ニュース
» 2021年06月26日 12時05分 公開

フランスで4万円支給の文化パスを18歳に無料配布→日本の漫画が急速に売上伸ばす 書店や版元に実際のところを聞いてみた

早速「漫画パス」と呼ぶ人も。

[城川まちねねとらぼ]

 フランスで、約80万人いる18歳の若者の文化芸術活動を資金的にサポートする“文化パス(pass Culture)”の無料配布が5月に本始動しました。300ユーロ(約4万円)のクーポン発行により、日本の漫画の売れ行きが急速に伸びたと仏各紙で報道され話題になっています。

文化パス フランス 漫画 今日からですよーとお知らせ(画像は文化パスのInstagramから)

 エマニュエル・マクロン仏大統領は文化パスの配布開始に合わせ、多くの若者にアプローチできるようTwitterやInstagram、TikTokなどのSNSを通じ利用を促進。もともとマクロン大統領の2017年大統領選での公約だった文化パスは、多様な文化へのアクセスが難しいフランスの14地域で約2年間テストされてきたものです。19歳の誕生日前日まで申請可能で、専用アプリにアカウントを作ると300ユーロが自動的にクレジットされ有効期限は24カ月。同国に1年以上住んでいれば、外国籍の若者でも受け取ることができます。

 また、2022年1月からは年少の若者にも拡大され、中学校から高校までの間に合計200ユーロ(約2万6000円)を受け取ることができます。公約では500ユーロとされていた文化パスは、18歳で受け取ることができる300ユーロと合わせて満たされることになる予定です。

 文化パスが利用可能な対象は多岐にわたり、書籍や映画、演劇、コンサート、音楽のサブスクリプションの他、写真や絵画のレッスンなども。ただし「多様な文化活動に触れ、発見があるように」と電子書籍、定額制動画配信、ビデオゲームなどデジタル商品については100ユーロまでに制限されています。

 なお、「文化パスは文化に関与する人と利用者の出会いを促進することを目的とするため」と前置きされ、本やCD、DVDなどはオンラインで予約し商品は実店舗へ引き取りに行くよう決められています。つまり今回売り上げを伸ばした漫画は配達不可で、アプリで予約し必ず書店などに足を運ぶ必要があります。

フランスの文化/芸術支援

 フランスはかねて世界最大の観光立国といわれ、文化/芸術に対する支援が手厚い国。夏至の日に街中で音楽が演奏される「Fete de la Musique」や、10月の第1土曜日に街中でアートが楽しめる「Nuit Blanche」など、全てのフランス人が文化/芸術に無料でアクセスできることが大切にされています。文化を継承する若者が文化/芸術に親しむことも重要視されており、EU在住で26歳以下の若者はルーブル美術館などほとんどの国立博物館は無料で入場できます。

 また、芸術をクリエイトする側への支援も多く、「Intermittents du Spectacle(エンターテインメント領域の不定期労働者)」という、会社などに属さないエンターテインメントビジネス従事者への社会保障制度が存在していますが、2020年からのCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)による制限で仕事を失った人のために失業保険受給の条件が緩和され、受給期間も延長されていました。

 こうした支援の1つとして、若者に文化活動を習慣づけることを主な目的にさまざまなオファーが提示される文化パスですが、多くの若者が選んだのは日本の漫画。ある人はシニカルな視点で、若者にとっては「漫画がいっぱい買えてラッキー」といったニュアンスで“文化パス”を“漫画パス”と呼ぶ声も目立ちました。

文化パス フランス 漫画 仏フィガロ紙やルモンドなど各紙が報道(画像はYouTubeから)
LCIに出演する仏文化大臣

彼らは主に漫画を購入している

 6月11日に仏ニュース放送局LCIに出演したロズリーヌ・バシュロ文化大臣は、「文化パスによって80%が書籍を購入しており、これは文化的な場所が再開された直後として理解できる」と前置きした上で、「彼らは主に漫画を購入している」と認めました。

