絵を描くだけだったのが、ものを作るようになった 高木正文&BUNBUN&米山舞インタビュー:クリエイターズ・サバイバル アーティストの戦略教科書 第5回「SSS by applibot」(1/2 ページ)
三者三様の人生曲線。
「クリエイターズ・サバイバル アーティストの戦略教科書」とは
クリエイターに役立つ情報を発信するWebメディア「いちあっぷ」がお届けする連載企画。ねとらぼエンタでは、各インタビューの前編を転載掲載していきます。後編は「いちあっぷ」のサイト内でご覧ください。
2019年2月、突如として姿をあらわしたクリエイティブスタジオ「SSS by applibot」。「ソードアート・オンライン」のキャラクターデザインに関わるBUNBUN氏や、アニメ「キルラキル」の作画監督や「キズナイーバー」のキャラクターデザインを務めた米山舞氏をはじめとして、高木正文氏、7ZEL氏、NAJI柳田氏、一才氏、PALOW.氏、タイキ氏、というそれぞれが異なるジャンルで強烈な個性を放つクリエイターが集結した、今までにないクリエイティブ集団である。
ゲームやアニメなどの世界観構築からキャラクターデザインまで、作品に関わるさまざまなクリエイティブに取り組むスタジオが掲げる理念は「デザインの力で世界を震撼させる」。
そして2019年10月、「SSS by applibot」がデザイン協力した初のタイトルとしてリリースされたのが「SEVEN’s CODE(セブンスコード)」だ。今までにない音ゲーを目指して作られたアプリゲームは、そのコンセプト通り各所にこだわりが張り巡らされた挑戦的なタイトルになっている。
「クリエイターズ・サバイバル アーティストの戦略教科書」第5回。前編では「SSS by applibot」を束ねる代表の高木正文氏と、メンバーであるイラストレーター米山舞氏とBUNBUN氏の3人に話を伺い、前代未聞のスタジオについて解き明かすとともに、それぞれが一線で活躍するクリエイターとしての仕事の向き合い方に迫る。
「デザインの力で世界を震撼させる」
―― それぞれがスペシャリストと呼べる豪華メンバーを集めたコンセプトスタジオ「SSS by applibot」。その誕生は業界に大きな衝撃を与えた。
高木 SSSは株式会社アプリボットが立ち上げたクリエイティブスタジオです。
2018年5月に、アプリボットの社長と現在の上司にスタジオをつくらないかと誘われたのがきっかけでした。僕はマネジメントする立場として加わって、そこから現在のメンバーに声をかけていきました。
ジョインしたばかりの頃は「SSS」という名前もなく、コンセプトを作るスタジオとしか決まっていませんでした。
―― 「デザインの力で世界を震撼させる」。その信念を語るのは、イラストレーターとしても活躍し、「SSS by applibot」では代表を務める高木正文氏。
高木 アプリボットはゲームを中心につくってきた会社ですが、昨今ではゲーム会社に限らずコンテンツ会社はみんな自社オリジナルの新規IPを作ろうとしているのだと感じます。
そのために外部からクリエイターを起用するというやり方と、自社のクリエイターを立てていくというやり方があるのですが、弊社はクリエイティブに強い思いがあり、そこに共感してくれる外部のメンバーに来ていただいて、新規IPを作ろうと考えたのがSSSです。
そこで、イラストレーターとしての技量はもちろんのこと、加えてIPづくりにも興味がありそうな人に声をかけていきました。
―― そうして加わったメンバーの中から、米山舞氏とBUNBUN氏にもお話を伺う。
米山 私は2018年の7月頃に誘われたんですが、最初は具体的に何をやるのか想像できていませんでした。でも、会社に属してものを作ることにはひかれるものがあり、話を聞いてみました。そこで参加メンバーを聞いて加入しようと思ったんです。
BUNBUN 僕も連絡をもらって、最初はお話だけということで京都に来てもらったんです。会ってお話を聞いたその段階でメンバーとしてPALOW.さん、米山さん、7ZELさんは前向きに考えていると聞いたので、興味が湧きました
