絵を描くだけだったのが、ものを作るようになった 高木正文&BUNBUN&米山舞インタビュークリエイターズ・サバイバル アーティストの戦略教科書 第5回「SSS by applibot」(1/2 ページ)

三者三様の人生曲線。

» 2020年01月15日 18時00分 公開

「クリエイターズ・サバイバル アーティストの戦略教科書」とは

クリエイターに役立つ情報を発信するWebメディア「いちあっぷ」がお届けする連載企画。ねとらぼエンタでは、各インタビューの前編を転載掲載していきます。後編は「いちあっぷ」のサイト内でご覧ください。



SSS by applibot 米山舞 高木正文 BUNBUN

 2019年2月、突如として姿をあらわしたクリエイティブスタジオ「SSS by applibot」。「ソードアート・オンライン」のキャラクターデザインに関わるBUNBUN氏や、アニメ「キルラキル」の作画監督や「キズナイーバー」のキャラクターデザインを務めた米山舞氏をはじめとして、高木正文氏、7ZEL氏、NAJI柳田氏、一才氏、PALOW.氏、タイキ氏、というそれぞれが異なるジャンルで強烈な個性を放つクリエイターが集結した、今までにないクリエイティブ集団である。

 ゲームやアニメなどの世界観構築からキャラクターデザインまで、作品に関わるさまざまなクリエイティブに取り組むスタジオが掲げる理念は「デザインの力で世界を震撼させる」。

 そして2019年10月、「SSS by applibot」がデザイン協力した初のタイトルとしてリリースされたのが「SEVEN’s CODE(セブンスコード)」だ。今までにない音ゲーを目指して作られたアプリゲームは、そのコンセプト通り各所にこだわりが張り巡らされた挑戦的なタイトルになっている。

 「クリエイターズ・サバイバル アーティストの戦略教科書」第5回。前編では「SSS by applibot」を束ねる代表の高木正文氏と、メンバーであるイラストレーター米山舞氏とBUNBUN氏の3人に話を伺い、前代未聞のスタジオについて解き明かすとともに、それぞれが一線で活躍するクリエイターとしての仕事の向き合い方に迫る。

「デザインの力で世界を震撼させる」

―― それぞれがスペシャリストと呼べる豪華メンバーを集めたコンセプトスタジオ「SSS by applibot」。その誕生は業界に大きな衝撃を与えた。

高木 SSSは株式会社アプリボットが立ち上げたクリエイティブスタジオです。

 2018年5月に、アプリボットの社長と現在の上司にスタジオをつくらないかと誘われたのがきっかけでした。僕はマネジメントする立場として加わって、そこから現在のメンバーに声をかけていきました。

 ジョインしたばかりの頃は「SSS」という名前もなく、コンセプトを作るスタジオとしか決まっていませんでした。

―― 「デザインの力で世界を震撼させる」。その信念を語るのは、イラストレーターとしても活躍し、「SSS by applibot」では代表を務める高木正文氏。

高木 アプリボットはゲームを中心につくってきた会社ですが、昨今ではゲーム会社に限らずコンテンツ会社はみんな自社オリジナルの新規IPを作ろうとしているのだと感じます。

 そのために外部からクリエイターを起用するというやり方と、自社のクリエイターを立てていくというやり方があるのですが、弊社はクリエイティブに強い思いがあり、そこに共感してくれる外部のメンバーに来ていただいて、新規IPを作ろうと考えたのがSSSです。

 そこで、イラストレーターとしての技量はもちろんのこと、加えてIPづくりにも興味がありそうな人に声をかけていきました。

SSS by applibot 米山舞 高木正文 BUNBUN ▲高木正文氏

―― そうして加わったメンバーの中から、米山舞氏とBUNBUN氏にもお話を伺う。

米山 私は2018年の7月頃に誘われたんですが、最初は具体的に何をやるのか想像できていませんでした。でも、会社に属してものを作ることにはひかれるものがあり、話を聞いてみました。そこで参加メンバーを聞いて加入しようと思ったんです。