 しかしバシュロ文化大臣はこの結果に「漫画は若者にとってとても心惹かれるもの。おかげで彼らは本屋に入店するし、他の本も買う。エントリーキーなのです」と語っており、ネガティブな見方はしていないもよう。「若者の好みはもしかするとあなたとも私とも違うかもしれない。ただいずれにせよ(漫画は)大変な人気がある。本屋は別の本も漫画の隣に置くようにしています。そして37%の若者は漫画と一緒に小説など別の本も購入しているというのです」と強調しました。必ず店頭で受け取る必要があるシステムが功を奏したということのようです。

ジュンク堂パリ支店やフランスでの『進撃の巨人』発行元に聞く文化パス

 本件について、パリで日本の漫画のオリジナルと仏語翻訳版の両方が豊富にそろう書店の1つであるジュンク堂パリ支店に、文化パス配布後のインパクトについて取材してみました。

 同店のサミュエル・リシャルドいわく、文化パスは「対象商品を指定・登録する必要があり、弊社では日本語を学ぶ語学書に限って登録」しているとのこと。こうした状況のため、今回話題になっている漫画の売れ行きについては言及できないとしたものの、「漫画はフランス全土で、もともと伸びている分野で、若者を書店に呼び込むには良い商品であったと思います」と書店への呼び水として有効だったとする見解を述べました。

文化パス フランス 進撃の巨人 フランスでは33巻発売のお知らせ(画像はPika EditionのInstagramから)

 今回、文化パスで大きく売上を伸ばした作品の1つが、フランスでは2021年4月7日にコミックス33巻が発売された『進撃の巨人』。フランスでの発行元であるPika Editionのクラリス・ラングレに、文化パスによって実際に売上がどのくらい増加したのか尋ねたところ、「文化パスが一般化された5月21日の前週から翌週までにメインシリーズの売上は30%伸びました」という回答が得られました。

 続けて、「ただ、進撃の巨人は今とても人気のあるシリーズで、文化パスの導入前から売上が増加していた。2020年と比較すると、2021年1月以降から1巻の売上は12倍に増加しています」と同作については以前から売上の増加が見られていたことを付け加えています。

 ラングレは今回の若者たちの選択について、「フランスの漫画市場は大変ダイナミックで、長年にわたり存在している。Actualitte(※フランスの書籍専門メディア)の記事に書かれているように、この現象は2020年から明らかに加速しています。若者が文化パスで漫画を買うという選択は、(漫画の)書籍部門におけるダイナミズム、読者の好みを反映しています。私たちはよく、“フランスは第2の漫画国”と言うんですよ」とコメントしました。

 ラングレの示した記事は「2020年はフランスにとってバンドデシネ売上の記録的な年」というタイトルで、2020年のフランスではパンデミックの中、漫画が18%の成長率を記録したと記されています。『ONE PIECE』のように象徴的シリーズの最新巻発売、『NARUTO』などすでに連載が完了しているシリーズの第1巻が売上を伸ばし、成長率を押し上げたとのこと。両作品とも2020年フランスでの漫画売上TOP10に入っており、特に2016年にフランスでも最終巻が発売された『NARUTO』の第1巻は2020年フランスで最も売れた漫画となり、2番目に売れたのが第2巻でした。

 1巻が売れるということは作品が新しい読者を獲得しているということ。さらに今回、文化パスを使ってシリーズを全巻“大人買い”する若者も多かったようです。例えばフランスで進撃の巨人は6.95ユーロ(約910円)で販売されており、最新の33巻まで購買すると229.35ユーロ(約3万円)。文化パスを使って一気に読み進めることが可能です。

