映画「100日間生きたワニ」レビュー 大方の予想を裏切る傑作 「カメ止め」監督が描いた“死と再生”(2/3 ページ)
上田監督は小学館「@DIME」のインタビューで、「今はコロナ禍で、平凡な日常、当たり前な日常が失われて、毎日死を意識しないといけないような世界になっている」と、原作の「その先の物語」を描く必要性を感じたと語っている。確かに「誰もが死を身近に感じるコロナ禍」の今では、原作が描いた「平和に生きていて不意に起こる死」をそのまま描けば、ともすると陳腐になりかねない。
この監督の言葉通り、映画の後半に描かれるのは原作のその先、ワニが死んだ後の世界だ。それは、転じて「死からの再生」の物語でもある。誰もが経験する「大切な人の死」とどう向き合えばいいのか? という、非常に普遍的な内容になっていくのだ。言うまでもなく、それはコロナ禍で親しい人を突如として失う悲劇がより身近となった今、多くの人に痛切に響き、そして希望に転じ得るテーマだろう。
ある意味で、この「死からの再生」というテーマは、原作の炎上騒動の「アンサー」にもなっていると、個人的には思う。映画化、書籍化、グッズ化といった情報を、最終回でワニが死んだ直後に告知した無節操な宣伝展開は、「死を悼む」という当たり前の感情・文化をないがしろにしてしまったといえるものだったのだから。この映画の「死と向き合う」物語は、その真逆ではないか! だから、炎上騒動にガッカリした人にこそ、この「100日間生きたワニ」を見てほしいのだ。
共同監督と脚本を務めたふくだみゆきの作品も要チェック!
もう1つ注目して欲しいのは、共同監督と脚本を、アニメ作家であり上田監督の妻でもあるふくだみゆきが務めているということだ。彼女が過去に手掛けた「こんぷれっくす×コンプレックス」(2015)は、「ワキ毛青春アニメ」というアバンギャルドな触れ込みの短編作品だったのだが、これが実に「100日間生きたワニ」と通じる内容だった。
「こんぷれっくす×コンプレックス」の物語は、中学2年生の女の子が、同級生の男の子のワキ毛への興味を抑えることができず、やがて淡い恋心のような、そうでもないような微妙な関係性へと発展するというもの。「食い違うコミュニケーションのおかしみ」をもって、青春の1ページを切り取る作風は「100日間生きたワニ」と共通しているし、その中で「映画」が物語の重要なファクターとなっていること、何より若者の掛け合いの楽しさをたっぷりと堪能できることも一致していた。
「こんぷれっくす×コンプレックス」を見れば、「100日間生きたワニ」が上田監督とふくだみゆき夫妻の「共作」であることが強く実感できるだろう。どちらの作家性もプラスに働き、相乗的に作品の魅力を押し上げた好例だ。「こんぷれっくす×コンプレックス」はdアニメストアやバンダイチャンネルで配信中である。
合わせて見てほしい日本映画はこれだ!
最後に、「100日間生きたワニ」と共通点が多く、この作品が好きだったら絶対に「100日間生きたワニ」も気に入る! と自信を持って推薦できる、日本映画を紹介しておこう。いずれも現在Amazonプライムビデオで見放題だ。
1本目は「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」。同名コミックの映画化作品だ。「100日間生きたワニ」との共通点は、せっかく築き上げた関係性に割り込むウザキャラが登場すること。しかもコイツはある意味で「百合の間に挟まる男」であるため、人によっては心から嫌悪するだろう。だが、その後にはこのウザキャラを観客が嫌ってしまうことを前提とした、涙腺を刺激する展開が待っているのだ。青春におけるコミュニケーション不全(そこからの前進)を描いていることも、「100日間生きたワニ」と一致している。
もう1本が「メランコリック」。「銭湯で死体処理をする殺し屋」が登場する、奇抜な設定の低予算インディー作品だ。周りにうまく馴染めないコミュニケーション不全の青年がなんとかして自分の生き方を模索していく様、そして残酷な世界の在り方を知っても「かけがえのない仲間との時間」を大切に思うという物語の精神性が「100日間生きたワニ」と一致している。こちらもまた、コロナ禍の今では、いっそう切実に感じられるテーマだろう。
(ヒナタカ)
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