「謎の中毒性」「1回見ただけじゃ分からない」 “はじめまして松尾です”に聞く、「マツオノアニメ」はどうやって生まれたか
本人を直撃しました。
予測不能なセリフ回し、息つく暇もなく展開されるボケとツッコミ、一癖も二癖もあるキャラクターたち。UUUMに所属する現役芸大生YouTuber「はじめまして松尾です」が生み出す自主制作アニメ「マツオノアニメ」が、YouTubeに新しい風を吹き込んでいます。
2019年9月に最初のアニメが公開されるや「何回も繰り返し見たくなる」「謎の中毒性」と話題に。今では大半の動画が再生数100万回を超えるなど、10〜20代の若者を中心にはまる人が続出しています。
いったい彼はこの反響をどう受け止めているのか。そして、「マツオノアニメ」はどのようにして作られているのか。たまたま東京に来ているという話を聞いたねとらぼエンタ取材班は、松尾さんに話を聞くべくUUUM本社へ向かいました。
ネズミやニワトリは4コマ漫画から生まれた
―― 本日はよろしくお願いします。まずは「はじめまして松尾です」という個性的な名前の由来から聞かせてください。
松尾 本名は「はじめ」っていうんですけど、小中高とずっとサッカーをやってきて、そのときのあだ名が「はじめまして松尾です」だったんです。
―― 本名出しちゃって大丈夫ですか……?
松尾 あ、大丈夫です。うそなので。小中高でサッカーもしていないです。
―― どっちもうそだった。ひとまず松尾さんの制作活動について掘り下げていこうと思います。2019年3月にYouTubeで投稿を始めていますが、それ以前にもなにか活動はしていましたか?
松尾 いろいろと手を出していて、ハンドメイドのイベントに出品したり絵のグループ展に参加したり、Instagramを始めてみたり。4コマ漫画を描いてTwitterにあげたこともありました。ブログもやってみたんですけど、結局続いたのがYouTubeでした。
―― 4コマ漫画はいつごろから?
松尾 高校生のころには描いていたと思います。YouTubeを始める2、3年前ですね。ネズミやニワトリ、タコは当時から存在していたキャラクターで、アリクイとイソギンチャクとアンモナイトもいました。
―― 個性的なメンバ−ですが、なぜそのラインアップに?
松尾 適当です(笑)。
―― わずか1年半でYouTubeのチャンネル登録者数は64万人と、強者ぞろいのUUUMの中でもかなりの急成長を見せています。この反響はどう受け止めていますか?
松尾 みんなマジかよ……って思っています。そんなに見る? って。
―― 想像以上?
松尾 想像以上というか、ウケるとは思っていなかったので。刺さる人に刺さればと思っていたんですけど、思いのほか刺さっちゃったって感じですね。……ちょっと真面目になっちゃったな。
―― YouTubeを始めるにあたって何か目標は立てていましたか?
松尾 一番の目標は「製作でご飯を食べていきたい」みたいな感じだったので、それはかないました。
―― いまの目標は?
松尾 30歳ぐらいになったときに、めちゃめちゃ面白いものが作れていたらいいなと。30歳には何か完成させたいですね。
―― なぜ30歳?
松尾 あと10年ぐらいなら体力的に頑張れるかなって。
―― 松尾さんは芸大生ですよね。ネットでの活動は周りの人には知られていますか?
松尾 大学で撮ったりしているので友人は知っていますし、家族も知っています。ただ唯一、母方の祖父だけは、東京でコップに絵を描くバイトをやっていると思っています。
―― なぜそんなことに。最初のころは、自作の装置を使ったやってみた系の実写動画がメインでしたが、松尾さんのモノづくりの原点はどこにあるのでしょう。
松尾 親が子づくりで僕を産んだので、たぶん原点はそこかなって。
―― 気を抜くとちょいちょい挟んでくる。投稿を始めてからご自身や身の回りに変化はありましたか?
松尾 動画作りが日常になりすぎちゃっていて、作っている感覚みたいなものも最近はなくなっています。「よし、作ろう」っていう感じじゃなくて、生活の一部みたいな。
影響を受けた作品は「アドベンチャー・タイム」
―― 人気を集めている「マツオノアニメ」ですが、アニメを作り始めたきっかけはなんだったのでしょう。
松尾 全然覚えていなくて……友達いわく、学祭に流すために作っていたらしいんですけど。ただ、僕が4コマ漫画を描いていたときから、個人制作でアニメを作っている人はたくさんいたので、たぶんそれにならってちょこちょこ作っていった感じなのかな。
―― アニメ制作において影響を受けた人や作品はありますか?
松尾 「アドベンチャー・タイム」ですね。バチバチに影響を受けすぎていて、初期の動画はめちゃめちゃ似ていました。
松尾 いろいろなところから技術を盗んで、自分なりに変換して動画に入れることはよくやっていたんですけど、リスペクトしすぎて無意識に似ちゃうのはちょっと厄介で。「アドベンチャー・タイム」もそうだし、「天竺鼠」の川原さんが大好きで、そんなつもりないのに似たようなことをしてしまうというのは悩みです。
―― やはりオリジナルなものを作りたい?
