意味がわかると怖い話:「おろし金のおばけ」(2/2 ページ)
「おろし金のおばけ」解説
彼らが聞いた「シャーッ、シャーッ」という、何かを擦るような音は、どうやら天井にいた生き物ではない「何か」が、お札を剥がそうと爪を立てる音だったようです。
下に降りられないよう、天井に封じられていたらしい「それ」が放たれたきっかけは、下から「俺がおろしてやる」と声をかけられたことだったようで……タケウチ君は大丈夫なのでしょうか。
「招かれる」怪異
「呼ばれると発動する怪異」の物語の歴史は、実はそう古いものではないかもしれません。例えば、「吸血鬼は、招待されないと人の家に入れない」という有名な設定が確立したのは、『吸血鬼ドラキュラ』(1897年)からだそうで、この時代に「人ならざるものを招く」というイメージが広く受け入れられたのは、19世紀後半の欧米における心霊主義の流行と無関係ではないでしょう。
1848年のアメリカのフォックス姉妹による「霊との交信」騒動をきっかけに、欧米ではオカルトが大ブームとなり、数人でテーブルを囲み、霊を呼び出す「交霊会」が紳士淑女の夜ごとのお楽しみとなっていた時代です。「霊との交信」というアイディアの流行には、この時代のモールスらによる電信技術の飛躍が一役買ったと言います。モールスたちがボルチモアからワシントンD.Cへの電報の発信に成功したのは、フォックス姉妹事件の4年前の1844年のこと。「遠く離れた場所からのメッセージを受信できる」不思議な技術を目の当たりにした人々が、「それなら、いつか死後の世界とも通信ができるようになるのでは」と夢想してもおかしなことではないでしょう。
電信のみならず、科学革命による「従来のキリスト教(主にカトリック)的な世界観では説明しきれないものって色々あるんだな」というカトリック権威の低下は、近代科学への信仰とともに、キリスト教の枠をはみ出した新宗教を生み出すことにもつながっていたわけです。
交霊会のブームが「呼ばれると発動する怪異」という像を生み出したのではないかという説は、日本のいわゆる「学校の怪談」にも援用が可能です。交霊会のためにアメリカでつくられたゲーム盤「ウィジャボード」が、外国船員を通じて日本に入ってきて独自の進化を遂げたのが「コックリさん」であり、「コックリさん、コックリさん、おいでください」と呼びだす交霊のイメージが、「トイレの花子さん」や「四時ババア」といった「特定の手順を踏むと現れる怪異」譚を生んだのでしょうから。
「〇〇してはいけない」から「〇〇すると現れる」への話型の変化は、怪談の役割が時代によって「教訓」から「娯楽」へと変わったことを示しているのかもしれませんね。
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