BUNBUN 僕も連絡をもらって、最初はお話だけということで京都に来てもらったんです。会ってお話を聞いたその段階でメンバーとしてPALOW.さん、米山さん、7ZELさんは前向きに考えていると聞いたので、興味が湧きました

 京都に完全に根を下ろしていたので、悩んでいたのですが、後日、見学しにいった頃には他のメンバーがすでに加わっており、スタジオとして走り出していたので思い切って加入しました。

SSS by applibot 米山舞 高木正文 BUNBUN ▲米山舞氏のイラスト

―― かつてないクリエイティブスタジオとして立ち上がった「SSS by applibot」、メンバーが感じるその特色とは。

米山 フレッシュさというよりは実力と経験、知識がある人を選んでいるところがポイントでした。アニメーターの私を呼んだかと思えば、ラノベの王道を行くBUNBUNさんもいらっしゃっていて、何が起こるのか分からないワクワクを感じたんです。同じスタジオに、いろんな個性や経験のクリエイターが集まることによって、新たに生まれる刺激を求めにきた感覚はありますね。

高木 各メンバーがそれぞれの業界を代表するような実績をあげているのはもちろん、BUNBUNなら「ソードアート・オンライン」、米山なら「キルラキル」や「キズナイーバー」など、他ジャンルから注目を集めるレベルなのもポイントで、そんなメンバーが7人も集っています。

 僕は彼らのことをアーティストと呼んでいるのですが、それぞれ才能のある一人一人が一堂に会することで化学反応を起こしていくのは、さながらバンドのようでもあると思っています。

 「アニメの米山がゲームを作っているぞ」とか、「ゲームのタイキが今度はアニメをやるらしい」とか、そういう越境的な面白さを感じてもらいたいですね。

SSS by applibot 米山舞 高木正文 BUNBUN ▲BUNBUN氏のイラスト

―― それぞれのジャンルで、フリーランスとして活躍してきたクリエイターたちは、チームでの業務というクリエイティブの変化を敏感に感じ取る。

米山 仕事の取り組み方はかなり変わりましたね。同じオフィスに集まって作業しているんですが、絵を描くことと雑談の割合が普段は3対7くらいになっているんです(笑)。

BUNBUN さすがにもうちょっと描いているでしょ(笑)。

米山 (笑)。そのくらいお互いにコミュニケーションを取りながら描いているんですが、そうすると自分のやり方だけじゃなくて、みんなのメソッドを取り入れながら描けるようになってきました。

 すごいメンバーが集まっているからこそ、周りに見せても恥ずかしくないものを描こうという気持ちも湧いてきますね。

BUNBUN メンバーにはさまざまなスキルや実績を持つクリエイターが集まっているのですが、僕のキャリアはこれまでライトノベルが中心で、経験してきたジャンルはそこまで幅広くはないので焦っていました。だからこそ絶好の機会だと思って、他の人のいいところを日々吸収しています。この前、京都に帰った折、アニメーターの姉(堀口悠紀子 ※1)に「影響を受けたのがすごく分かりやすいよね」って言われてしまいましたね(笑)。

 僕は、まずはキャンパスにペンを走らせて手を動かしながら考えるタイプなのですが、PALOW.さんや7ZELさんの仕事を見ていると、作業に入る前にデザインの作戦や意図を立ててから出力作業に入っていたり、それらを絵に描きだすのがわけわかんない精度だったりするんですよね。メンバーそれぞれ、工程一つ一つにアプローチ方法やスタンスとして積み上げてきたものや確信があって、一緒にいることで学ぶことができるので、良い影響を受けていると思います。

※1 堀口悠紀子。京都アニメーション出身。「らき☆すた」「映画けいおん!」などで総作画監督、キャラクターデザインなどを務めた。「新サクラ大戦」では弟のBUNBUN氏とともにゲストキャラクターデザインを手掛けている。

―― 互いに刺激しあう才能。それを束ねる高木氏はそれぞれのメンバーについて、どんな魅力を感じているのか。

高木 優れた7人のなかでも、アイデアがズバ抜けて面白いのが7ZELです。彼はカリスマ的で、まさにアイデアマンといえます。米山はなんといっても画力が突出しています。絵の力が強いですね。

