インタビュー
» 2014年04月23日 11時00分 公開

“読み捨てされる作家”が個人で電子雑誌を創刊したら何が起こったか 漫画家・青木光恵に聞く

自らを「読み捨てされる作家」と称する漫画家・青木光恵さん。夫の小形克宏さんと二人三脚で個人電子雑誌『スマホで光恵ちゃん』を創刊して約半年。その取り組みの経緯と成果を聞いた。

[西尾泰三,eBook USER]
スマホで光恵ちゃん スマホで光恵ちゃん

 紙の本が売れなくなったといわれてはや数年。出版社が電子書籍への取り組みを続ける中、漫画家や作家も電子書籍の自主出版など、さまざまな可能性を試行している。

 自らを「読み捨てされる作家」と称する漫画家・青木光恵さんもその1人。夫の小形克宏さんと二人三脚で2013年11月から個人電子雑誌『スマホで光恵ちゃん』(以下、『すまみつ』)を、ブクログの電子書籍出版プラットフォーム「パブー」やAmazonのKindleストアで定期的に発行している。

 2人の活動をサポートするブクログの大西隆幸さんを交えて、その取り組みで得られたものや、作家として直接ファンに作品を届けることで見えた可能性などを聞いた。

単行本の売れない作家=商品価値がない?

漫画家・青木光恵さん 漫画家・青木光恵さん。電子書籍については、「(最初)試しにモニターで漫画を読んでみたとき、線の入りと抜きがちゃんと見えなくって、『やっぱり紙の方がいいなー』なんて思っていましたね」と振り返る

―― 最初にすまみつの発行を決めた経緯から伺っていきたいと思います。青木さんや小形さんが個人で電子雑誌を発行するに至った背景にはどういったものがありましたか。

青木 私、以前から「単行本の売れない作家」みたいな言われ方をしていたんですよね。雑誌で連載をしていると、アンケートは悪くないと言われるのに単行本の売れ行きはあまりよくない、みたいな。

 この数年の出版不況などもあって、単行本が売れない漫画家はなかなか雑誌に描かせてもらえなってきて。連載が終わって、出版社に持ち込みもしたりもするんですが、編集者さんは最初「青木さんならぜひ!」って反応がいいんですけど、数日後には「すみません、単行本の売り上げを確認させてもらったんですが、この数字ではうちではちょっと厳しいです」みたいな感じになることも多くて。

 単行本が売れる作家さんというのは、「とっておきたい作家」なのだと思います。でも残念だけど私は違う。「読み捨てされる作家」というのは、そういう状況を自己分析した結果、言い始めたことなんです。

小形 ぼくは以前から、ライターとして電子書籍に関する取材をしたりする中で、電子書籍の可能性は感じていたので、彼女に対してはかなり前から「こういうの作ってみたら」という話をしていました。

作家はパーツ?

―― 紙の雑誌の仕事がなくなったという話がありましたが、書き手として、商業漫画出版の現状はどう映っていますか?

青木 不況だから、とよく言われていますけど、私の個人的な実感としては、決して不況だけが要因というわけではないんじゃないかなと。ただ、編集者と作家・漫画家の付き合い方は確実に変わって来ましたね。

 今の新人の編集者さんは、上からのプレッシャーもあるんでしょうね。すぐに結果を欲しがっていて、最初から「萌え系でどうですか」「妹でどうですか」みたいに、今、当たってる作品をなぞった企画を持ってくるんです。商業誌としてはある意味正しいんですけど、私は、今まで元気な女の子をずっと描いてきたので、「健気な妹キャラ、私のところに持ってくる?」みたいな。

小形 誰でもいいとまでは言わないにせよ、作家がパーツ化しているような気はします。「この作家にこれをやらせよう」ではなく、「ヒットするのはこういう作品」という結論があり、「それならこの人に」という感じになってるんじゃないでしょうか。

 ヒット作が性急に求められる背景には、1つは単行本が売れなくなってきたことがあると思います。これまでの漫画出版のビジネスモデルは、雑誌単体では赤字でも、単行本でヒットを出して黒字にするというものでした。

