「ストリップは自分が辛い時ほど心に残る」――『女の子のためのストリップ劇場入門』作者に聞く“劇場という場所”(1/2 ページ)

作者・菜央こりんさんにインタビュー。【後編】

» 2020年09月20日 11時30分 公開
[池田智ねとらぼ]
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 「ストリップの魅力を伝えたい!」と制作した同人誌が目に留まり、雑誌連載がスタート。7月にはエッセイコミック『女の子のためのストリップ劇場入門』の単行本が発売された菜央こりんさんが、風俗でも芸能でもある不思議なエンターテイメント・ストリップの魅力を語るインタビュー。

 後半は劇場で出会う男性の優しさや、サードプレイスとしての魅力、性風俗で働く人たちのことを伝えるにあたっての配慮などについて話をうかがいます。

 アイドル・宝塚・バーレスクなど、さまざまな芸能がある中、ストリップだからこその魅力とはいったい何なのか。そして、それは見ている人の心にどんな影響を与えるのか。ストリップ独自の魅力をさらにじっくりと語ります。

おじさんたちの優しさや乙女心が見えてくる

――本書の楽しさのひとつが、出てくるお客さん――主におじさんの顔にバラエティがあって、しかも全員なんとなくかわいい感じがするところです。

 踊り子さんの3倍くらいおじさんを描いていると思いますね……。ストリップという世界の“周辺”のことを描こうとすると、見に来るお客さんのことを描く必要があるので。劇場に行っておじさんたちの顔を覚えたりしています。

菜央こりんさんインタビュー 劇場でくつろぐ仲の良いおじさんたち

――現場で見かける人というか、「これ、あの人かな?」と思う人がたくさん出てきますね。おじさんに対する敬意を感じます。

 はい、男の人がとても紳士的に見ているというのも、劇場に行って驚いたことの一つです。途中で野次を入れたりするのかと思ってたけど、それもなく。ストリップ劇場にはいろいろな身体の方がいるし、50代の踊り子さんもいらっしゃるんですけど、演者によってお客さんがあからさまに減ったりしないことにもほっとしました。もちろん人気のある人はいるんですけど、概ねちゃんと一通り観て、拍手をして……。

 今思うと、“ストリップだからこそ”の男性の態度があるような気がします。慣れてない人に席を譲ったり、踊り子さんに花束をあげたり、ツイッターでクソリプはしなかったりとか、そういう気遣いみたいなのを知れて。

――ツーショット撮影の時に迷っているとフォローしてくれたり、踊り子さんの次の公演の予定を教えてくれたり。

 若い女の子とおじさんって対立しがちじゃないですか。私もわかりあえない存在だと思ってたし。ただ、おじさんという表現でひとくくりにしてしまうのは、男性を馬鹿にしていたなって。我々女も「女をサイゼリヤにデートにつれていくと怒る」とか言われると「そんなことない! ひとくくりにしないで」って怒るのに。

 メディアに出てくる男性はホモソーシャルな世界での強者ばかりですよね。そうでない人は、弱者と言われて、馬鹿にされたり、けなされたりしている。でも、メディアに勝ち上がってこないけど、優しい男性がいる……。男性のそういう部分を引き出せる場であるというのはすごく作品に反映しています。

――男性の乙女心を肯定する場所という側面もありますよね。エロい気持ちで入った人が、普段見慣れていないであろう美しい衣装を着て踊る踊り子さんたちを見ていくうちに、徐々に「ダンスが美しい」とか「リボンがはためくのがかわいい」ということにときめいたりする。男性にとっても、今まで気が付かなかった自分を見つける場所なのかなと。

「面白い」と感じたことは伝えるけど、「馬鹿にはしない」

――これは単行本ではなく、同人誌の話になりますが、2018年に閉館した芦ノ牧温泉劇場のことを描いた『ストリップ劇場遠征女サラバ! 福島編』も印象的です。芦ノ牧温泉劇場のストリップは、「潮吹きを鋭く遠くへ飛ばす」という、それこそ見世物小屋的な、芦ノ牧温泉だけで行われていた芸でした。だけど、それを昭和レトロ的な感傷や哀愁でくるまない。そうではなくて、「そこにいるプロフェッショナルが、昔からやっているこういう芸を見せてくれた」というフラットな描写なんですよね。露悪的でも、同情的でもない。

 びっくりしたり面白いと思ったりするけど馬鹿にはしない……。たとえば、潮吹きにはやっぱりびっくりするんですよ。でも、「潮吹きなんて汚い」とか、演者が傷つくようなことは描かない。私は汚いと思っていないし。「世間的に見てどう」というのも描かない。私が受け止めたことを、相手が傷つかないように、でもみんなが知りたいように描くという匙(さじ)加減ですかね。そういう風に描くことで、世の中にそういう仕事があるということを、面白く見られるきっかけになるかなと思ってます。

 その仕事を選んでるっていうことは、何かしらの魅力が、多分、ある。もちろん、やりたくないけど仕事としてやってる人も絶対いますけど、もし、仕事としてこちらを楽しませようと力を尽くしてくれていると感じたら、そういう側面を描きたいなと思います。

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