コミカライズを自ら提案、Kindleで配信。月に84万円売れました──ナカシマ723さんに聞く「だから今、やるしかないんです」(1/4 ページ)

「魔王を倒すために算段をつけて、なにを準備していくか」。同じように現実も攻略すべきもの。漫画家の今を感じさせる、ナカシマ723さんのインタビュー。

» 2019年12月20日 11時00分 公開
[堀田純司ねとらぼ]

クリエイターとおかね 第2回 前編

 この連載では、今どきならではの可能性を感じさせてくれるクリエイターの人にご登場いただきたいと思っているのですが、その意味で、ナカシマ723さんは、とても今どきの漫画家さんです。

 「ナカシマ723さんは、2016年にカドカワBOOKSより出版されたロケット商会さんの小説『勇者のクズ』のコミカライズを担当。2018年にWeb連載を開始し、現在、紙の単行本第1巻が発売されている」

──と、これだけ聞くと、「すごいことはすごいけど、世の中にあることだよね」と思われるかもしれませんが、実はこれがぜんぶナカシマさん個人発の活動。

 もともと「パクツイBOTスレイヤー」というマンガシリーズをブログ、Twitterで公開し、大きな注目を集めていたナカシマさん(関連記事)は、個人としてロケット商会さんにコミカライズを提案。きちんと契約を交わし、配分や規定を取り決めた上で、マンガを執筆。折しも運営が始まっていた「Kindleインディーズマンガ」などのプラットフォームで連載を開始する。そして月あたりピーク時84万円の売り上げを達成したそうです。

フォト 勇者のクズ」1巻

 原稿がたまると電子書籍として単行本を販売、追ってさらに紙の単行本をご自身で刊行、出版した。その単行本にはきちんとISBNコードも入っていて、こういう言い方がいいか悪いのかわからないのですが、私などは本だけ見ていると、それが個人出版であることはわからなかったです。

 今の時代、作品を公開するプラットフォーム、自分で宣伝するメディア、本を刷りカバーまでかけてくれる印刷所、刷った本を保管し発送してくれるサービスまでがそろっていて、個人でも商業出版と変わらない活動ができる。

 個人と法人の商業出版のクロスオーバーなスキームというと、ONEさん、村田雄介さんの「ワンパンマン」が思い浮かびます。あちらのケースでは法人の大きな商業活動が背景にありましたが、逆に個人から商業側にコミカライズを提案したナカシマさんのような活動は、なかなか新しいと思います。

 今回そのナカシマさんにお話をうかがったのですが、この人が運用したサービスは、どれひとつとして特別なものはない。みんな使うことができるもの。しかしそれを組み合わせて行くことでユニークな活動になった。そのキーワードは「攻略」でした。

フォト Kindleストアに公開されている「勇者のクズ」1巻(無料版)より。セリフは横書き、左から右に読み進むようになっている

きっかけは「パクツイBOTスレイヤー」

――ご活動のアウトラインを、教えてください。

 わりと珍しい型のマンガ家だと思います。というのは、私、雑誌に載ったのはデビュー作で一回きり。だから当然まだ出版社からは一度も単行本を出したことがないんですよ。

 でも個人から依頼されたイラストや、あとは広告案件ですね。SNS上で発表する広告マンガなど企業関連を案件を受けて、それでなんとか10年近くやれているので、そこは珍しい、今どきの形のマンガ家だなとは思います。

――そうした活動を行いながら、小説家とコンタクトを取り、「勇者のクズ」のマンガ版連載をはじめられた。自作のマンガをマネタイズしていくことは今どきはぜんぜんありですが、法人と個人の垣根を越えてコラボして、自分で連載を開始するという活動はユニークですね。

 そうですね。現在は「勇者のクズ」の連載をメインの仕事にしているのですが、作画のほうから原作の方にアプローチして、版権を獲得する。その上で、マンガ版はマンガ版としてこちらでマネタイズする。で、何割かを原作者さんに渡す。言われてみれば、こうしたこと自体も珍しい形式かもしれないです。

 でも、そうなったのはたまたまです。もともと20歳ぐらいのペーペーのころは、「やっぱりジャンプで連載したい」みたいな感じで投稿してたりしていたんですけど、大学卒業までに、連載を取れるっていう感じでもなかった。

 デビューしたのは『ウルトラジャンプ』という雑誌だったんですけど、自分には青年誌で描きたいことって、特になかったんですよね。それでいったん実家に戻って、フリーランスとして仕事を始めて。といっても最初の1、2年は半ばニートみたいな感じでしたけど、ここ3年ぐらいでふつうに東京で自活できるぐらいの経済力がついたので、上京してきたって感じです。

――広告案件の仕事が来るようになったきっかけは、SNSでしょうか。

 それが大きかったと思います。もともと私が「パクツイBOTスレイヤー」というマンガやイラストを公開していて、それを見た広告代理店さんが、最初に広告マンガの連載の仕事を依頼してくださったんですよ。

――画像の無断転載アカウントを糾弾するマンガシリーズですね。

 そうですね。Twitterの無断転載アカウントにイラストを勝手に使われて、クリエイターの方々が「へこむわ」といった話がよくタイムラインで流れていたんです。私自身も、たとえば「どの壁ドンがお好き?」というイラストが無断で転載されたりして、「だったら、全部処分してみる」みたいな感じで始めました。