 ところが肝心の単行本が売れなくなって、そのモデルが崩れてしまった。だから今は単行本が売れにくい作家に依頼する余力は残ってないんですね。青木の仕事が無くなってきたのも、そういうことが一因としてあるのではないかと思います。

 ただ、単行本が売れるばかりが漫画家なのかという疑問がぼくにはあります。漫画家の一番の仕事は面白い漫画を描くことで、読者が単行本を買いたくなることが「面白い」の一種には違いありません。でもそれだけというのは違うんじゃないかなあと。

降りかかるさまざまな課題、それでも踏み出した契機は

―― 単行本をゴールとしない漫画のあり方を模索しているようにも思えます。お二人の間ではかなり前から電子での個人出版を模索されていたとのことですが、実際にすまみつを始めるまでにはどんな問題に直面しましたか?

青木 何をどうすればいいかもよく分からなかった、ということに尽きますね。例えば、紙の雑誌だと原稿用紙のサイズなども規定されていますが、電子書籍だと「何ピクセル×何ピクセルくらいで描いてくれればいいよ」と言われて、「それは何センチ×何センチの紙に描けばいいの?」という感じで、話がかみ合わないんです。

 何より、紙の雑誌で商品価値がなくなったといわれてしまう自分が、わざわざ描きおろし電子書籍を出したところで、そんなの読んでくれる人が本当にいるの? という気持ちがずっとあって。それこそ販売を始める直前くらいまで。

 そのころはちょうど紙の仕事がなくなって、気分が落ち込んでいた時期だったこともあり、「どうせ作ったって売れないよ」と思いつつ、でも、何かしないことにはご飯も食べていけないわけで、しぶしぶというわけでもないですが、やはりあまり積極的ではなかったです。

―― そこから一歩踏み出す契機となったのは何だったんでしょうか。

青木 あるとき、漫画家の青木俊直さんが、Amazonで同人誌を100円で販売しているのを見かけ、「こんなことやっていいんだ」ってびっくりしたことですね。

 それまで同人誌というと、一部の好きな人たちが特定の会場に集まって、薄い本に数百円払うもの、という思い込みがあったんです。紙の本って、普通は、ある程度の厚みがあって、価格帯が大体決まっていて、っていうルールがあるんですけど、電子だとそういうルールに縛られる必要がないんだな、と気づかされたんです。それからだんだんと気になり始めました。

 もちろん、紙もやっぱり好きで、紙の仕事をいただければ当然やらせてはいただくんですけど、現実問題としてこれだけ漫画家があふれている現代で、まかり間違っても私なんかに仕事が来ることはもうないだろうと。そう思ったときに、紙にこだわっていても仕方ないなと。

紙からモバイルデバイスという「コンテナ」の変化

小形克宏さん 小形克宏さん

―― すまみつを読むと、4コマを中心とした構成になっていますが、このスタイルはどのように決まっていったんでしょう。

小形 スマートフォンにフォーカスするためです。青木のようなタイプの作家は、スマートフォンだとうまくハマるんじゃないかと思いました。

 従来の紙の漫画雑誌や週刊誌、新聞の内容を一言でいうと「読み捨て型コンテンツ」なんですね。自分で買うだけでなく、友達に借りて読んだり、そこら辺にあるのを読んだり、読み終わったら捨てちゃったりするコンテンツ。これと対極にあるのが、単行本のように本棚に並べる「アーカイブ型コンテンツ」でしょう。

 例えば電車の中の情景を思い浮かべてもらえるとイメージしやすいと思いますが、10年くらい前はみんな紙の漫画雑誌や週刊誌、新聞を読んでいましたよね。ところが現在はそんな人はほとんどいなくて、誰もがスマートフォンやタブレット端末を見ている。つまり読み捨て型コンテンツの「コンテナ」が、紙からモバイルデバイスに移行したわけです。

 ただ、コンテナが変わったからといって、その中身がアーカイブ型になったわけではありません。ソーシャルゲームにしてもネットニュースにしても、もちろん電子書籍にしても、読み捨て型コンテンツという意味では、紙の漫画雑誌や週刊誌、新聞とまったく変わらないものがほとんどです。

 青木は雑誌アンケートではある程度支持されても、単行本は売れない作家。つまり、アーカイブ型ではなく読み捨て型の作家なのだと思います。そういう作家の作品を、最新の読み捨て型コンテナであるモバイルデバイスに入れて、電車の中や昼休みにさっと取り出して読めるようにすれば、紙よりもよほど買ってくれるのではないかと考えたんです。

―― タブレットはあまり意識されなかったんですね。

小形 固定型のEPUBフォーマットで漫画雑誌を作った場合、テキストと違ってデバイスの画面サイズに依存する度合いが強く、小さいスマホと大きなタブレット端末の両方で読みやすく作るのは難しい。どちらかに絞るべきと考えたとき、より多く売れているスマホにフォーカスしようと思いました。

 そうすると、必然的に掲載できる情報量に限りが出てくる。漫画でいうと、1ページに4〜5コマ程度が限界だろうと。幸運なことに、青木が漫画家としては器用なタイプで、4コマ、エッセイ、ストーリーと描けるジャンルが幅広い。そんなこともあって、青木の側から画面が狭いのなら4コマ漫画の形式でやろうと提案されたんです。

 ただ、4コマと言っても紙の4コマと同じではなくて、例えば創刊号では、4コマで収まりきらなかったので、オチが5コマ目で次のページに行く、という構成になっているものがあります。紙の本では「絶対に4コマに収めてください」って編集者に怒られるところですが、電子だとこれを逆に利用して面白さとして作ったりできる。そういう電子書籍としての特性を生かしながら、画面のバランスなどを工夫しているところです。

5コマ目を次ページとした例

青木 最初は本当に何も知らず手探りで始めたので、Kindleで表紙を開くと、そのまますぐに漫画が始まってたんです。最後も奥付もなく唐突に終わる、みたいな。これがすごく変な感じがしたので、表紙の後に中扉をつけてみるとか、その次のページには、猫の小さなカットだけのページを入れてみたりとか、紙の雑誌に近い読書感、余韻を得られるように、小さな工夫を重ねていて、徐々に良くなっていると思います。

 もともと私は、読んだ人を感動させたいとか、爪痕を残したいとかは目指していなくて、仕事で疲れてるときやちょっとつらいときとかに、読んで気が紛れた、っていうものがすごくやりたいんです。目指すところとしては、スマートフォンにフォーカスした、隙間、みたいなところを狙っていきたいと思っています。

 すまみつを始めて、「通勤中の楽しみです」とか言われたりするのはすごく楽しくて、ものすごく手ごたえは感じています。そう言っていただける人の数が増えれば食べていけるので、それを増やさないとダメなんですけど(笑)。

分からないことはソーシャル上でとにかく聞いてみるのも1つの方法

―― 少し話を戻して、制作実務での苦労を。先ほど青木俊直さんが、Amazonで同人誌を100円で販売していることに青木さんは背中を押されたというお話がありました。小形さんはいかがですか。

小形 二人の間で話はしていたものの、なかなか具体化しませんでした。そこで最後にひと押ししてくれたのが、大西さんという第三者の後押しでした。

―― ブクログのパブーで精力的に活動されている大西さんですが、大西さんとの出会いはどのようなものだったんですか?

