森永卓郎が解説〜4月から変わる労働法「同一労働同一賃金の不条理な真実」
4月から大企業では同一労働同一賃金を含む「パートタイム・有期雇用労働法」が施行されるが……。
「垣花正 あなたとハッピー!」(2月26日放送)に経済アナリストの森永卓郎が出演。4月から施行される「パートタイム・有期雇用労働法」について解説した。
同一労働同一賃金を含む「パートタイム・有期雇用労働法」が施行
4月から法律が変わり、大企業では同一労働同一賃金を含む「パートタイム・有期雇用労働法」が施行されます。中小企業は来年(2021年)の4月からです。雇用形態に関わらず、同じ仕事に関しては同じ賃金を払うということが法律で要請されることになります。有期雇用労働者とは、契約社員、派遣社員、パート社員などの非正規労働者のうち、雇用期間が定められている人のことです。一部外注でやっている人もある程度は含まれると言う人もいますが、そこはグレーです。
正社員と非正社員で支払われている金額の格差が大きい日本
賃金構造基本統計調査で年収を計算すると、正社員は平均500万円、契約社員等で295万円、パートタイマーは120万円となります。これらは働く時間も違いますので、時給にすると、正社員は2329円。契約社員等の派遣や非正社員が1428円、パートが1169円となります。ボーナスも込みにして時給換算しました。正社員とパートの差は半分です。このなかには、工場などで社員とパートがまったく同じ仕事をしているというケースも少なくありません。
このような雇用条件は先進国では日本だけ
こんなことをしているのは、先進国では日本だけです。そもそも欧米は年功賃金体系ではなく、職務給で「この仕事の給料はいくらです」という決め方をしています。だから新入社員で入っても、その職にとどまると給料は一生上がりません。「同じことをやっているのであれば、基本給料は同じ」ということは世界の常識です。日本だけがおかしなことをやっているのです。正社員の側からすれば、正社員を手厚く守って、それ以外は「契約の仕方が違うので我慢してください」ということがまかり通って来たのです。結婚して子どもが生まれると、保育所に預けて働き続ける女性が多いのは、本当なら小さいうちは自分で育てたいと思っていても、辞めてパートになり、賃金が半分になると思ったら辞めることができないからです。
法律が変わる〜厚生労働省のガイドライン
それが4月から法律上は是正されるのですが、法律には「賃金、賞与、福利厚生、教育訓練にいたるまで、食堂の扱いなども含めて全て差別禁止」とあります。しかし、完全に同一にすべきことは厚生労働省のガイドラインによると、「通勤手当、社員食堂、慶弔休暇などに限られる」ということです。「パートは社員食堂を使ってはいけないとか、割引しないなどの差別はいけない」ということです。完全に同一にすべきポイントが「そこ?」という話です。
基本給についてのガイドラインの曖昧さ
厚生労働省は基本給について、「能力や経験などが同じであれば」という条件です。ボーナスについては「会社の業績等への貢献度が同じであれば」という条件です。能力や経験などが同じであればというのは、例えば会社側の言い分だと「パートは昇進もないし、責任が違うのだから給料が安くて当然」だということになってしまいます。この逃げ道が用意されていると、格差はあまり是正されないのではないでしょうか。
正社員の待遇を不利益に変更する場合は、原則として労使の合意が必要〜実効性がどこまであるのか
企業の方からすると、1980年は非正社員の比率が15%ほどでした。いまは40%弱です。非正社員を増やすことによって、人件費を抑えて来ました。会社は商売していますから、払える給料の総額には限界があります。同一労働同一賃金を実行しようと思ったら、正社員の給料を下げないとできないのが現実です。ところが厚生労働省のガイドラインによると、「正社員の待遇を不利益に変更する場合は、原則として労使の合意が必要」と書いてあります。労働組合が「正社員の給料を下げましょう」と言わなければできません。でも労働組合はだいたい正社員が入っているので、「給料を下げますよ」とは言わないでしょう。結局、理想を掲げたのはいいのですが、実効性がどこまであるのかは大きな疑問です。
オランダの「ワッセナー合意」
では、海外ではどうなっているのか。いちばんの典型はオランダです。1982年にワッセナーというところで、政労使が「ワッセナー合意」というものを結びます。そこでは組合が無理な賃上げをしない、経営者が無理な首切りをしないなどいろいろなことが決まりましたが、そのなかで「完全な同一労働同一賃金を実現しましょう」ということが決まったのです。いま日本で正社員を辞めてパートに変わると、労働時間が減るだけではなく、賃金が半分減るので年収は4割になります。しかしオランダでは、どんなに労働時間が短くても時給はみんな一緒なのです。労働時間が8割となっても、貰うお金も8割なのです。
完全な同一労働同一賃金の実践によって奇蹟的な復興を遂げたオランダ経済
これが社会を変えました。男性のパートタイマーが激増したのです。みんな死ぬほど働きたいとは思っていなかったということです。もう1つは、いろいろな会社で働く人が増えました。午前中はA社で午後はB社など、いろいろな働き方をする人が増えたので、いろいろな経験をしたことによって、新しいアイデアが泉のように湧き出しました。それで何が起こったのかと言うと、オランダ経済は奇跡の復興を遂げたのです。アイデアは異質な知識が結びついたときに生まれます。朝から晩まで会社人間より、いろいろな経験をしている人の方がアイデアは出るのです。
日本はオランダを見習うべき
とりあえず第一歩は今回の法律で踏み出したので、政府はこれを実行性のあるものにするべきです。ただ、ここで踏み出したのは歴史的に大きな1歩だと思います。そして、日本はオランダを見習うべきです。
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