松尾 そうですね。まだ経験が浅い分、影響を受けすぎちゃいますけど。
―― 最初のころは荒唐無稽といいますか、ぶっ飛んだ世界観にひかれたファンも多かったと思いますけど、最近は、オチまでがきっちりと考えられているように思います。
松尾 というか、そっちの方が作っていて楽しくて。初めに出したワードを後で回収したり、自分なりにちょっとうまいことを言ってみたり。
昔のカオスな雰囲気も好きなので、もうちょっとうまいこと混ぜられたらなと思うんですけど。でもいまは、その作り方が楽しくて楽しくてしゃーないですね。
―― ネタ自体はどうやって考えていますか?
松尾 会話から拾ったり、思い浮かんだものをメモアプリに書いたり。ウケるかどうか分からないときは、友達に試してウケたら採用、滑ったら不採用にしています。
―― 台本作りにはどれくらいかかりますか?
松尾 昔は1日かかっていたんですけど、いまは半日あれば。
―― 何か技術的な進歩があった?
松尾 というよりは、作り方のテンプレみたいなものが自分の中で無意識にできちゃったのかな。あ、いま思うとそれはやばいな……。いま気付きました。
―― といいますと。
松尾 アカンなって。同じような動画になってしまうので。初期のころを思い返していろんなものを取り込んでいけたらと思います。
初期はiPhoneに手描きしていた
―― 問題なければアニメの作り方についてもお聞きしたいです。
松尾 まずメモアプリで台本を作って、「Procreate」っていうお絵かきアプリを使ってiPadで描いています。映像はAdobe Premiere Proで編集して、そこにボイスレコーダーで録音した音声をがっちゃんこしています。
―― アニメ作りをする上でこだわっていることは?
松尾 一番こだわりがあるのはネタの部分ですけど、よくスクショされるので、テロップであったりキャラの表情であったり、アングルであったり、スクショしたときにいいものが残せるようには意識しています。
―― 逆に、これはやらないと決めていることはありますか?
松尾 ない……ですね。あ、でも、僕の思いみたいなのは乗せないでおこうと思っています。キャラを通して僕のことを知られたくないんです。だから、最近松尾はこういうことを思って、こういうアニメを作っているんだなと思われないようにはしています。
―― これは動画の中で語られていましたけど、ネタが尽きたらやめるかもしれないと。
松尾 あー、そうですね。やめます。でもまだ尽きないので当分は大丈夫かなと。ネタが尽きたらやめて、田舎に行って農家になります。
―― 自分の中で気に入っている回は?
松尾 「ほぼツッコミだけで成り立つアニメ」は好きですね。
―― 特にどのあたりが?
松尾 下ネタのところが……(笑)。その、下ネタがすごく好きなんですけど、生々しいとか、品のない下ネタが嫌いで。かわいらしいとか、ちょっとトリッキーな出し方をするとか、そういうのが好きですね。
―― 一番ヒットしたのが「寝る前に見るべきアニメ」でしたよね。すでに再生数は700万回に届く勢いで伸びています。
松尾 あれは、肩の力を3分の1くらいまで抜いて作ったアニメなんです。肩の力を入れて作ると難しくなりがちで、あんまりウケなくて。逆に力を抜いて、ちゃちゃっと作った方が伸びる傾向にあります。
僕のアニメって、1回見ただけじゃ分からないという視聴者が多いみたいで。よくコメントで、1回目はよく分からずに雰囲気で笑って、2回目はワードとか見て笑って、3回目はワードを回収していたりうまいことを言ったりした場面で感心して笑うみたいな。3回見るというのはよくコメント欄に書かれていたりしますね。
―― キャラクターの造形は、初期のころから大きく変化していますよね。かわいく描くことを意識していたりするのでしょうか。
松尾 最初はiPhoneに指で描いていたんです。それが、いまはiPadにApple Pencilで描くようになって、描きやすくなったというだけで。
―― 指で描いていたんですね。あのころの画風も味わい深くて好きでした。ところで、「マツオノアニメ」は毎月6〜7本とかなりのハイペースで投稿していますが、松尾さんにとって動画を作るモチベーションはどこにあるのでしょう。
松尾 動画を作って出すというのが日常になりすぎちゃって、モチベーションがなんだといわれたら、これといったものがないですね。周りの人たちが面白いものを作っていたら、自分も面白いものを作りたいなって。
―― まさに根っからのクリエイターですね。1人で活動するという選択肢もあったと思いますが、なぜUUUMに入ったのでしょうか。
松尾 一番は、親の説得ですね。活動するにあたって別に親と何か約束していたとかじゃないですけど、ただ僕が個人でこういう活動をするよりも、大きい企業に入っていた方が安心してもらえるかなと思ったんです。
―― 母方のおじいさんにも安心してもらいたいですね。そんな松尾さんですが、実写、アニメとやってきて今後挑戦したいことはありますか?
松尾 これはずっと言っているんですけど、鉄パイプを蝶々結びにしたいですね。まだ難しいんですけど、早く動画に撮りたいです。
―― ということは、また実写を?
松尾 そうですね、実写でやっていくと思います。
―― 30歳までに実現することを願っています。それでは最後に、動画を見てくれている視聴者に一言お願いします。
松尾 それぞれの人生を頑張ってください!
「はじめまして松尾です」一問一答(ニワトリの声で答えてくれました)
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