 BUNBUNはどのキャラクターも主人公級にできる凄腕デザイナーですね。NAJI柳田は他のメンバーが苦戦する領域でも活躍できる、僕たちの屋台骨になっています。議論が滞りそうなときに突飛(とっぴ)なアイデアを出せるトリックスター的存在が一才です。

 タイキはザ・クリエイター。自分のメソッドに従って、スケジュールを守りながら高いクオリティーを出すことができます。そしてPALOW.はリーダー的存在です。SSSがブランドとしてどうなっていくべきかを考え発言することができるので、監督的な目線も持ち合わせていますね。

SSS by applibot 米山舞 高木正文 BUNBUN ▲SSSの公式サイト

ものを作るようになった

―― それぞれ自分の分野での成功を収めていた2人だが、フリーランスという在り方にこだわりはなかったのだろうか。

米山 私はもともと、フリーランスという立場にはそんなにこだわっていなかったんです。アニメーションはクールごとに新しい作品があるので、フリーランスであれば、一つの作品が終われば次の作品へと仕事をしていくことができました。しかし、そこで求められるのはメインキャラクターデザインに合わせて描く技術なんです。

 だから今回、私の個性を評価してもらえたのがとてもうれしかったんです。

BUNBUN 僕はずっと京都を拠点に活動していたんですが、大きな企画にメインスタッフとして参加していても、フリーランスという立場で関わっていると、チームの一番外側にいる感覚があったんです。

 もちろんクリエイターとして作品づくりに関わっていますが、東京での会議とか現場に出てないからチームの意思統一までの過程や経緯、空気感が分からなかったりします。もちろん直接ネット通話などで、文章では伝わりづらいニュアンスなど必要な情報はいただいていますし、逆に確信があるなら空気を読まないデザインを仕上げやすかったり利点もあるのですが、しっかりチームの中に入ってものを作ることへの憧れも持つようになりました。

 でも通勤がとてもネックでした。例えば会社まで片道30分だとしたら、往復で1時間かかりますよね。それが週5だと5時間で、1カ月で20時間になります。20時間あったら、その時間で1枚ちゃんとした絵を描けてしまうなという計算をしてしまうんです。

 残りの人生で何枚絵が描けるだろうとも考えたときに、通勤という時間が非効率に思えて、会社に入ることに非常に懐疑的でした。

 あとは「自分のやりたくない仕事をやらされてしまうのでは」という懸念もありました。総じて自分の可能性を狭められるのはとても嫌だったので、すごく相談しましたね。

米山 と言いつつ、SSSのメンバーの中で一番仕事しているのがスゴいところですよ。

―― ゲーム開発という新たなフィールドへの挑戦は2人のクリエイターにどんな刺激をもたらしたのか。

米山 これまでは、プロジェクトやクライアントの求めるものに応えられるようなものを作ることが重要でした。でも今はそもそも案自体がいいのかどうかを考えるようになったんです。

 ご依頼いただいた通りにものを作るだけでなく、それが最終的にどう見られるかまで考えたり、自分がやる意義があるかの精査をしっかりするようになりました。仕事に対してより主体的になったというか、今までは絵を描くだけだったのが、ものを作るようになった感覚です。

 だからこそ、以前より挑戦するようになりました。AかBで聞かれているのに、もっと面白いと思ったCを提案してしまうような。いかに相手の期待以上に面白いものを考えられるかといった感覚がありますね。

―― SSSというスタジオで、その環境を作り上げた代表の高木氏には、これまでの経験から培ったマネジメント哲学があった。

高木 マネジメントはやればやるほど答えがないものですが、結局はこのメンバーで目標を成し遂げるってことしかないと思っています。

 そのためには各メンバーがのびのびと長所を伸ばせる環境作りが必要で、それは僕が注力している部分でもあります。

 さっきも言っていた通り、SSSはとてもコミュニケーションが多いスタジオなのですが、普段から会話が密なので、大事なクリエイティブの話もしっかりできるようになっていて、安心してアクションを起こせる環境ができているのではないでしょうか。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた