「暴力と搾取」「法律の罪深さ」描く問題作、『闇金ウシジマくん』作者の新作『九条の大罪』にみる共通点と主人公像(1/2 ページ)
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半グレ、ヤクザ、前科持ち――厄介な依頼人の案件ばかりを引き受ける弁護士・九条間人(くじょうたいざ)を主人公に、法とモラルの極限ドラマを描く漫画『九条の大罪』。『闇金ウシジマくん』の作者・真鍋昌平さんが手掛ける新作で、5月28日に第2集が発売されました。
「優れた弁護士とは何か」「法律の罪深さ」などを主軸に、これまでタブー視されてきたテーマにもストレートに切り込んでいく同作はなぜここまで人の心をえぐり、読む者の心を動かすのか。ウシジマくんに匹敵する、あるいはそれ以上のポテンシャルを感じさせる九条の主人公像から作品の魅力に迫ります。
ウシジマくんと九条先生
10日で5割(通称:トゴ)の超暴利闇金「カウカウファイナンス」を中心にカネをめぐるヒューマンドラマや社会の闇が描かれた『闇金ウシジマくん』では、主人公・丑嶋馨(うしじまかおる)の名前が、『九条の大罪』でも主人公の弁護士・九条間人(くじょうたいざ)の名前がタイトルに登場している両作品。
『闇金ウシジマくん』では、主人公・丑嶋が底知れない闇をのぞかせる一方で、どん底から這い上がろうともがく者には手を差し伸べる姿も描かれるなど、ダークヒーローとしてのカリスマ性や丑嶋の生きざまが注目を集めました。
一方、『九条の大罪』では、「依頼人を貴賤や善悪で選別しない」弁護士・九条が、倫理・正義といったきれいごとだけでは解決できない問題に立ち向かう姿が描かれています。第1集・第1審では飲酒運転でひき逃げ事故を起こした半グレの弁護を引き受けた際に、「被害者は死んでたほうがいい」「スマホは証拠の宝庫だ。ここに置いてけ」と言い放つなどヒリつく展開が続く中、九条本人の感性や哲学が感じられるセリフや描写が随所にちりばめられており、丑嶋とは一味違う九条のダークヒーロー的な魅力を感じることができます。
丑嶋、九条、両主人公を比較してみると、ある種フラットに物事を俯瞰で見ていたり、筋を通すことを美学としていたりと、思想面でのいくつかの共通点が見られます。加えて、丑嶋は亡き母から受け継いだウサギの「うーたん」の子孫を驚くほどていねいに飼育して可愛がっていたり、九条は成り行きから預かることになったドーベルマンの「ブラックサンダー」を可愛がっていたりと動物を心のよりどころとしている点等もある種の共通点と言えます。
中でも個人的に注目しているのは、2人のバックグラウンドで、愛人の子として極貧家庭に生まれ、恵まれない子ども時代を過ごした丑嶋と、弁護士の父、検事の兄と法曹一家で育った九条は、一見まったく異なる背景を持っているかのようですが、家族から“厄介者扱い”をされてきたという点は作品において大きなポイントになっているように感じます。
思わず目をそむけたくなるほどにリアル
『闇金ウシジマくん』『九条の大罪』は、それぞれ緊張感のあるテーマを扱っていることから、「リラックスしながら読むべき作品ではない」という感想を持つ人も少なくないようです。特に『闇金ウシジマくん』では、社会の暗部を克明に描いたことから「現実はそこまで厳しくないのではないか」と思ってしまうほどです。しかし、読み進めるうちに、実際にはそのような境遇にいる人も存在するのだろう、と感じさせてしまうのが真鍋作品のすごみ。
例えば両作品の共通のテーマとなっている「弱者と暴力」「格差と搾取」は、『九条の大罪』でも描かれています。
第2審の依頼人は軽度の知的障害を抱える青年、曽我部聡太は、元ヤクザの息子で後輩の金本卓にいいように利用され、大麻の運び屋をしていたところを逮捕されてしまいます。
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