「出版社以外」からの収入のほうが大きくなった──うめ小沢高広さんに聞く「いま漫画家デビューを狙うならこうします」(1/4 ページ)

『東京トイボクシーズ』などの作品で知られ、早くからKindle配信などに取り組んだ「うめ」の小沢高広さんに、今どきの漫画家の仕事について聞いてみました。

» 2019年06月07日 09時00分 公開
[堀田純司ねとらぼ]

クリエイターとおかね 第1回前編

 まれに「家を建てるために小説を書いた」という人もいますが、本来、クリエイターとおかねは縁が薄いもの。例えば貧乏で有名だったのが樋口一葉で、この人の日記を読むと「昨日より、家のうちに金といふもの一銭もなし」という文章が出てきて泣けます。これだけお金に縁のなかった人が後にお札になるとは、運命とは皮肉ですね。

 この連載では、いろんな分野のクリエイターに登場していただき、「お金」についてガチに本音をうかがってみたいと思います。

 第1回にご登場いただくのは、マンガ家ユニット「うめ」で原作、演出を担当する小沢高広さん

 経団連の会長が「もう終身雇用は維持できない」と発言したことが話題になりましたが、社会の実感としては、そんなモデルはとっくに過去のものではないでしょうか。

 マンガの世界でも、かつては「商業は出版社に任せ、作家はそこに口を出さないのが美学」という風土がありました。しかしそれも、終身雇用と同じようにとっくの昔の話。新しい波が来ています。

 妹尾朝子さん、小沢高広さんのおふたりからなるユニット「うめ」は、「東京トイボックス」「南国トムソーヤ」などの作品を、レガシーな紙の出版社から刊行。その一方で、作家による電子書籍出版にいち早く取り組み、またボーンデジタルWeb媒体での作品発表や、noteのようなプラットフォームの利用など、現代ならではの「表現のかたち」を手がけ、作品だけではなくその活動も注目を集めるクリエイターです。結果、昨年度の収入は、ついにレガシーな紙の出版社より、他の媒体のほうがずっと大きくなったそうです。

 「どうないでっか。もうかりまっか?」 「うめ」でシナリオ、演出を担当する小沢高広さんにうかがってみました。

photo ゲーム業界を描いた『東京トイボックス』(新装版は幻冬舎)

「出版社以外」からの収入のほうが大きくなった

――SNSの投稿で拝見したのですが、昨年は「出版社以外」からの収入のほうが大きくなったそうですね。

小沢 2018年度に関していえば、いわゆる紙の出版社からの収益は全体の15%でした。もともと紙の出版社でデビューしたマンガ家としては、珍しい数字かもしれませんね。

 収入の中で単純に大きいのは、電子書籍の売り上げです。あと広告の仕事は単価が高い。それともうひとつ、これはちょっと特殊な事情として、昨年は「マジンガーZ」(筆者注『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』)の映画で脚本を担当したので、東映さん関係の収入が大きかった。僕ベースでは、全体の25%くらいになっています。しかも、たまたま去年は紙の出版社での連載がない時期が長かったので、そのために15%にとどまったところはあります。ただ正直、紙の仕事を増やすと、もうからないんですよ。

――もうからない?

小沢 紙の雑誌は、単価は安いですから。今年は1本、紙の雑誌が初出になる一般的な連載が始まるので、「収入はいったんは下がるかな」と思っています。もちろん単行本が当たれば、回収はできるのですが。

――eスポーツを扱う『東京トイボクシーズ』の連載を「月刊コミック@バンチ」ではじめた。『青空ファインダーロック』で、最初期からKindle版配信を手がけられたりして、うめさんというと「編集不要論」「出版社中抜き論」の旗手みたいに見られることもあり得ますが、そうではないんですね。

photo eスポーツを題材にした『東京トイボクシーズ』(noteより)

小沢 そんなふうに「あの人、出版社では仕事やらないんでしょ」といわれているという声を、人づてに聞いたりしたのですが、それは違うんですよ。ベテランから若い人まで、ふつうにいろんな編集さんと仲良く仕事をしています。

 例えば『おもたせしました。』(筆者注 新潮社刊。手土産と文学を扱う)は、完全に編集長からの持ち込み企画で、「ちょっと待って。その世界、なにも知らないから」というところから始めたんですよ。

