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» 2020年12月23日 21時30分 公開

ヒトラーと東条英機がカラテでガーナを制圧する謎映画「アフリカン・カンフー・ナチス」はいかにして生まれたのか、セバスチャン・スタイン監督インタビュー

映画の内容と同じくらい、規格外な製作プロセスでした。

[しげる,ねとらぼ]

 2020年2月に行われた上映会でインターネットのごく一部をザワつかせ、そして先日12月20日の配信上映会(関連記事)でも大いに話題になった映画「アフリカン・カンフー・ナチス」。さらにこの12月23日にはAmazonプライム・ビデオにてVODでの配信も開始された第二次世界大戦を生き延び潜水艦でアフリカはガーナにたどり着いたヒトラーと東條英機がカラテの力でガーナを征服、それに対し地元のカンフー道場に通うぐうたらな青年が一念発起して立ち向かうという、2回くらいストーリーを聞き返したくなるトラッシュ・ムービーである。




ちなみにこのポスターだけはガーナではなくドイツで作ったとのこと

 しかし、なぜ「アフリカ」「カンフー」「ナチス」というお題を組み合わせようと思ったのか。監督は日本在住のドイツ人だというが、そもそもどうやってこの映画の着想を得て、どのように撮影したのか。考えれば考えるほどよく分からなくなってくる。

 そこで今回、配信イベント「ハーケン・クリスマス! 『アフリカン・カンフー・ナチス』先行オンライン上映会(実況付き)&重大発表会見」を終えたばかりで、配信中に酒を飲みまくっていたセバスチャン・スタイン監督にオンラインでインタビューを敢行! そもそもなんでこんな映画を撮ろうと思い、一体どうやって完成させたのかを聞き出してみた。内容も作り方もめちゃくちゃな「アフカン」の詳細が今明かされる!


配信終了直後、酔っぱらいつつ質問に答えてくれたセバスチャン監督。横で潰れているのは東條英機役のヨシトさん

―― 配信お疲れさまでした!

スタイン監督:メリー・ハーケン・クリスマス! お疲れさまでした! 何でも聞いてください!

―― では早速なんですが、セバスチャン監督の来歴を教えてください。今おいくつなんですか?

スタイン監督:今年(2020年)で41歳です。ミュンヘンの生まれなんですが、ドイツの大学で映像の勉強をして、卒業後にニュージーランドで仕事をしてました。でも、昔から日本に来たかったんですよ。「ゴジラ」と「子連れ狼」の大ファンなので。

―― 「子連れ狼」、海外のファンが多いですよね……。

スタイン監督:それで16年前にワーキングホリデーで日本に来たんです。その時は3カ月でドイツに戻る予定だったんだけど、そのまま居着いちゃって今に至ります。来た当初は日本語も全然話せませんでした。

―― 現在、普段のお仕事は何をしているんですか?

スタイン監督:現在の仕事はドキュメンタリーの製作がメインです。いつもはヤクザや右翼のドキュメンタリーを撮ったりとか、最近は和歌山の太地町のイルカ漁の取材に行ったりしてました。普通に漁でイルカを獲ると1頭5万円にしかならないけど、生かして捕獲してトレーニングしたら1500万円になって、それを中国の水族館が日本まで買い付けに来てたんですよ! でも新型コロナで中国の人が全然買い付けに来なくなって漁民が困ってるっていう話を撮ってました。これは2021年の頭くらいには公開できる予定です。

―― そっちのお仕事もめちゃくちゃ面白そうですね……! しかしそもそも、なんで「アフリカン・カンフー・ナチス」を作ろうと思ったんですか?

スタイン監督:う〜ん、実は僕は黒人の女の人がものすごく好きなんですよ。それでとにかくアフリカに行きたくて、そのための言い訳というか、理由作りのために考えたのが「アフリカン・カンフー・ナチス」の脚本です。まず「アフリカに行きたい!」というのが先にあって、そのためにどうしようか考えた結果ですね。

―― そ、そんな理由でこんな映画を!?