京都に完全に根を下ろしていたので、悩んでいたのですが、後日、見学しにいった頃には他のメンバーがすでに加わっており、スタジオとして走り出していたので思い切って加入しました。
―― かつてないクリエイティブスタジオとして立ち上がった「SSS by applibot」、メンバーが感じるその特色とは。
米山 フレッシュさというよりは実力と経験、知識がある人を選んでいるところがポイントでした。アニメーターの私を呼んだかと思えば、ラノベの王道を行くBUNBUNさんもいらっしゃっていて、何が起こるのか分からないワクワクを感じたんです。同じスタジオに、いろんな個性や経験のクリエイターが集まることによって、新たに生まれる刺激を求めにきた感覚はありますね。
高木 各メンバーがそれぞれの業界を代表するような実績をあげているのはもちろん、BUNBUNなら「ソードアート・オンライン」、米山なら「キルラキル」や「キズナイーバー」など、他ジャンルから注目を集めるレベルなのもポイントで、そんなメンバーが7人も集っています。
僕は彼らのことをアーティストと呼んでいるのですが、それぞれ才能のある一人一人が一堂に会することで化学反応を起こしていくのは、さながらバンドのようでもあると思っています。
「アニメの米山がゲームを作っているぞ」とか、「ゲームのタイキが今度はアニメをやるらしい」とか、そういう越境的な面白さを感じてもらいたいですね。
―― それぞれのジャンルで、フリーランスとして活躍してきたクリエイターたちは、チームでの業務というクリエイティブの変化を敏感に感じ取る。
米山 仕事の取り組み方はかなり変わりましたね。同じオフィスに集まって作業しているんですが、絵を描くことと雑談の割合が普段は3対7くらいになっているんです(笑)。
BUNBUN さすがにもうちょっと描いているでしょ(笑)。
米山 (笑)。そのくらいお互いにコミュニケーションを取りながら描いているんですが、そうすると自分のやり方だけじゃなくて、みんなのメソッドを取り入れながら描けるようになってきました。
すごいメンバーが集まっているからこそ、周りに見せても恥ずかしくないものを描こうという気持ちも湧いてきますね。
BUNBUN メンバーにはさまざまなスキルや実績を持つクリエイターが集まっているのですが、僕のキャリアはこれまでライトノベルが中心で、経験してきたジャンルはそこまで幅広くはないので焦っていました。だからこそ絶好の機会だと思って、他の人のいいところを日々吸収しています。この前、京都に帰った折、アニメーターの姉(堀口悠紀子 ※1)に「影響を受けたのがすごく分かりやすいよね」って言われてしまいましたね(笑)。
僕は、まずはキャンパスにペンを走らせて手を動かしながら考えるタイプなのですが、PALOW.さんや7ZELさんの仕事を見ていると、作業に入る前にデザインの作戦や意図を立ててから出力作業に入っていたり、それらを絵に描きだすのがわけわかんない精度だったりするんですよね。メンバーそれぞれ、工程一つ一つにアプローチ方法やスタンスとして積み上げてきたものや確信があって、一緒にいることで学ぶことができるので、良い影響を受けていると思います。
※1 堀口悠紀子。京都アニメーション出身。「らき☆すた」「映画けいおん!」などで総作画監督、キャラクターデザインなどを務めた。「新サクラ大戦」では弟のBUNBUN氏とともにゲストキャラクターデザインを手掛けている。
―― 互いに刺激しあう才能。それを束ねる高木氏はそれぞれのメンバーについて、どんな魅力を感じているのか。
高木 優れた7人のなかでも、アイデアがズバ抜けて面白いのが7ZELです。彼はカリスマ的で、まさにアイデアマンといえます。米山はなんといっても画力が突出しています。絵の力が強いですね。
BUNBUNはどのキャラクターも主人公級にできる凄腕デザイナーですね。NAJI柳田は他のメンバーが苦戦する領域でも活躍できる、僕たちの屋台骨になっています。議論が滞りそうなときに突飛(とっぴ)なアイデアを出せるトリックスター的存在が一才です。
