“推し”との別れ、どうやって乗り越えましたか? 気持ちを整理したいあなたに寄り添う同人誌『R・I・P』:司書みさきの同人誌レビューノート
お別れの、その先のお話。
春間近、そろそろ新番組の放送も近づき、あれこれ新作が気になる時期です。最初から気になる作品もあれば、前触れなくハマってしまう作品もありますよね。そして大好きな作品には応援したい推しのキャラクターがいて……。今回の同人誌は、大切な「推し」を天へと送ることになってしまった人へのご本です。
今回紹介する同人誌
『R・I・P』vol.1 B5 36ページ 表紙カラー・本文モノクロ
著者:ほかほかダイアモンド
推しと別れたときに……私はこうしたよ、のやさしい問わず語り
ご本は対談から始まり、その中で推しとの別れについてキーポイントになる一言が語られます。「推しがいなくなっても仕事を休めない」。そう、衝撃は心の中にやってきて、外からは見えないのです。お別れの喪失感と一緒にやってくる、推しと別れても生活に変化がないという、内面と外面のギャップ。生身の付き合いをしていないからこその距離感の埋め方に戸惑うのは、相手が「推し」ならではの現象ではないでしょうか。
そんな衝撃とギャップを抱えたときにどうしたらいいのか。物語に登場するキャラクターを大切に思い、そしてあるとき永遠の旅立ちを見送ることになってしまったお二人が、「そのときどうした?」と語り合います。花屋さんでお花を買った、クッションに突っ伏して叫ぶ、推しの好きな食べ物を見て連想する……自分がやったこと、周囲の方々から聞いたことなど、ごく身の回りでの出来事がつづられています。
千差万別な衝撃に寄り添う方法はいくつ知っていてもいい
コラムや特集で、旅行や映画、音楽など悲しみとともにある時期にやった具体的なことが次々と紹介され、四コママンガでは、「推しと別れた数か月後にハマった新たなジャンルの推しも散っていった」などのエピソードが描かれます。そうなんです。そこも推し事情にありがちな特性ですよね。推しとの別れは意外に頻繁に発生したりするのです。悲しみながらも少し客観的に見て四コマに描くコミカルさも、また一つの別れへの寄り添い方のように思います。
推しへの思いの方向性はキャラクターや状況によって、さまざまにバリエーションがあります。だからこそ、それに寄り添う方法はいくつ知っていても知りすぎるということはありません。生身の相手とのお別れの仕方を書かれたご本は儀式のやり方含めていままでたくさん知っていますが、推しへのまとめをなぜ読んだことがなかったのか、私たちはこんなにも「推し」を推しているのに……! と思うほどに、ああ、この本が世に出てよかった! とぐっと拳を握りました。
対面しない相手へのエールを、同人誌という形で広げて
丸々一冊がお別れのことを取り扱っているので、推しの相手への喪失感が生々しい方の読書は、時につらいかもしれません。でも、どんなになっても好きな人のことを語りたい気持ちってあるように思います。いなくなってしまったから語れない、思うことができないって、それが一層さみしいです。
物語から退場したとしても、推しのために何かしたい。悼む気持ちと、できればこれからも共に幸せでありたい……ご本のなかには、生存していてもいなくても、距離感は変わらないこその寄り添い方を模索するやり方がさまざまに挙げられて、それは推しがいる限り、変わらないエールのような気がしました。
悲しみと衝撃の中で手探りするのに、指に触れるものはたくさんあったほうがいい。出会えてよかった一冊です。
今週の余談
美しいものって人によって違いますよね。お花が美しい人もいれば、車が美しいと感じる人もいらして。お洋服も、メカも、風景も。美しいと思える引っ掛かりが増えるように、美しい理由をたくさん知ってみたいです。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。
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