涙がにじみ、続きが読めない―― 震災の記憶を伝える漫画『柴ばあと豆柴太』 書店員が語る、忘れられないエピソード(2/4 ページ)

» 2021年03月18日 20時00分 公開
[三日月影狼ねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

「たくさんのお客様に読んでいただける本だ」と直感


豆柴太 南三陸 残された柴ばあの悲しみと苦悩

――尾形さんは、新人漫画家の初連載作品である『柴ばあと豆柴太 1巻』を120冊仕入れたと伺っています。

 『柴ばあと豆柴太』発売前に、講談社からゲラが送られてきたんです。通常は送られてこないので、恐らくこれは当店が福島県にあり、震災と関係が深い書店だからだと思っています。

 そのゲラをまずコミック担当のスタッフが読んだのですが、「最初の数ページで泣けてしまって、続きが読めません……」と言ってきたんです。そこで私も冒頭を読んだところ、「この作品は、うまく展開すればたくさんのお客様に読んで頂ける本だ」と直感しました。さらに文芸担当のスタッフにも読んでもらいましたが、やはり「(涙が出てしまい)仕事中には読めません」という感想だったんです。

――書店員さんたちの直感が、異例の発注へとつながったんですね。

 はい。新人漫画家さんの初連載作品でしたので知名度はありませんでしたが、自分を含めて3人のスタッフの感想と直感を信じ、講談社さんに無理言って、120冊発注することになりました。売り場では、途中まで試し読みできる本も用意したところ、さまざまな年齢のたくさんの人に手に取っていただけました。

残された人間の“辛さと悲しみ”を伝えるエピソード

――印象に残っているシーンはありますか。

 やはり1巻冒頭にあるエピソード、「風景1・おまじない」が印象に残っています。ここにはまだ豆柴太は出てきませんが、残された側の人間の辛さと、悲しみが伝わってくるエピソードだと思います。


豆柴太 南三陸 風景1 おまじない
豆柴太 南三陸 柴ばあが孫に教えた“おまじない”

10歳の娘と震災のことを語り合うきっかけに

――作品を読んで、被災された方々のエピソード、被災された経験とリンクするところがありましたら教えてください。

 震災が起きた10年前、私には当時0歳の娘がいました。しばらくの間は放射能の影響で母乳を与えられない、外で遊べないなど、少なからず生活に支障が出ていたのですが、そんな娘も今年で10歳になりました。

 最近では、娘が『柴ばあと豆柴太』を読んで、「あのときはどうだったの?」と質問してくれるようになったんです。漫画がきっかけで、震災に興味を持ってくれた。『柴ばあと豆柴太』が、娘と当時のことについて語り合うきっかけをくれたことがうれしいですね。


豆柴太 南三陸 豆柴太の笑顔が柴ばあと町の人を癒やしていく

――世代を超えて、震災を考えるきっかけになったんですね。

 『柴ばあと豆柴太』は豆柴太がかわいく、読みやすいので子どもにも分かりやすい内容だと思います。子どもから大人まで、東日本大震災を忘れないよう、広く伝えていくために適している作品なのではないでしょうか。

(了)

 2021年で震災から10年。被災地の方たちはあの日から、深い悲しみや傷を背負いながらも助け合って前を向き、力強くふるさとを復興させてきました。各メディアでは「10年の節目」などといわれることもありますが、今回の取材で被災地の方たちの傷は今も癒えていないこと、節目というものが無いことが実感できたように感じました。

 『柴ばあと豆柴太』のような作品を通じて、決してあの日を忘れることなく、この先もずっと覚えておくことが大切なのだと改めて思いました。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/21/news011.jpg 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. /nl/articles/2404/21/news005.jpg 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  3. /nl/articles/2404/22/news028.jpg 0歳双子を19時15分に寝かせ続けたママ→1年後…… メリットだらけの挑戦記録に「偉い&すごい!」「寝る子は育つ、その通りですね」
  4. /nl/articles/2404/21/news013.jpg 【今日の計算】「101×99」を計算せよ
  5. /nl/articles/2404/16/news027.jpg 中古軽自動車をキャンピングカー仕様にして日本一周するカップル 車内で料理中、思わぬアクシデントが…… その後の姿に「すごい」「尊敬します」
  6. /nl/articles/2404/22/news122.jpg 「あの頃の橋本環奈すぎる」21歳の無名アイドル、幼少期ショット公開で再びどよめき「凄い完成してる」「美少女の片鱗が見えすぎてる」
  7. /nl/articles/2404/22/news026.jpg ご機嫌でルンルンステップを踏む柴犬、それをパパがまねすると…… ルンルンはひとりで楽しみたい派の塩対応に「めっちゃ可愛い」と100万表示
  8. /nl/articles/2308/31/news023.jpg 庭の草刈り中に小さな卵を発見、孵化させてみたら…… 命の誕生の記録に「すごい可愛い!」「すてきな家族」
  9. /nl/articles/2404/21/news029.jpg 飼い主を引っかいてしまった黒猫“自分の犯した過ち”に気が付いて…… いつもと違う行動に「反省してるのが分かる〜!」と190万再生
  10. /nl/articles/2404/22/news020.jpg 「飼い主ビビる」猫たちに猫草をあげたら……“ちがうもの”を食う1匹の姿が182万表示! 予想外の展開に「ちょっww」「狂気を見た」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  2. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  3. 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
  4. 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
  5. “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
  9. 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
  10. 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」