 文化パスの普及は、数年前からのフランス漫画市場をますます拡大する“ブースト”となったのかもしれません。こうした支援を政府から受けてきたフランスの若者が将来、文化の担い手としてどのような活躍をするのか興味深くもあります。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2312/01/news138.jpg 伊藤沙莉、“激痩せ報道”の真相暴露→広瀬アリスの株が上がってしまう 「辱めったらない」告白に「アリスちゃん、ええ人や〜」
  2. /nl/articles/2312/01/news121.jpg “鬼ダイエット”で激やせの「Perfume」あ〜ちゃん、念願の姿に「着れる日が来るなんて」と大喜び
  3. /nl/articles/2312/01/news115.jpg 「心底惚れて」「毎日うっとり」 宮里藍、新たな愛車を公開→国産車のチョイスに反響「庶民的」「きれいな色」
  4. /nl/articles/2311/30/news047.jpg 「あなたは日本人?」突然送られてきた不審なLINE、“まさかの撃退方法”に反響 「センス良い」「返しが秀逸」
  5. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. /nl/articles/2312/01/news065.jpg 「惨めな人生を送ってる」 パリス・ヒルトン、0歳息子の容姿揶揄をまたもバッサリ “頭が大きい”と受診勧めた人々振り返り「気の毒」
  7. /nl/articles/2312/01/news014.jpg ワンコ大好きなインコに“恋がたき”登場で174万再生! まさかの展開に困惑するワンコに「爆笑w」「ダブルだw」
  8. /nl/articles/2312/01/news019.jpg 寝込んだママが心配でたまらない元保護犬と小学生息子 それぞれが見せるけなげな姿に「泣けてきた」「なんて優しい子!」
  9. /nl/articles/2311/30/news031.jpg シロフクロウが自分とそっくりのぬいぐるみをくわえ…… 自慢げな表情に「本物の赤ちゃんかと」「ヘドウィグが!」と453万再生
  10. /nl/articles/2312/01/news105.jpg 俳優の井川瑠音さんが31歳で逝去 体調不良から復帰ならず、最後の投稿では「忘れられないようまだまだ精進」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  2. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」
  3. 愛犬と外出中「飼いきれなくなったのがいて、それと同じ犬なんだ。タダで持ってきなよ」と言われ…… 飼育放棄された超大型犬の保護に「涙止まりません」
  4. ミキ亜生、駅で出会った“謎のおばさん”に恐怖「めっちゃ見てくる」 意外な正体にツッコミ殺到「おばさん呼びすんな」「マダム感ww」
  5. 永野芽郁、初マイバイクで憧れ続けたハーレーをゲット 「みんな見ろ私を!」とテンション全開で聖地ツーリング
  6. 道路脇のパイプ穴をのぞいたら大量の…… 思わず笑ってしまう驚きの出会いに「集合住宅ですね」の声
  7. 柴犬が先生に抱っこしてほしくて見せた“奥の手”に爆笑&もん絶! キュンキュンするアピールに「あざとすぎて笑っちゃった」
  8. 病名不明で入院の渡邊渚アナ、1カ月ぶりの“生存報告”で「私の26年はいくらになる?」 入院直後の直筆日記は荒い字で「手の力も入らない」
  9. 小泉純一郎元首相、進次郎&滝クリの第2子“孫抱っこ”でデレデレ笑顔 幸せじいじ姿に「顔が優しすぎ」「お孫さんにメロメロ」
  10. デヴィ夫人、16歳愛孫・キランさんが仏社交界デビュー 母抜かした凛々しい高身長姿に「大人っぽくなりました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「酷すぎる」「不快」 SMAPを連想させるジャンバリ.TVのCMに賛否両論
  2. 会話できる子猫に飼い主が「飲み会行っていい?」と聞くと…… まさかの返しに大反響「ぜったい人間語分かってる」
  3. 実は2台持ち! 伊藤かずえ、シーマじゃない“もう一台の愛車”に驚きの声「知りませんでした」 1年点検時に本人「全然違う光景」
  4. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  5. 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
  6. 西城秀樹さんの20歳長男、「デビュー直前」ショットが注目の的 “めちゃくちゃカッコいい”声と姿が「お父さんの若い頃そっくり」「秀樹が喋ってるみたい」
  7. “危険なもの”が体に巻き付いた野良猫、保護を試みると……? 思わずため息が出る結末に「助けようとしてくれてありがとう」【米】
  8. 「やばい電車で見てしまった」「おなか痛い、爆笑です」 カメがまさかの乗り物で猫を追いかける姿が予想外の面白さ
  9. おつまみの貝ひもを食べてたら…… まさかのお宝発見に「良いことありそう」「すごーい!」の声
  10. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」