スタイン監督:ただ、最初は映画を作るつもりじゃなかったんです。もともと、僕は日本に来てから何回もテレビ番組に出てたんですよ。「奇跡体験!アンビリバボー」とか「ザ!世界仰天ニュース」とかの再現VTRに、例えば日本の有名人と結婚してすぐ別れた外国人とか、そういう役で出てました。この仕事をアフリカでもできないかと思ってたんです。アフリカではやっぱり白人は珍しいから、そういう仕事があるんじゃないかと思って。でも調べたら、他にも同じことをやってる人がいたんですよね。じゃあそれとは違うことをやろうと思って、脚本作りに落ち着きました。

―― テレビ出てたんですか!(その後セバスチャンさんから自分が出ている日本のテレビ番組のクリップ集を送ってもらって確認しましたが、ガチで出演してました)しかし、なんでまたヒトラーの映画を……。やっぱりドイツ人的にはタブーなんじゃないですか?


セバスチャン監督演じるヒトラー。動作が既に似てる

スタイン監督:もともと僕はヒトラーをものすごくバカにしてて、わざとふざけた調子のヒトラーのモノマネとかやってたんですよ。ああいう負の歴史は変にタブー視して隠して見えなくしてしまうと崇拝する人が出るので、それよりは徹底してバカにした方がいいと思ってます。例えばハーケンクロイツはナチスのシンボルではありますが、それを徹底して笑いものにすることで、シンボル性を奪って崇拝の対象ではなくすることができるんじゃないかと思います。それに僕は母方がロシア人なんで、それもあって本当にナチスはバカバカしいと思ってました。まあ、父方のおじいちゃんは元ドイツ軍の砲兵で、ロンメルと一緒にアフリカ軍団で連合軍と戦ってたんですけどね(笑)。あと母方のおじいちゃんはトロツキーの同志だったんでそれはそれで面白い話がいろいろあるんですが、映画とは関係ないんでまた今度話しますよ!

―― なるほど、だから映画の中でもヒトラーの演説のマネが妙にうまかったんですね……。

スタイン監督:そうなんです。「アフリカン・カンフー・ナチス」のずっと前、2000年ごろにジャーマンテクノに合わせてヒトラーがDJをする「DJアドルフ・ヒトラー」っていうミュージックビデオを自主制作で作ったんですけど、それを見た知り合いのドキュメンタリーカメラマンに「あなたは変なことを考えた方がいい」って言われて、それでヒトラーがアフリカでカンフーと戦うというアイデアにたどり着きました。


こちらが「DJアドルフ・ヒトラー」。この時点で既に演説のモノマネがうまい

―― 脚本が完成してから製作に入るまでは、どういう経緯だったんでしょうか。

スタイン監督:この脚本を、いくつかのアフリカのプロダクションに送ってみたんです。その中で一番すぐに反応が返ってきたのが、ガーナの映画監督のニンジャマン(※)でした。それで彼にお願いすることになったんです。映画のプロダクションは全部ガーナのスタッフがやっているので、実際のところ僕はほとんど監督らしい仕事をしてないんです。事実上の監督はニンジャマンですよ。まあ、最初に制作費の前金として100万円近く支払う必要があったんですけど。

※ニンジャマンは通称で、本名はサミュエル・K・ンカンサ。クセが強すぎるVFXで知られ“ガーナのジョージ・ルーカス”の異名も持つ

―― 100万……。それで、撮影期間はいつごろだったんでしょうか?

スタイン監督:合計で3回ガーナに行ってて、最初が2018年の4月。このときはオーディションと撮影準備でした。その次が撮影のために2018年の8月頭から9月の真ん中くらいまで行って、それから2019年の年末にプレミア公開のためにもう1回行ってます。ただ、そのあとすぐコロナで渡航できなくなっちゃったんですよね。

―― 撮影中に大変だったのはどのような点ですか?

