「まず自分がスライムを倒せることを確認」 漫画家ナカシマ723さん これから個人で始めたい人へのアドバイス(4/4 ページ)

» 2019年12月27日 11時00分 公開
[堀田純司ねとらぼ]
前のページへ 1|2|3|4       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

――ナカシマさんは、きっちりプロデュースなさっていますけど、もしうまく行かなかったら、と怖くなることはありませんか?

 いやでもTwitterは、すぐ反応が出ますから。やっぱSNSでネタイラストを描いてると「あ、これ滑ったな」みたいなことが、たまにはやっぱりあるんですよ。それはどうしてもみんなあると思うんです。しかしそれは次にフィードバックしていけばいいことですし。

 なんだったら見直して、「これはちょっとやな感じがする絵だな」みたいに思ったら、すっと消しちゃう。そういうものは燃えないうちに消しましょうと。

――炎上マーケティングみたいなものも有効ならアリでしょうけど、創作者の人はそういう毒や闇をリアルに出すの、あまり狙わないほうがいいよなと思います。ナカシマさんの場合は、相手が無断転載のまとめブログで……

 相手が燃えてますもんね。こっちから火をつけたわけですけど。

――出版社の役割として「成功の再配分」。ぶっちゃけ「誰かが大ヒットを出してくれているおかげで、自分の本も出る」というところがあると思います。

 しかしそのために細かい企画のハンドリングは出来なかったりする。それも無理はない。しかし一方、ナカシマさんのように、きっちり自分のコンテンツを自分で動かしていくのであれば、結果に納得も行きますね。

 一度、打ち切られたストーリーを続けたり、商業出版の規模ではできない企画もやれたりいろんな可能性がありそうです。案外、「自分は絵に専念したい」というタイプのマンガ家さんもいたりしますから、ナカシマさんのように原作者と組むのもアリですね。

 そうですね。私の場合、テキストで契約書をつくって「半年間、完全に連載が止まったら、原著者のロケット商会さんは、メディアミックスを他のマンガ家に自由に依頼してもいい」などと取り決めてやっています。他にも、たとえばネーム原作の人と、作画の人が組んでもいいと思う。自分も今は「勇者のクズ」に集中しないといけないですが、コミカライズしてみたいなと思う作品はあります。

――テキストの人もできることがあるし、文字もマンガも描かないがプロデューサータイプの人は、企画を立てたりマーケティングを考えたり、いろんなことができそうですね。

 みんなできますよ。印刷をして本を作ることも、Amazonとの取引もそうですけど、私がやっていることで、私じゃないとできなかったことは、ないんで。作品の内容以外のことで、たとえば流通経路の確保とか、売り方の考え方とかでは、なにか特別な人脈があったからとか、特別、私だけがお金を積んだからできたことっていうことは、全然ないんです。みんなできます。

 ただ、自分の場合、まとめサイトに画像を無断転載されたことで、最初にまとまったお金を用意できたのはやっぱりよかったです。丸々マンガを単行本1冊分、描き切るまで完全にほぼ他のことをしなくていい環境を作ることができた。この点が、これからやって行く人にとってもたぶん一番難しいと思います。

――コミカライズが実現して、収益も上がった。原作となったロケット商会さんの反応はいかがだったでしょう?

 とても喜んでくれました。私も完全に勝手に描くわけにもいかないし、誰かに見てもらったほうがいい。だからネームができた時点で、ロケット商会さんにも見せているのですが、1巻分の内容で修正が入ったところは無くて、自由にやらせていただいています。

 第一線のベテランマンガ家と、新人のなにが一番違うのか? 「客観視するスキルだ」という人がいて、自分もそうかもしれないと思います。

 自分の作ったものは、自分で見て面白いに決まってます。だから客観視することは意外と難しく、そこに編集者の役割があるといってもいい。

 しかし自分でコンテンツを動かすとなると、編集者はいない。だからこそフォロワーが大事。フォロワーも数が少ないと、その反応はやっぱり個人の好みに左右されるでしょうが、ある程度の数になると違ってくる。そうした反応と「対話」してものを作れるのが、ナカシマさんのような今どきのマンガ家なのでしょう。

 しかしだからといって、自分の「主観」がなおざりかというと、そうではなさそうです。「主人公をかっこよく描きたい」とこだわって開きを逆にしたために、少ないながらも「どうしても馴染めない」という反応も。

 考えてみれば「逆開き」は、商業出版だとなかなかやれない、めちゃくちゃ大きな冒険だと思います。しかし今の時代、法人のマーケティング的な判断よりも「むしろそういう作者のこだわりを信じる」という読者も多いでしょう。個人と個人、個人と法人、いろんな発信がこれからも出てくることだろうと思います。

photo

堀田純司 大阪生まれ。作家。主な著書に「僕とツンデレとハイデガー」「オッサンフォー」、シナリオを担当した「まんがでわかる妻のトリセツ」(以上講談社)、「メジャーを生み出す マーケティングを超えるクリエーター」(KADOKAWA)、編著に「ガンダムUC証言集」(KADOKAWA)などがある。日本漫画家協会員。Twitter @h_taj


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news028.jpg 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
  2. /nl/articles/2411/19/news126.jpg 元「おニャン子」内海和子、娘・ゆりあんぬの“胃の粘膜ぶっ壊す”食事に激怒! 有名飲食店に謝罪し「出禁にして」「違う星の人そんな気がしてなりません」
  3. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  4. /nl/articles/2411/19/news083.jpg 「恐ろしい」 北海道の道路標識 → “見落としたら絶望”のとんでもない表示に衝撃走る 「普通にホラーでは?」
  5. /nl/articles/2411/18/news019.jpg 優しそうな“おかっぱ頭”の男性→プロがカットしたら…… “別人級の仕上がり”が470万再生「えっ!? って声出た」「EXILEみたい」
  6. /nl/articles/2411/19/news114.jpg 平愛梨、“夫・長友佑都選手”に眠れなくてLINE送信→“まさかの返信”に「なんやねん」「もう寝るしかない」
  7. /nl/articles/2411/18/news025.jpg “無給餌”で育てたメダカが2年後、驚きの姿に→さらに半年後…… 放置しておいたビオトープで起きた“奇跡”に「ロマンを感じる」
  8. /nl/articles/2411/18/news120.jpg 「天才が現れた!」 森永が教える“秋らしい”お菓子の作り方→たこ焼き器を使ったアイデアに「すごいすごい可愛い」
  9. /nl/articles/2411/19/news009.jpg 固い着物をリメイクしてみたら…… 生まれ変わった“まさかのアイテム”に「しゅげー!」「凄い素敵です」
  10. /nl/articles/2411/19/news062.jpg 「上げ底の先」 その名に偽りなし、高専の文化祭に出現した「限界節約ホットドッグ」が本当に限界だった
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた