死者は自粛をやめた方が最終的に少ないという意見も〜コロナ下の経済対策の難しさ
専門家会議に呼ばれる経済学者の人選もポイントに。
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月6日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。新型コロナウイルス感染拡大状況下における経済対策について解説した。

新型コロナ感染拡大の影響、倒産した企業が114社に急増
東京商工リサーチの調査で新型コロナウイルスの感染拡大の影響で倒産した企業の数が、35の都道府県の114社に急増したことがわかった。飲食業や宿泊業が目立つということである。
佐々木)2ヵ月、3ヵ月と続くと、家賃や従業員の給料など固定費の支払いだけでもパンクする企業がどんどん増えてきます。おそらく今月いっぱいで緊急事態宣言が終了となると思いますが、いったん「ハンマーアンドダンス」で「ダンス」の状態となったときに感染者が増えたら、「緊急事態宣言」という名前にするのかはわかりませんが、自粛要請を出して抑え込むというその繰り返しを続けます。ハンマーを振り下ろすたびに破綻する会社が増える問題は解決しません。しかし、今のところ最終的な収束の見通しは存在しません。なぜならワクチンも治療薬も開発されていないからです。もちろんアビガンとかはありますが、これが完ぺきな解決策とはならないというのが専門家の見方です。
自粛をやめて集団免疫を獲得した方が死者は少ないという意見も
佐々木)ウイルス学の専門家で京都大学准教授の宮沢孝幸先生が『ABEMA Prime』(インターネットテレビ局AbemaTVの報道番組)で言っていたのですが、宮沢先生は「私は、新型コロナウイルスはワクチンができにくいウイルスなのではないかと考えている」と。そうすると仮に開発できたとしても2年後だし、治療薬なんかもっと先だよねという話で、最終的な出口として集団免疫しかないという話もあります。人口の6〜7割に免疫ができてみんなが慣れると。かつてのスペイン風邪がそうで、全世界で5000万人が亡くなったといわれてますがウイルスは消滅してはおらず、ある程度免疫ができて広がったのでそれほど大げさにならなくなりました。スペイン風邪は殺人インフルエンザだったけれども、今もあるんですよね。A型インフルエンザですから。
飯田)1つの形のわけですよね。
佐々木)あのような、スペイン風邪がA型インフルエンザのような形で収まっていくというのが最終的な方向ですね。だんだん死ぬ人が増えていってしまいます。感染症で死ぬのではなく、結局経済で困窮して自殺する人が増えるという状況になります。多くの人が主張していますが、集団免疫を目指して経済の封鎖・自粛をやめようと。感染して死ぬ人が増えてくるかもしれないけれど、経済で死ぬ方が数が多いのだから、「あしたのジョー」のように「ノーガード戦法」で感染を広めてしまって集団免疫を獲得した方が、最終的に死ぬ人のトータルの数は少なくて済むのではないか、という意見もでてきています。これをどう判断するかは難しい問題です。
緊縮派と反緊縮派、どちらの経済学者を専門家会議へ呼ぶのか
佐々木)4日の専門家会議のときに副座長の尾身茂先生が「専門家会議は、感染症・医療の専門家しかいない。ここに医療だけでなく経済の専門家も入れて経済に与える影響も踏まえたうえで政府が最終判断してほしい」という要請をしました。それに対して政府から「わかった。何とかしよう」という回答を得たというので、今後経済の専門家が入る可能性があります。もう少しいろいろな計算ができるようになるかもしれないという期待がありますが、一方で、政府がもし「経済の専門家を入れます」といったときに、いったい誰を呼ぶのだろうという課題もあります。
飯田)東日本大震災のときの例を思い出すと復興どうするのかといろいろな専門家が集められました。痛みを分かち合いましょうというスローガンがでてきて「ああそうだな」と思いました。しかし痛み分かち合うためにはこの復興の費用は増税で賄うしかないといって増税されましたよね。国全体で経済がしぼむということが起こりえます。
佐々木)そうなんです。今回も「いま給付金を配ってもあとから国民につけが回ってくる」と言っている人が多くいますが、一方でリフレ派経済学者の人たち、MMTも含めていいのかもしれませんが、「この国難の状況で国債を発行して支援しまくるしかないのでは」と言っている人もいます。この両者の経済学者の分断が激しくて、どちらを専門家会議に呼ぶかにより全く違う結論が出るという恐ろしい可能性があります。しかも今の麻生財務相とか財務省の意向を考えるとこの状況で政府の専門家会議に反緊縮の専門家を呼んでくれるかというと、これが結構望みが薄いのかなと思います。
飯田)当然そこの人選が肝になると官僚なら誰しも考えることで、当然、自分たちの説を声高に主張してくれる人を送り込もうとするわけですよね。特に財務省というような官庁は。
佐々木)尾身先生が「経済の専門家を呼んでください」と言って政府側から「何とかしよう」と回答を得たというこの段階から、財務省も内閣もいろいろな人が走り回って政治的に動き回っているだろうなという感じがします。この前も京都大学教授の藤井聡先生に「なんで財務省はMMTに与する人を呼ばないで、あんなにずっと緊縮と言っているんですか」と聞いてみたら、「緊縮と言って増税をやりたがる人の方が出世するからですよ」と言ってバッサリ切っていました。なかなか小難しいかなと。日本の財務官僚は大蔵省のころからそうですが、太平洋戦争時の戦時国債、莫大に出しまくりました。たしかGDPの8倍くらい、今でいうと4000兆くらいの戦時国債を発行して戦後ハイパーインフレになったというものすごい失敗体験があるので、それが尾を引いて「あのようになってはいけないんだ」と思っているのではないかと。ただ当時と今では経済的にも社会的にも背景が全く違うのでそんなに簡単にハイパーインフレ起きないと思うのですが、財務省や緊縮派の経済学者の同意を得るというのは、現状ではなかなか難しい感じもします。
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