タイキはザ・クリエイター。自分のメソッドに従って、スケジュールを守りながら高いクオリティーを出すことができます。そしてPALOW.はリーダー的存在です。SSSがブランドとしてどうなっていくべきかを考え発言することができるので、監督的な目線も持ち合わせていますね。
ものを作るようになった
―― それぞれ自分の分野での成功を収めていた2人だが、フリーランスという在り方にこだわりはなかったのだろうか。
米山 私はもともと、フリーランスという立場にはそんなにこだわっていなかったんです。アニメーションはクールごとに新しい作品があるので、フリーランスであれば、一つの作品が終われば次の作品へと仕事をしていくことができました。しかし、そこで求められるのはメインキャラクターデザインに合わせて描く技術なんです。
だから今回、私の個性を評価してもらえたのがとてもうれしかったんです。
BUNBUN 僕はずっと京都を拠点に活動していたんですが、大きな企画にメインスタッフとして参加していても、フリーランスという立場で関わっていると、チームの一番外側にいる感覚があったんです。
もちろんクリエイターとして作品づくりに関わっていますが、東京での会議とか現場に出てないからチームの意思統一までの過程や経緯、空気感が分からなかったりします。もちろん直接ネット通話などで、文章では伝わりづらいニュアンスなど必要な情報はいただいていますし、逆に確信があるなら空気を読まないデザインを仕上げやすかったり利点もあるのですが、しっかりチームの中に入ってものを作ることへの憧れも持つようになりました。
でも通勤がとてもネックでした。例えば会社まで片道30分だとしたら、往復で1時間かかりますよね。それが週5だと5時間で、1カ月で20時間になります。20時間あったら、その時間で1枚ちゃんとした絵を描けてしまうなという計算をしてしまうんです。
残りの人生で何枚絵が描けるだろうとも考えたときに、通勤という時間が非効率に思えて、会社に入ることに非常に懐疑的でした。
あとは「自分のやりたくない仕事をやらされてしまうのでは」という懸念もありました。総じて自分の可能性を狭められるのはとても嫌だったので、すごく相談しましたね。
米山 と言いつつ、SSSのメンバーの中で一番仕事しているのがスゴいところですよ。
―― ゲーム開発という新たなフィールドへの挑戦は2人のクリエイターにどんな刺激をもたらしたのか。
米山 これまでは、プロジェクトやクライアントの求めるものに応えられるようなものを作ることが重要でした。でも今はそもそも案自体がいいのかどうかを考えるようになったんです。
ご依頼いただいた通りにものを作るだけでなく、それが最終的にどう見られるかまで考えたり、自分がやる意義があるかの精査をしっかりするようになりました。仕事に対してより主体的になったというか、今までは絵を描くだけだったのが、ものを作るようになった感覚です。
だからこそ、以前より挑戦するようになりました。AかBで聞かれているのに、もっと面白いと思ったCを提案してしまうような。いかに相手の期待以上に面白いものを考えられるかといった感覚がありますね。
―― SSSというスタジオで、その環境を作り上げた代表の高木氏には、これまでの経験から培ったマネジメント哲学があった。
高木 マネジメントはやればやるほど答えがないものですが、結局はこのメンバーで目標を成し遂げるってことしかないと思っています。
そのためには各メンバーがのびのびと長所を伸ばせる環境作りが必要で、それは僕が注力している部分でもあります。
さっきも言っていた通り、SSSはとてもコミュニケーションが多いスタジオなのですが、普段から会話が密なので、大事なクリエイティブの話もしっかりできるようになっていて、安心してアクションを起こせる環境ができているのではないでしょうか。
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