が悪いんだよ」については長らく言及していませんでした。していなかったのですが……。

時は来た:「ネット流行語 100」ノミネート

 12月3日、ニコニコ大百科公式が「ネット流行語 100」のノミネート単語を発表しました。niconico賞を受賞したということは当然、「シャミ子が悪いんだよ」もノミネート。伊藤いづもさんは「どうして」と電話猫状態になったシャミ子のイラストをTwitterに投稿する形で、ついにこの件に触れました。



 いやね……シャミ子には「これで勝ったと思うなよ〜!」という決めぜりふ的なものがちゃんとあるんですよ……。ほんとどうして……。恐るべし、ネットミーム。さらにこれを受け、鬼頭さんも「シャミ子がわ………わらびもち」と伊藤いづもさんのツイートを引用リツイートしています。だんだんと公式で触れられだす“シャミ悪”。



夢の共演:「ガジェット通信 アニメ流行語大賞2019」銀賞

 ノミネートから3日後、「ガジェット通信 アニメ流行語大賞2019」が発表されました。その結果、「シャミ子が悪いんだよ」はなんと銀賞を受賞してしまいます。どんどん広まる“シャミ悪”。

 この件では、伊藤いづもさんが金賞を受賞した「けものフレンズ2」の“ゴマすりクソバード”ことG・ロードランナーとシャミ子が描かれたイラストを投稿。ネットミーム夢の共演が実現しました。



 ちなみに銅賞に「Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-」から“イキリ鯖太郎”といういろいろ穏やかじゃない単語が選ばれてしまったのですが、伊藤いづもさんはこちらについては触れていません。優しい。

「ネット流行語 100」発表 〜そして半公式化へ〜

 そして12月15日、「ネット流行語 100」が発表され、「シャミ子が悪いんだよ」はniconico賞を受賞するに至りました。伊藤いづもさんはこの受賞に、シャミ子と桃がトロフィーを手にポカーンと「?」を浮かべているイラストを寄稿しています。ほんと「?」だよ。



 授賞式では、ドワンゴの栗田穣崇さんからまんがタイムきらら編集部の土居航洋さんへ直接トロフィーが手渡されました。土居さんは「複雑ではあるんですけども……」としながらも、「みんなと分かち合いたいと思います」とコメントしています。


シャミ子が悪いんだよ ネット流行語大賞100 まちカドまぞく 千代田桃 若干複雑な思いを語るまんがタイムきらら編集部の土居航洋さん(画像はニコニコ生放送から)

 また、伊藤いづもさんも今回の受賞にコメントしており、「正直お受けしようかかなり迷いました」とやはり困惑気味ではあったものの、「どういう風に皆様がこの言葉を楽しんでくださっているかを知って、謹んでお受けすることにしました」「『原作とアニメで言ってないだけで言ってる』派の方も、『桃はこんな事言わない』派の方も、『作品見てないけどこのセリフは知ってる』派の方も、全員正しくて、みんな悪くないのだと思います」とのこと。このコメントには、「全方向に優しい」「伊藤いづも先生の懐の深さを感じる」といった声が寄せられています。

 さらに、最初に「シャミ子が悪いんだよ」の二次創作イラストを投稿したユーザーも、「伊藤いづも先生の誰にもネガティヴな印象を与えないコメントに膝を打った。こういう人だからこそシャミ子や桃みたいな優しい女の子を描けるんだろうなと感じました」とコメント。



 こうして「シャミ子が悪いんだよ」はその語感に反して誰も悪くない、全てを平和に包み込む2019年のアニメを代表する言葉となりました。おめでとうシャミ子、ありがとう「まちカドまぞく」。こんなにもみんなの心に優しい気持ちが広がっていったのも、シャミ子が悪いんだよ……。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた