「シンプソンズファンはプライドを持っている」 名優・大平透が心を許した「シンプソンズファンクラブ」とオリジナル声優たちの12年間:連載「オタクの幸せ」(2/3 ページ)
一城さんは「初めてマージを見たときにこの役をどうしてもやりたい! っていう思いが強くて。当時の担当マネージャーに『お願いだからなんとかこの役を私が演じられるように、私も祈るからあなたも祈ってほしいの。お願いお願い!』って言っていたんです。そうしたらしばらくたったある日の夜中に『一城さん! マージできるよ!』と電話が鳴って」と振り返り、長いオーディションを経て、最終的にバート役が堀絢子さん(代表作に『新オバケのQ太郎』のQ太郎、『忍者ハットリくん』のハットリカンゾウなど)に決定した際、「これでやっと家族がそろった〜! って思ったんです。文句なしのキャスティングですよ!」と振り返りました。
一方で自身が演じるマージについては「ひょっとしたらマージは私じゃないのかもしれない」と葛藤した期間もあったといい、「まだ若かったこともあって、ああいう役柄をやっていなかったですし、外国映画の吹き替えが多かったこともあって、作りすぎているんじゃないかって思っていたんです。そうしたら、石丸博也さん(代表作に『マジンガーZ』の兜甲児、ジャッキー・チェンの吹替など。『ザ・シンプソンズ』ではライオネル・ハーツなど)が『お前が一番いいんだよ!』と仰ってくださって。自信がつきました!」と笑顔で語りました。
また大平さんについては「家族(シンプソン一家を演じた声優)みんなかわいがってくださって、特に私のことは女房のように思ってくださってね。パパはスターだからちょっぴりわがままなところもあったんですけれども、ご自身が入院されたときに『みゆ希。来なくていいけれども、念のため入院先の病院の行き方は……』って病院の地図を送ってくるようなおちゃめなところもありました(笑)。私の主人も『大平さんは大スターなんだし、この業界の重鎮。僕に何かあってもみゆ希は大平さんを優先しなさい』と言ってくれてね」と家族ぐるみの付き合いだったと語りました。
声優陣の関係はシンプソンズそのもの
リサ役の神代知衣さんは「本当にね、あのまんまなんです。声優陣の関係はシンプソン一家そのものというか。だから大平さんがパパだし、一城さんはママですし、作品とスタジオの中にいる感じは同じなんですよ」と「ザ・シンプソンズ」の声優陣の特殊な関係性にも触れつつ、「日本の吹替は本当に精度の高さは素晴らしいんですよ。それぞれのキャストが本当にすごくて、例えば目黒ちゃん(スミサーズ役の目黒光祐さん)、島田さん(クラスティー役の島田敏さん)、とびちゃん(飛田展男さん)はいくつもの役を掛け持ちしていますが、演じ分けがすごいんですよ。パッと聞いただけでは分からないぐらい本当に幅の広い演じ方ができる方ばかりです」と語りました。
またファン交流会から約12年が経ったこのタイミングで取材を受けることになったという偶然については「パパ(大平さん)が上からすごい策を練ってくれていたんだと思います(笑)」と神代さん。一城さんも「本当にそうだと思います(笑)。ファン感謝祭や今日のような交流会を続けられているのは、ピンクドーナツさんとパパ(大平さん)がすごく深いところでつながっていたからです。パパが体調を崩したときにはファンクラブの皆さんがすごく気遣ってくださっていたし、お食事まで作りに行ってくださっていましたし、そういうことをやってくださっていたからこそ今日があると思います」と答え、「ピンクドーナツさんのお人柄やファンクラブの皆さんあってのことだと思います」と話しました。
また神代さんが「多分パパはピンクドーナツさんのことが大好きだったと思います」と振り返ると、ピンクドーナツさんは「結構いろいろと仰っていただくことも多かったのですが、それも僕のことを思ってくださってなのかなぁって当時は思っていました」と笑顔を見せました。
レジェンド声優にとって、ファンは「ファミリーでありスプリングフィールドの住人」
そんなシンプソンズのオリジナル声優の皆さんにとって、ファンとはどんな存在なのか。一城さんは「当時は応援のコメントをたくさんいただいたんですよ。私のブログのコメント欄がパンクしてしまうほどたくさんのメッセージをいただいて本当に驚きました。それにその後またこういう形でよみがえるとは思っていなかったですからね。今ではファンクラブの皆さんもみ〜んなスプリングフィールドの住民だと思っているんですよ」とコメント。
また神代さんは「騒動が起こった当時はただただ降板という事実がショックで。泣いて泣いて、本当にみんなで泣いていたんですけれども。今まで会ったこともない、聞いたこともない知らない人たちが『オリジナル声優が良い』と立ち上がってくださったことを知って。『応援して下さる方がいたの!?』って驚きましたし、悲しみは感激に代わりました。今ではもうファンクラブの方っていうよりは、ファンの皆さんも含めてシンプソンズファミリーという感覚です」と振り返りました。
そうして始まった交流が現在に至るまで長く続けられている理由については、「シンプソンズファンクラブの方はすごく紳士的で、大人なんです。作品愛に溢れている方ばかりですけれども、世の中のこともよく分かっていて」「本当に大人な付き合いができる人たちだからこそだと思います」と一城さんと神代さん。
ピンクドーナツさんはファン側からの目線として、「私たちは業界の常識、というのは分かりませんが、一般常識は分かります。きっかけはファンと声優さんという立場でしたが、年を重ねるごとに私たちがどんな人なのかが伝わり、人間的なお付き合いに移っていったんだと思います」と語り、『ザ・シンプソンズ』という作品は少し特殊で、シニカルな笑いであったり、風刺であったりが大きな魅力の一つです。でも実は皮肉って知性のある人にしか分からないところがあったり、笑うための知識の下地が必要だったりするんですよね。シンプソンズファンクラブの皆さんは、リスペクトをもって声優さんたちと接されているのが印象的で、声優さんたちも好意的に受け取ってくださるのかもしれません」「好きだ好きだと感情的に押し付けてはいけないんです。控え目に、でもファンの声が全く聞こえないというわけではない距離感、そこがシンプソンズファンの良さであり特徴なのではないでしょうか」と話しました。
さらにこうしたファンの気遣いは大平透さんにもしっかりと届いていました。ピンクドーナツさんが大平さんと交わした数少ない手紙には次のようなメッセージが残されています。
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