 いま考えると、カラーマンガをWebで百何十ページもね。「よく描いていたな」と思いますけど、でもフォロワーさんも一気に増えてくれましたし、ありがたいことに実にはなった、形にはなったってことですね。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2403/21/news036.jpg 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  2. /nl/articles/2504/19/news039.jpg 人里離れた山にカメラを設置→1週間後…… 「なんで?」映っていた“意外すぎる住人”に「笑った」「実在していたのか!」
  3. /nl/articles/2504/21/news024.jpg 「安すぎる!」 ワークマン“980円バッグ”に絶賛の声続出 「文句なし」「コスパ最強」「シンプルで使いやすい」
  4. /nl/articles/2504/18/news140.jpg 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」話題になった飼い主に聞いた
  5. /nl/articles/2504/19/news051.jpg 湘南の砂浜に打ちあがった“超危険生物”を飼育したら…… 貴重な姿に「初めて見ました」「かっこいい」と大反響→2年後の現在について話を聞いた
  6. /nl/articles/2504/21/news036.jpg 押し入れに眠っていた“40年前の出産祝い”、開けてみると…… “昭和らしい品”に反響「感無量ですね」「状態がいいのも驚き」
  7. /nl/articles/2504/20/news028.jpg 庭にビオトープを作ったら、生物多様性が爆上がりして…… “まさかの生き物”の来訪に驚がく「え?マジすかw」「存在感すごい」と620万表示
  8. /nl/articles/2504/21/news034.jpg ゴミ屋敷に嫁いだ女性 あるとき“9歳息子の本音”を耳にし……100日間の戦いが1000万再生「最後泣きました」「大変だったろうな」
  9. /nl/articles/2504/21/news043.jpg ←お弁当の理想 現実→ 高校生息子の母が明かした“リアルな光景”に「共感しかない」「ジワっときました」
  10. /nl/articles/2504/21/news032.jpg 150万円で買ったジャングル廃墟→家族3人で本気DIYしたら……「良くなりすぎた」 見違える結果に「やばい」「憧れる」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小学生時代「こんなプラモ誰が買うんだよw」→40年後…… “大人になった”を実感するエピソードに「分かる」「特大ブーメランw」
  2. パパに、保育園へ行く娘のヘアアレンジを任せたら…… ママがひっくり返った“仕上がり”が400万表示「重力どこ?」「頑張った感がいい!」
  3. 「神パンツきた」 ユニクロ新作“3990円パンツ”が品切れラッシュの大人気 「過去イチかも」「本当にこれは買い」
  4. なんとなく捨てにくい紙袋→2カ所切り込みを入れるだけで…… 目からウロコの“活用術”に「これすごくいい!」【海外】
  5. 「見習うことばかり」 80代おばあちゃんの春服&収納術がステキ! 上品かつオシャレで「憧れです」「尊敬します」
  6. ファスナーに直接毛糸を編み付けていくと…… 完成した“便利でかわいいアイテム”が100万再生「天才だ」「これ大好き」【海外】
  7. 「尊厳を踏みにじる行為」 八代亜紀さんの“物議のCD”は「流通会社がすでに流通を中止」 タワレコが回答
  8. 古くなったジーンズは捨てないで! 目からウロコの“アイデア”に大反響「なにこれかわいい!」「こんなの作れるんだ」【海外】
  9. 指先サイズの小さな器に木を植えて、育てたら…… 「芸術だ」「半端ない」鳥肌モノの“神盆栽”に反響
  10. 義母「ランドセル代を振り込みました」→銀行口座を見ると…… 2児ママ絶叫の“神対応”が1520万表示「凄すぎる!」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 【べらぼう】“問題のシーン”、「子供に見せられない」 身体張った27歳俳優へ「演技やばくない?」
  2. 「恩師ビックリするやろなぁ」 中学3年で付き合い始めた“同級生カップル”が10年後…… まさかの現在に反響
  3. 「本当に迷惑」 宅急便の「不在連絡票」と酷似のチラシが物議…… ヤマト運輸「配布中止申し入れ」
  4. 「うそでしょ!?」 東京ディズニーランド、“老舗”レストランの閉店を発表 「とうとう来てしまったか」「いやだああああ」と悲しみの声
  5. 雑草ボーボーの運動場に“180羽のニワトリ”を放ったら…… 次の日、まさかの光景に「感動しました」「すごい食欲」
  6. 40歳・女性YouTuber「18年間、脇毛を処理していない」→“処理しない理由”語る 「脇のみならず……」
  7. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  8. 息子の小学校卒業で腕を組んだ34歳母→中学校で反抗期を迎えて…… 6年後の姿に反響 「本当に素敵!」「お母さん、変わってない!?」
  9. Koki,、豪邸すぎる“木村家の一室”がウソみたいな広さ! 共演者も間違えてしまうほどの空間にスタジオビックリ「コレ自宅!?」「ちょっと見せて」
  10. 使わない靴下をザクザク切って組み合わせると…… 目からウロコの再利用法が2500万再生「とてもクリエイティブ」【海外】