プリキュア映画と「応援」の話 120%の力を引き出す「プリキュアがんばれー」:サラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)
パワーアップ以外にも使われるミラクルライト
映画の中でミラクルライトの「応援」はプリキュアをパワーアップさせるだけではなく、さまざまな用途で使用されています。
例えば「映画 プリキュアオールスターズNewStageみらいのともだち」(2012年)では、終盤キュアエコーを導く「道」を作るために利用されたり、「映画プリキュアドリームスターズ!」(2017年)では主人公サクラを異世界へと導いたり、「映画スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて」(2019年)では、星の再生に使われたりとミラクルライトは「導き」や「再生」などさまざまな用途で利用されます。
さらに「映画HUGっと!プリキュア・ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ」(2018年、「・」はハートマーク)では、ミラクルライトの光と観客の記憶がプリキュアを復活させる、というメタ的な使用もされています。
ミラクルライトを使っての応援は、プリキュアに力を仮託するためだけではなく、子どもたちがプリキュアを助け、導き、一緒にプリキュアと戦うための道具でもあるのです。子どもたちはミラクルライトを通し応援と同時にプリキュアを導き、一緒に戦っているのです。
「プリキュアの応援」は神と人間の交流
応援の効果が「力の仮託」だけではない、ということに関しては面白い研究があります。先述の「J-STAGE」に収録されている「広島市民球場におけるプロ野球の集合的応援に関する研究」です。
この研究ではプロ野球チーム「広島東洋カープ」の応援を通して、プロ野球の応援が「儀礼」(形式にのっとった宗教的行為)の特徴を有しており、応援行為が儀礼的イベントとして集合的カタルシスを引き起こすとしています。
また広島市民球場における応援は農耕儀礼に基づくリズムを形成し、「日本の神話的思想に基づく呪術的な行為を示唆」していると言います。
応援で用いられるリズムの基本型は、農耕儀礼で用いられる「ビンザサラ」のリズムと同じであった。また、リズムの型は3拍と7拍が核となり、女性のジェンダーを表象し、現世から神々への報告である「打ち鳴らし」の形態をとっていた。このことは、プロ野球の応援において、豊饒を願う農耕儀礼と同じように自分のチームの勝利をかなえようとして行う、日本の神話的思考に基づく呪術的な行為が表出されているということを示唆しているのかもしれない。
「広島市民球場におけるプロ野球の集合的応援に関する研究」から引用
応援とはすなわち「儀礼」であり「日本の神話的思想に基づく呪術的な行為」でもあったのです。
さらに海外に目を向けると、スコットランドの宗教学者ロバートソン・スミスは「儀礼の起源が神と人間との交流としての供儀にあり、儀礼は信仰に先行する」と論じています。またイギリスの文化人類学者ラドクリフ・ブラウンは「儀礼に参加することにより個人の情緒が安定することで社会の統合がもたらされる」とし、儀礼は個人の欲求を満たし社会の平衡状態を維持する機能があると論じています(出典:コトバンク「儀礼」)。
つまり「プリキュアを応援する」という行為は、神と人間の交流であり、応援を通じて個人の情緒の安定と社会の平衡状態を維持することにもつながっているといえるのではないでしょうか。
「プリキュアを応援する」のはプリキュアをパワーアップさせるためだけではないのです。プリキュアの応援とはすなわち、神と人間の交流であり、個人の情緒を安定させているのです(個人的に身に覚えがあります)。
「プリキュア、頑張ってるね」
ここまでで「プリキュアへの応援」がプリキュアにも自分たちにも必要なことが分かりました。子どもたちは「プリキュアーがんばれー」とプリキュアを応援します。でも、大人はそれで良いのでしょうか。無邪気に「頑張れ」というのは正しいのでしょうか。
元プロテニス選手の松岡修造氏は、その著書『応援する力』において、頑張っている選手に「頑張れ」というのは逆効果であると語っています。
すでにマックスまで頑張っている選手に、「頑張れ」ということは、逆効果である場合が少なくありません。
(中略)
だから僕は本気で頑張っていると思う人には、決して「頑張れ」とは言いません。すでに頑張っている人の背中を無理やり押しても、それは余計なお世話になってしまうとわかっているからです。
(引用:朝日新聞出版 松岡修造著 『応援する力』P52、53)
この「頑張っている人に“頑張れ”ということは逆に負担になる」という考え方はくしくも「HUGっと!プリキュア」(2018年)の第5話で、ハムスター型の妖精ハリハム・ハリーが野乃はな(キュアエール)に言った「十分頑張っとるやつに、頑張れ言うのは酷やで」という言葉と一致しています。
応援を生業(なりわい)とする松岡氏も、応援がテーマの「HUGっと!プリキュア」においても「頑張っている人に頑張れと言うのは酷」と言います。
でもわれわれはプリキュアを応援したいじゃないですか。ならばどんな声を描ければよいのでしょうか。
松岡氏は言います。
その代わりに僕は「頑張ってるね」というようにしています。「頑張れ」と「頑張っているね」では、同じようでいてだいぶニュアンスが異なります。「頑張っているね」はすでに十分に頑張っている相手の努力を「ちゃんと見ているよ」と伝える言葉でもあるのです。
(引用:朝日新聞出版 松岡修造著 『応援する力』P53)
そうです。「頑張っているね!」と声をかけるのです。
子どもたちは「プリキュアー頑張れ―」と応援します。われわれ大人は、「プリキュアー! 頑張ってるねー!!」と応援するのも良いかも知れませんね(もちろん「頑張れー」でも良いですけどね)。
映画プリキュアミラクルリープは5月16日公開
子どもも大人もプリキュアを応援できる「映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日」は2019年5月16日公開になりました(ミラクルライトは中学生までもらえます。大人用は劇場で買って応援しましょう)。
映画公開延期に伴い、2020年3月20日から5月15日まで「映画プリキュア」の過去作24作品がプリキュア公式YouTubeチャンネルで期間限定無料配信されています(毎週3作品ずつ配信し、金曜日の夕方に3作が入れ替わります)。
映画プリキュアミラクルリープの公開までは、過去のプリキュア映画を見てプリキュアたちを応援し気分を高めるのもオススメです。
「プリキュア、頑張れー」
「プリキュア、頑張ってるねー」
「ヒーリングっど プリキュア」
毎週日曜8時30分より
ABC・テレビ朝日系列にて放送中
(C)ABC-A・東映アニメーション
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