スタイン監督:もう、毎日大変でしたよ……。まず時間を守らない。初日に朝7時集合って監督のニンジャマンに言われて、僕とかは6時55分には集合してたんだけど、もちろん誰も来ない。電話しても出ない。それで大体スタッフの家は分かってるんで、ニンジャマンの家に押し掛けて「どうしたんだ! お前が7時って言ったんだろ!」って聞いたら「はいはい、分かりましたよ」ってようやく出てきて、結局その日は撮影開始が15時でした。

―― アフリカ時間だ……。

スタイン監督:あとはラストの武道会のあたりを撮影していたら、ロケ地の建物のオーナーが「ブードゥーの儀式をやってるんじゃないか」って疑いだして警察を呼ばれたりとか。あとゲーリング役の俳優がカメラマンとケンカして来なくなっちゃって、ヒトラーとゲーリングが会話するはずのシーンが急きょ武道会の横でアドンコ(ガーナで市販されている薬酒。度数は高め)を飲んでるだけの“アドンコマン”とヒトラーが話すシーンになっちゃったりとか。プロデューサーの車が爆発したりもしました。


この建物で撮影しているときに、ブードゥーの儀式を開催しているのかと疑われた

というわけで最終決戦シーンのみ屋外に……

この人がゲーリング。ガーナでは有名な悪役俳優だとか

―― 爆発!? むちゃくちゃだ……。しかしあのやたら出てきたアドンコってお酒は、映画のスポンサーなんですか?

スタイン監督:スポンサーになってくれましたね。アドンコはガーナでは一番人気のハードリカーなんですが、プロデューサーのダニー・ボーイがいきなり「あいつらをスポンサーにしよう」って言い出して、僕は無理だと思ったんですけどすぐ話をしに行っちゃったんですよ。そしたら本当に話を聞いてくれて、お金も出してくれたんです。その上撮影現場にアドンコのボトルを差し入れてくれたんで、撮影中はみんなベロベロになりながら撮ってました。アドンコマンは、もともとアドンコの宣伝マンです。

―― 飲みながら撮ってたんですか! いいなあ!

スタイン監督:ガーナ人のカメラマンが2人いたんですけど、ある日の撮影で片方のカメラが1日中ずっとピントが合わなかったんですよ。あれも飲みながらやってたからだと思います。指でナッツをつぶすシーンなんかマジでどこにもピントが合ってなかったんで、日本に帰ってきてから駐車場にグリーンバックを置いて、僕が自分の手でシュークリームをつぶすところを撮って合成しました。

―― いや〜、よく警察沙汰になりませんでしたね。


この銃を持ってドローン飛ばしてたら、警察呼ばれました

スタイン監督:実は撮影最終日に2回捕まりかけたんですよ。その日はヒトラー役の僕が小道具の銃を持ってたんですが、その状態でホテルの近くで撮影用ドローンを飛ばそうとしてたんです。そしたら近くの人から「お前ら何撮ってんだ!」って超怒られて警察呼ばれちゃって。で、来た警察官に小道具の銃が見つかって「お前ら何持ってるんだ!」って怒られて、その日は一日中警察に見張られてました。あともう一つ捕まりかけたっていうのが……(全くここに書けない話だったので割愛)。

―― す、すごいですね……。本当に撮影お疲れさまでした……。

スタイン監督:でも日本に帰ってきてからも大変で。音楽も特撮も全部ガーナのチームがやってるんですが、最後の編集をニンジャマンに任せたんですよ。撮影は2018年の9月に終わってるからその年のクリスマスにはプレミア公開したかったんですけど、ニンジャマンが「まだできてない」って言い出して。翌年の3月に聞いたら「ちゃんと作りたいからもう少し待って」って言われて、5月に聞いても同じことを言われました。それで8月くらいに「ようやく完成した」って映像を送ってきたんですけど、これがもう全然見られないようなダメダメなものが送られてきちゃって……。結局撮影から1年待ったんですけど、もう全部ニンジャマンに素材を送らせて、こっちで編集して2019年のクリスマスあたりにやっと完成しました。

―― は〜、大丈夫なのかな……ニンジャマンは……。そんな製作プロセスの割には、映画のストーリーがすごくちゃんとしたカンフー映画だったのでびっくりしました。


修行シーンがちゃんと入ってるのは監督のこだわり

冒頭から出てくる飲んだくれが実は師匠なのも、定番ですね

スタイン監督:ネタはいろんなカンフー映画やアクション映画を参考にしました。特に参考にしたのは「片腕カンフー対空飛ぶギロチン」ですね。他にもショウ・ブラザーズのカンフー映画は大量に参考にしました。「マスターが敵に殺されてそのリベンジをしたいけど、カンフーが足りないから他のマスターの元でトレーニングして、最後にメインの悪役を倒す」というプロットは完全にこのあたりのカンフー映画から引用しています。あと、最後の武道会のシーンは「ブラッド・スポーツ」も参考にしてますね。