大西 そもそもは、私の妻が青木さんのファンだったんです。Twitter などで時々やり取りをさせていただいていたようで。ちょうどそのころ青木さんも出展されていた同人誌即売会「コミティア」に足を運ぶ予定があって、そこでごあいさつさせていただいたのがきっかけですね。

 すまみつのコンテンツに関しては、小形さんが編集経験をお持ちだったこともあり、お二人で基本的には完結できる状態でした。だからWebや電子書籍に関するアドバイスや、初期のころはEPUB化のお手伝いなどをさせていただいたんです。

 小形 電子雑誌制作という意味では、編集経験も役立っていますが、青木と一緒に同人誌を出して即売会で売ってきたことの方が役に立っている気がします。一般的な紙の編集者の仕事では、販売や売上管理まではやりませんから。

 ただ、電子書籍の値付け方法やネットを使ったキャンペーン、アンケートの取り方などはまったく経験がなかったので、大西さんのアドバイスがなかったら、こうはスムーズにいかなかったと思います。

大西 パートナーがいるというのが一番いいんですけど、分からないことはソーシャル上でとにかく聞いてみるのも1つの方法かなと思いますね。

小形 そうですね。大西さん以外にもTwitterやFacebookではいろいろと教えてもらいました。実は去年まで、ぼくのすまみつにおける制作面での分担はComicStudioやInDesignで画像ファイルに書き出すところまでで、それを大西さんに送ってEPUBにしてもらっていたんです。

 それが今年に入ってから使いやすいEPUB作成ツール「OMUSUBI EPUBMAKER」が無償公開されたので、自分でEPUBを作ってパブーやAmazonに納入できるようになりました。作者である三陽社の田嶋淳さんはTwitterで知り合った方で、とてもよくサポートしていただいています。

 そうしてできあがったEPUBファイルの検証や微修正は大江和久さんが公開されている「EPUB-V」のお世話になっていますが、大江さんもTwitterで知り合ったのが始まりでした。

実際の売上や今後の取り組みは?

『スマホで光恵ちゃん』の原点となったエッセイマンガを全ページカラーで発刊するなどの取り組みも。こちらの作品はKindleオーナー ライブラリーの対象タイトルとしている

―― すまみつの売上などの成果も伺いたいのですが、創刊号は1000部以上売れていましたよね。その後はいかがですか?

小形 まだまだです。創刊号こそ累計で1500冊以上売れていますが、それは発売当時1冊120円だったバーゲン価格と、物珍しさからの数字だったようです。2号目以降はがくりと落ちて、平均すると600冊くらい。売り上げで家賃くらいは出せるけど、食べてはいくにはまだまだ足りない。2月からすまみつとは別に青木の単行本未収録の作品をKDPセレクトに登録し、Kindleオーナー ライブラリーの対象としました。他に、ブックリスタさんが声をかけてくださって、GW明けからソニーのReader Storeと、auのブックパスでも取り扱ってもらうことになりました。こうした施策を通して、少しずつ認知度を高められればと思っています。

―― ページ数や価格を変えたり、発行頻度を増減する、といったことも考えられますが、今後の展開はどのようにお考えですか。

青木 中扉やカットを差し込んだり、4コマのコマサイズを変更して、バランスを調整してみたりすると、思っていたより作業が増えちゃったんですが、この辺りは手を抜きたくないので、発行頻度を減らそうか、という話はしていました。

小形 はじめは月3回刊で最初の1週間は150円、それ以降290円としていたんですが、2014年に入ってから月2回刊で290円に変更し、3月からは紙の仕事が入ってきつくなってきたので、月1〜2回刊にしています。

―― お二人のノウハウをほかの漫画家さんや作家さんたちに向けてのアドバイスにするとすれば、どういったものになりますか。

青木 自分が今やっている作品を発行することで得られたノウハウは、聞かれたら教えるつもりでいるので、興味はあるけど踏み出せないでいる作家さんは、気軽に聞いてもらえたらと思います。

 そうして、みんなでノウハウを貯めて、一定のスタンダードみたいな形が作れれば、また新しい人への門戸が広がることにもなりますし。だから、とりあえず、みんなには「やれるところからやろうよ」って言いたいですね。

小形 単行本が売れない青木のようなタイプの漫画家さんは、他にもたくさんいるはずです。電子書籍市場がうまく離陸すれば、そういう作家さんにとっても福音となるはずです。今まで蓄積したノウハウを公開するのは当然として、さらに経験を積んでコンサルティングのようなことで役に立てればいいなと思っています。

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