ねとらぼ
2020/04/18 19:00(公開)

今日書きたいことはこれくらい:「ビックリマン」シール裏テキストのセンスがあまりにもぶっ飛び過ぎていて感動するしかなかった、という話

なぜビックリマンは当時あれほどの社会現象になり得たのか?

 ビックリマンシールの話と、私の幼少時の軽い黒歴史の話をします。

 もちろん今さら言うまでもなく、1977年から現在に至るまでロッテが社会に送り続けているチョコレート菓子、そのおまけシールがビックリマンシールでして、当初は「貼ってびっくりさせる」といういたずらシール的な意味合いが強かったところ、1985年から大化けしました。

 そう、「悪魔vs天使シール」のシリーズが発売されたのです。スーパーぜウスとか、始祖ジュラとか、ヘッドロココとかサタンマリアとかのアレです。


ビックリマン

ビックリマンオフィシャルホームページ


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ライター:しんざき

しんざき プロフィール

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ、三児の父。ダライアス外伝をこよなく愛する横シューターであり、今でも度々鯨ルートに挑んではシャコのばらまき弾にブチ切れている。好きなイーアルカンフーの敵キャラはタオ。

Twitter:@shinzaki


 悪魔・お守り・天使の三すくみの構造に、希少なキラキラカードである「ヘッド」。謎めいた壮大なストーリーに、シールに描かれたさまざまなキャラクター。「コロコロコミック」などの少年誌とのタイアップ展開、アニメやゲームなどとのメディアミックス。

 いろんな要素がかみ合って「ビックリマン」は大ブレークしまして、少しあとの「カードダス」などと並んで当時の子どもたちの代表的な収集対象になり、一時期は社会現象とさえ呼ばれました。

 一方「賭博要素が疑われる」「射幸心を煽る」といったクレームがついてヘッドが大量封入されるようになったり、大量の模造品があふれるようになった、などという暗い側面もご承知の通りです。賭博要素っていっても今じゃソシャゲでああいう手法はごく当たり前のものになったわけでして、現在では問題にすらならないかもしれないですが。当時は公正取引委員会の勧告まであって、結構騒がれたんですよ。

 コスモスが作ってた「ロッチ」の偽物シールなんかも懐かしいですよね。今、偽物シールも価格が高騰していて、一部には「偽物の方が本物よりも価格が高い」なんてことも発生しているみたいです。

 まあなんにせよ、ビックリマンシリーズはさまざまな変遷を経つつ展開し続け、いろんなメディアや作品とコラボしつつ今でも元気に続いている、という話なのでした。ちなみに今は第34弾が発売されてます


ビックリマン

ビックリマンオフィシャルホームページより


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隅から隅までハイセンスかつぶっ飛んだ言語感覚

 それはそうと。

 「ビックリマンシール」には昔から、シールの裏にキャラクター説明やストーリー説明の短い文章が記載されております。今でいうフレーバーテキストってヤツです。

 今回主要なテーマにしたいのは、「このフレーバーテキストの言語的センスがぶっ飛んでいてどう考えても天才の仕事」「当時やってたフレーバーテキストを読み解く遊びめっちゃ楽しかった」という2点なんです。

 例えばの話なんですが、天使vs悪魔シールの第9弾には、「ヘッドロココ」「ヘッドロココ(最終武装タイプ)」の2種類のヘッドカードが封入されています。下記画像は最終武装タイプです。


ビックリマン
ビックリマン

「ビックリマン悪魔VS天使編 全シール大図鑑」(宝島社)より


 ヘッドロココ最終武装タイプのフレーバーテキストは以下のような感じです。(カッコ内は本当はルビです)

幸七羽毛(こうしちフェザー)守護(プロテクト)されたロココは聖火鳥飛速(せいかちょうひそく)で魔炎突破(まえんとっぱ)! 聖光道(ビームロード)完成で神帝脱出(じんていだっしゅつ)なるか?

悪魔界のウワサ 超悪魔渦重合(ウルトラデビルうずじゅうごう)で魔穴(デビルホール)発生! 神帝1(じんていワン)が消え去った?


 これですね。実はこれストーリー上非常に重要なシーンについて書かれているフレーバーテキストなんですが、ちょっと細かい解説はいったん後にして、まずは言葉だけを味わって頂きたいんです。

 私が一番言いたいのが「このフレーバーテキストの言語センスすごくね?」ってことです。

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 皆さん、「聖火鳥飛速」とか「超悪魔渦重合」って言葉、さらっと思い付きますか? 聖光道って書いてビームロードって読ませられますか? 「超悪魔」に当然のようにウルトラデビルっていうルビを振れますか? 「守護」はもちろん「プロテクト」って読ませますよね?

 単語選択のセンスだけではなく、このテキストのテンポ。意味はよく分からないがなんかすげえ! というハイテンション。なんか子どもに受けそうな難しい言葉を並べているように見えて、実はちゃんとストーリーや設定の説明を、しかも謎めいた形でしているその内容。体言止めと疑問形の合わせ技による独特なテイストとバランス。

 いや、割と冗談じゃなく天才の仕事だと思うんですよ。しかもこれ、1980年代の話ですからね?

 たとえこの1枚だけであってもこのフレーバーテキスト書くの相当大変だと思うんですけど、さらにこれ、1シリーズ40枚弱のうちのたった1枚なわけです。これと同じようなテンション、これと同じようなセンスのテキストが、毎弾毎弾、あと40枚近くあるんですよ。しかもその言語感覚が1枚残らず全部ハイセンスでぶっ飛んでいる。

 例えば、第8弾の天使シール「如面菩薩」のフレーバー。

聖座泉より誕生の次界アーチ天使。鎮座仏砲と聖ピン串(スティック)で魔暗を切り裂き一筋聖光を注入! W魔鬼襲(ダブルまきしゅう)で瞬間聖道力∞3(しゅんかんせいどうパワースリー)』


 ここまで「なんかすげえ」と思わせるテキストがあるでしょうか? 細かいところでは≫「次界」とか「アーチ天使」とか専門用語がさらっと使われてるんですが、そんな細かいことはどうでもいいと思わされる言語選択とテンポ。W魔鬼襲なんて言葉一生かかっても思い付ける気がしません。

 第6弾の天使シール「お救いクィーン」のフレーバーはこう。

天聖界へナショナル変身した天使は愛スマイルで聖心を呼び起こすのダ! KANONI(かんのんあい)を聖卵に植えつけ聖戦へ飛翔!


 ものすごいですよね。ナショナル変身っていうのもなかなか思い付かない組み合わせの単語だと思うんですけど、KANONIって書いて「かんのんあい」ですよ。あまりにもハイセンス過ぎる。

 ちなみにこのお救いクィーンって第1弾にいた「お救い観音」が聖卵の力でパワーアップした姿であって、お救い観音自体はこんなフレーバーになってます。

ドロヌ魔に落ちた悪魔にでもお救いほほえみパワーでまごころを呼び戻すヨ!! 観音愛がお邪魔界から救ってくれるのよ


 と、この時点で既にフレーバーのテンポは十分垣間見えていることが分かって頂けると思います。

 同じ第6弾の「ブッダSANZO」はこんな感じです。

超重聖赤色(ヘビーセントせきしょく)パンチを握りしめ魔力をKOする東方聖域の法師。光輝みちび光線を聖卵に照射! 天魔界始祖打倒戦出達


 これもすごい。超重聖「ヘビーセント」って読ませてるんだけど、まずこの言葉の組み合わせを選ぶのがすごい。みちび光線(みちびこうせん)っていう軽い駄じゃれもとてもステキで、「天魔界始祖打倒戦出達」という疾風怒濤の十文字まで、まさに独自言語センスのワードバスケット。「超重聖赤色パンチ」という言葉の組み合わせに思い至れる自信がない。

 東方聖域ってのは元ネタの西遊記から来てるんでしょうね。ちなみにここで「始祖打倒」って言ってますが、これ第6弾の悪魔ヘッドである始祖ジュラのことです。

 そう、これらフレーバーテキストって、単に言語センスがものすごいだけじゃなくて、ちゃんと相互に関連し合って「ビックリマン」のものすごーく壮大なストーリーや設定を語っていたんですよ。これがもう一つのすごいところです。

 コロコロコミックやらアニメやらで語られていた「ビックリマン」もあるんですが、アニメや漫画はそれぞれ独自解釈も含んでいましたし、中核になるストーリーって実はちゃんとシールの裏のフレーバーで完結するんですよね。

 そこで私がなにより面白いと思ったのは、この「シールの裏のテキストから、何のことを語っているのか? ということを読み解く遊び」

 これが当時めっちゃ面白かったんです。

 ちょっと、ここから先の話のために、簡単に「ビックリマン」19弾くらいまでのストーリーを解説します。すいません、本気で書こうとすると1万字書いても終わらないんで、ものすごく簡略化するのは勘弁してください。ビックリマンのストーリーって本当に壮大なんで。

  • 天使が住む「天聖界」と悪魔が住む「天魔界」という2つの世界があった
  • 悪魔が何度も攻めてきて天聖界は荒れ果ててしまった
  • そのため、次なる世界である「次界」を求めて聖フェニックス(後にヘッドロココにパワーアップ)率いる若神子たちが旅立つ
  • 次界を巡って、天使たちと悪魔たちの闘いが続く。悪魔たちを率いるのはサタンマリアがパワーアップしたワンダーマリア
  • さらに異聖メディア率いる曼聖羅という第三勢力まで登場し、次界を巡って三つどもえの戦いになる
  • 最終的に曼聖羅をしりぞけ、マリアとロココが和解してスーパーデビルを倒し、聖魔和合によって天使と悪魔の闘いが終結

 基本的な流れはこんな感じです。この後もいろいろあるんですけどね。ブラックゼウスが復活したりとか、アリババがデュークアリババになったりとか。あと大体聖神ナディアのせい


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一見独立しているように見えるテキストが、実はつながっていたという驚き

 実は小学生当時、私「友達のビックリマンのフレーバーを写させてもらって、いろいろ読み比べて何について語っているのか読み解く」という遊びをしていたことがありまして。

 当然ながらかなりの部分散逸しちゃってるんですが、一部だけ実家にありました。多分昔の「小学四年生」のおまけだと思うんですが、ドラえもんの「記者手帳」ってものがありまして、ここに書いた分だけ残ってたんです。これ出たの何年くらいですかね? 1984年くらいでしょうか?


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 実家の段ボール箱の中に眠っていまして、こういう愚にもつかない落書きも残っていたんですが、


ビックリマン

 一部にはビックリマンのフレーバーメモが書いてあるページが残ってまして。すいません、字がひどいのは見逃してください。今もこんな感じです。


ビックリマン

 予定・計画のところに予定でも計画でもないもの書いてますけど、子どもがやることなんで広い心で見るべきだと思います。昔こういうの書いてたんですよ。ノートに何十ページも。

 これですね、多分普通の人には読めないと思うんで解説しますけど、第7弾天使の「お寺之DON」「上御殿」のフレーバーがメモってありまして。これ、どっちも「聖神皇に何かをインプットした」ってことが書いてあるんですね。

 聖神皇って何? っていうのは、第7弾の天使ヘッドのフレーバーを見ると分かります。


ビックリマン
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 そう、ブラックゼウスに対抗するために作りだされた聖ボット、ヘラクライストです。

 このヘラクライストって、当時「誕生後」「パワーダウン状態」「パワーアップ状態」の3つのシールイラストが出てまして、「十二天使が創造した」「理力を注ぐとパワーアップする」「ただし少しでもバランスが崩れるとパワーダウンしてしまう」というフレーバーがあったんです。で、第7弾の天使12体が、そのままここでいう「十二天使」であって、それぞれが何をインプットしたのか、ってのがフレーバーテキストを見ると全部わかったんです。上御殿がインプットしたのが愛心回路、ピーコック帝子が注入したのが聖カラーシステム、みたいな。

 ちなみにこの十二天使の中には、後に7神帝の一人になる「一本釣帝」も含まれています。

 今でこそビックリマンのストーリーって公式サイトにもまとめられてますし、あとから全部振り返ることもできますけど。当時は、アニメも毎週見れるわけでもないしコロコロも毎月買えるわけでもない。

 そもそもいろんな情報が錯綜(さくそう)しててどれがどれやら、って状況の中で、よくよくフレーバーを読んでみると「あ!! これって実は、ちゃんとストーリーの説明になってるじゃん!!」って気付いたときの衝撃たるや。ヘッドと天使、お守り、悪魔、全部のフレーバーを読んで初めてストーリーの全体像が分かるんだ、って感動すると同時に、自分が持っていないカードのフレーバーまで全部読みたくなったんですよ。

 で、周囲の友達に頼み込んで、自分が持ってないカードのフレーバーを写させてもらいまくってたわけです。それでもコンプリートするのは到底無理だったんですけどね。

 ここでもう一度、ヘッドロココのフレーバーテキストに戻ってみましょう。

幸七羽毛(こうしちフェザー)で守護(プロテクト)されたロココは聖火鳥飛速(せいかちょうひそく)で魔炎突破(まえんとっぱ)! 聖光道(ビームロード)完成で神帝脱出(じんていだっしゅつ)なるか?

悪魔界のウワサ 超悪魔渦重合(ウルトラデビルうずじゅうごう)で魔穴(デビルホール)発生! 神帝1(じんていワン)が消え去った?


 ここで言う「幸七羽毛(こうしちフェザー)」って、実は同じ第9弾のお守りカードのフレーバーに書いてあるんですね。しかもそれがちょうど7枚。

 ヤマト神帝のお守りカードである「酔助」のフレーバーがこんな感じ。

イ〜リャ〜ンサン酔と悪棍鬼を掛声と共に参らせようと杯水の構えでガンバ! トントン拍子を狙って幸七羽毛結助スタート!


 小気味よいテンポにさり気ない駄じゃれ、この素晴らしいセンス。それはそうと、これと同じように、神帝のお守りには全員幸七羽毛についての記載があります。つまり、「お守り7人の力によってロココがパワーアップしたんだな」ということが読み取れる。「恐らく、最終武装ロココが額につけている7枚の羽根のことだな」ということまでフレーバーだけで分かっちゃうんですよ。

 一方、同じくヤマト神帝に対する悪魔カードである八魔鬼(やまき)ングにはこんなフレーバーが。

恐ろしい程の魔突風に乗り合身体になった悪棍鬼。超八ぶにらみ魔眼で魔心を打ち込もうと向きを定める。悪魔渦(デビルうず)回転開始


 悪魔渦!! こっちに記載あるやん! つまり、複数の悪魔が悪魔渦によって神帝の一人を捕まえたらしい、ということがここから読み取れるんです。ヘッドロココの裏のイラストから判断する限り、その一人とはアリババ……。

 こんな感じで、「いろんなシールのフレーバーテキストを読み解いてみると、一見独立しているようで、実は全体として一つのストーリーについて語っているんだ」「いろんな文章が、実は一つのことについて語っていて、全部集めると事実が浮かび上がってくるんだ」ということをこの時知って、これにめちゃくちゃ衝撃を受けた、という話なんです。

 今から考えてみると、これ、「いろんな文献を集積して一つの事実について考証する」ということの、一つの直接的な原体験にもなってるなーと。これ、例えば「ガンパレード・マーチ」とか「十三機兵防衛圏」みたいなゲームでも同じような場面が出てきたんですが、大学の研究なんかでも普通に追体験したんです。

 その後私、大学で日本語日本文学っていう研究やったんですけど、「あ、これビックリマンでやったヤツだ!」みたいな経験結構ありましたよ。断片的な文章と文章をまとめて、一つの事実として考察する遊び。あの楽しさを覚えたのは、私の場合間違いなく「ビックリマン」だったんです。

 ことほど左様に、その辺の小学生にまで「色んな断片的な情報を集めて、一つのストーリーを読み解く」なんていうマニアックな行動に走らせてしまう、ビックリマン世界のパワーって本当にものすごかったなー、と思う次第です。


まとめ

 長くなりましたが、最後に今回のテキストで書きたかったことを簡単にまとめてみます。

  • ビックリマンのフレーバーテキストの言語感覚ハイセンスっぷりは異常
  • ビックリマンのストーリーはあまりにも壮大過ぎるので皆さん公式ページいってちょっとストーリー読んでみてください
  • ブラックゼウスとか魔肖ネロとか、ホログラフカードが出たときのテンションは異常だった
  • アニメではめっちゃ十字架天使がヒロイン扱いされてたけど普通にかわいいキャラ多かったよね如面菩薩とか
  • ストーリーを読み解けば読み解く程泥沼のように不幸な目に遭っていくアリババさん……
  • チョコはもちろん全部おいしくいただきました

 大体そんな感じです。よろしくお願いします。

 今日書きたいことはこれくらいです。



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