―― 確かに、ものすごい設定の割には正統なカンフー映画のプロットでした。

スタイン監督:ちょっと心残りなのは、修行のシーンをもっとちゃんとしたかったんですよ。あのあたりのシーンを撮っているときは僕たちは製作中のドキュメンタリーを撮影するのに取り掛かっていて、全部アフリカのクルーにお任せだったので……。本当は「左右に伸ばした腕で水が入った桶を持って走る」とか、カンフー映画の定番修行シーンをもっと入れたかった……!

―― あと、アクションシーンの出来自体もすごくいいですよね。

スタイン監督:出演しているのは全員ガーナのアクションスターです。もう、道を歩いていると子供が寄ってきて「あ! スコーピオン(役者の名前)!」って声をかけてくるレベルの有名人です。ただ、彼らは中国人のマスターからカンフーを習っているわけじゃなくて、映画のマネをして練習してるだけなんですよね。

―― え、ちゃんとした練習をしてなくてあんなに動けるんですか!?

スタイン監督:あそこまで上手なのには、僕もびっくりしました。現地にはたまに空手の先生とかもいるし、中国人が教えてくれることもなくはないようなんですが、基本的には映画を見ながらマネしてます。やっぱりそこは全員プロですね。僕と東條英機役のヨシトさんはアクションは未熟だから、腕が腫れたりしてやばかったですよ。

―― あと、これはぜひ監督にお聞きしたかったんですが、なんでエンドロールに朝堂院大覚さん(※)が出演してるんですか?

※大物政治家や各界の著名人にパイプを持つと言われ、「日本最後のフィクサー」と呼ばれる人物。近年はYouTuberとしても活躍している

スタイン監督:朝堂院さんが出てきたのは、昔からの友達だからですね! 2010年くらいに作ったヤクザのドキュメンタリーの取材で知り合って、それからずっと仲良くしてくれてるんですよ。こんな内容の映画だから僕も大丈夫ですかって聞いたんだけど、「いいですね! セバスチャン!」って快諾してくれました。僕としてはもっと出てほしかったんですよね。例えばガーナのマーケットのシーンでいきなり朝堂院さんがいたら面白いかなと思ってグリーンバックで撮ってみたんですけど、やっぱり無理でした。なんせ朝堂院さんはテロリスト扱いになっててパスポートが無効なので、ガーナまで行けなかったんですよね。

―― あ、もう国外に出るの自体が難しいんですね、朝堂院さんは……。しかし、配信でもお話しされていましたが、2作目もやる気満々みたいですね。

スタイン監督:ぜひ作りたいですよ! ヒトラーは今回爆発でバラバラになっちゃったんで、次は体を機械化したヒトラーが出てくる「ザ・リターン・オブ・アドルフ・ロボットラー」を作ろうと思ってるんです。今度は怪獣というか、メカゴジラみたいなものも出したいんですよね。あとゲーリングも今回で死んじゃったんで、ナチスの幹部を他にも出したいんです。あ、なんかちょっと雰囲気似てるし、あなたもヒムラー役で次回作に出ませんか?

―― おれがですか!? あー、でもガーナ楽しそうだし、いいかも。

スタイン監督:まあ、映画の撮影が終わったあとでキャストが1人死にかけたんですけどね。

―― めちゃくちゃ危ないじゃないですか!


師匠、撃たれちゃったのかよ

スタイン監督:影蛇拳マスター役の人の自宅に強盗が押し入って銃撃戦になって、マスターが銃で応戦して撃たれちゃったんですよ。僕たちもガーナは安全だと思ってたんで、これは驚きました。

―― カンフーでやっつけるわけにはいかなかったか〜。

スタイン監督:なので、「ザ・リターン・オブ・アドルフ・ロボットラー」ではセキュリティをめちゃくちゃ強化しようと思ってます。そのときはぜひ出演してくださいね!

―― う〜ん、ちょっと考えさせてください……!


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