 そんなふうに「これはウチ向きじゃないでしょう」という仕事でも、基本的には取り組むようにしていて、編集さんってある意味、人の引き出しを勝手に開けて、売り物にするのが仕事じゃないですか。だからプロに「ちょっとこっちの引き出しを開けてみなよ」と言われたら、それは最初は乗り気じゃなくても信用すること多いです。結果として「こっちも行けるじゃん」という引き出しに、気づいたりするので。

 自分のことは、自分が一番、分かってない。実際『おもたせしました。』も、やってみたらやってみたで思ったより描けました。

――アンチではないということですね。

小沢 もし、自分でもいろいろ発信している作家のことをアンチ編集、アンチ出版社みたいに思う人がいるとしたら、それは編集として三流なんだと思います。「作家に対してマウントを取ること」。それが編集だと思ってるような人にはアンチ編集みたいに見えるでしょうね。 そういう人は、いろいろやっている作家が怖いんだと思います。

 でも、それもわりと過去の話で、むしろいろんなことを発信しているおかげで、やる気のある若い人が「この人と仕事をしたい」と来てくれたり、学生のころにインタビューしてくれた人がプロになって声をかけてくれたり、「東京トイボックス」の読者だった人が来てくれたり。うれしいことが多いです。

 そういう意味でウチはむしろ「あの人、紙じゃなくてもやるんでしょ」という感じで、いろいろ声をかけやすいと思うんですよ、たぶん。だからゲームの世界観設定をやってくれといった話も、いただいたりします。面白かったです。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/08/news177.jpg イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  2. /nl/articles/2411/06/news180.jpg 「むりだろww」「笑いました」 ニトリでソファ購入 → 愛車の前でぼうぜん…… “まさかの悲劇”が1000万表示
  3. /nl/articles/2411/07/news182.jpg 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  4. /nl/articles/2411/07/news163.jpg 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. /nl/articles/2411/05/news138.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  6. /nl/articles/2411/08/news132.jpg peco、息子の近影を公開「すごーくりゅうちぇるに見えます!」「パパに似てる〜」 息子のスクールランチも色とりどりでおいしそう
  7. /nl/articles/2411/08/news143.jpg 高嶋ちさ子、3000万円超の“超高級外車”ゲットにドヤ顔も! 笑い止まらずハンドル握り「Woohoo!!!」
  8. /nl/articles/2411/07/news029.jpg 50代主婦が5日間、ひたすら草抜き&庭木の剪定→たった一人でやり遂げたとは思えないビフォーアフターに称賛の嵐 「尊敬する」「本当に脱帽です」
  9. /nl/articles/2411/08/news025.jpg 「そうはならんやろ」クルマ修理会社の壁を見ると…… まさかの“シュールすぎるイラスト”に9万いいね 「よすぎる」「天才か」
  10. /nl/articles/2411/08/news111.jpg 2人組ガールズユニット、突然の脱退を発表 マネージャー「本人の意思ではない」 母親とする人物からの脱退理由と経緯説明が物議
先週の総合アクセスTOP10
  1. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  2. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  3. 結婚相手を連れてくる妹に「他の人に会わせられない」と言われた兄、プロがイメチェンしたら…… 「鈴木亮平さんに見えた」大変身に驚がく
  4. 「2007年に紅白出場」 38歳になった“グラビア界の黒船”が1年ぶりに近影公開→驚きの声続々
  5. 「クソビビったwww」 ハードオフに38万5000円で売っていた「衝撃的な商品」が90万表示 「売った人突き止めたい」
  6. 夫婦喧嘩した翌朝の弁当を夫が作ったら…… “森”すぎるビジュアルに「インパクトすごい」「最高に笑いました」の声
  7. 約9万円の「高級激レアガンプラ」を10時間かけて制作→完成品に「家宝だ」「めっちゃくちゃにかっこいい!!」
  8. 天皇皇后両陛下主催の園遊会、“お土産”に注目 ジョージア大使「大好物です」「娘たちからも大好評」
  9. 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
  10. 事故で重体の人気日本人TikToker、1カ月の意識不明と家族ケア経て逝去……“旅立ち直前に会った”親友は「励ましに来てくれてたのかな」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた