「キネマの神様」菅田将暉が明かす、志村けんさんとの別れを乗り越え生まれた“使命感” 「何としてもやり切って公開を」(1/2 ページ)
「映画をちゃんとお客さんに見てもらおうっていうパワーで動いて」
2020年に設立100周年を迎えた松竹映画を記念し、日本映画界を代表する山田洋次監督がメガホンを取った映画「キネマの神様」が8月6日に公開されます。
原田マハさんの同名小説を基にした同作は、映画撮影所で助監督を務めた経験のあるゴウを主人公とし、夢破れて別の道を歩んだ1人の人間が自分の作品と向き合う中で、忘れかけていた夢や思いを取り戻していく物語。
菅田さんが「過去」の、沢田研二さんが「現代」のゴウ役を演じる他、ロックバンド「RADWIMPS」の野田洋次郎さんが撮影所仲間のテラシン役を、永野芽郁さんがゴウに恋する淑子役を務め、日本映画が黄金期を迎えていた約50年前の「過去」と、映画を巡る環境がコロナ禍で暗転する「現代」という2つの時間軸が交錯していきます。
2020年3月にクランクインした同作ですが、「過去」のゴウを演じるはずだった志村けんさんの急逝、続く非常事態宣言による撮影中断、2度の公開延期を経験するなど、一時は完成が危ぶまれるほどの困難に直面。製作現場を襲った厳しいコロナ禍で、菅田さんはどのように作品へと向き合っていったのか、また、自身の中で「キネマの神様」という作品はどのような意味を持つようになったのかをうかがいました。
「人と人の触れ合いにすごく敏感」山田監督へのイメージ
―― 菅田さんにとって山田組初参加ですが、山田洋次監督にはどのような印象をお持ちでしたか?
菅田将暉(以下、菅田) 一言でいって「偉人」ですよね。“山田洋次”という1個のジャンルがあって、その周囲には人にいっぱい迷惑をかけるんだけど、どこか憎めないタイプの人たちがいて。
「映画の教科書に出てくる人」「いつの間にか知っている存在」、そんなイメージです。
―― 近くで接してみて気付いた、山田監督の魅力はありますか?
菅田 演出などからうかがえることとして、「人情味」といった部分の捉え方がすごくピュア。人との触れ合いにおいてすごく敏感な方なんですよね。
ゴウとテラシンがケンカするシーンに入る前、「菅田くん、ひとつ相談がある」と切り出されて。「監督が僕に相談なんかあるんだ?」と思っていたら、「テラシンがゴウを殴るシーンがある」「僕は迷っている。今まで人を殴るシーンを撮ったことがない」って言うんです。
―― 90作近く撮り続けて、ですか?
菅田 「もみ合ったり、押したりするシーンはやってきた」「でも、いわゆるアクション的な人を殴るシーンはこれまでないから、どう撮っていいか分かんないんだ」って。「人はそう簡単に相手を殴らないから」と説明されて、「なるほどな……」って感じました。
キレイに殴られてもおかしいので、野田(洋次郎)さんとも相談して考えた結果、お互いもみくちゃになりながら「出ていけ!」と怒鳴られる展開に収まりました。
―― 淑子とのシーンではいかがでしたか?
菅田 淑子が雨の降る中、外へ出ていこうとするゴウを引き留めるシーンでは、脚本に「口づけを交わす」と書いてあったんです。でも、脚本を手掛けているはずの山田監督は結局、キスする2人に寄らない、見せないようにしか撮らない。それどころか、キスシーンに後で触れたとき、ドギマギしてたりするんですよね。
先ほど話した「男と女が触れあう」「男と男が触れあう」「人と人が触れあう」という部分に敏感で、おびえたり怖がったりする感情がいまだにすごくある方なんだなと感じました。そこが「山田作品」のひとつのイメージで、山田監督独自の感覚からこうした一個一個のシーンが出来上がっていくんだなって。
志村けんさんは「才能がきちんと世に認められたゴウ」
―― もともと「現代のゴウ」を演じることになっていたのは志村けんさんでした。志村さんにまつわるエピソードがあれば教えてください。
菅田 志村さんは「スーパーコメディアン」で、僕たち世代を「バカ殿」などでたくさん笑わせてきた一方、バラエティーに出たときってすごく色気があって、慕っている人たちもいっぱいいました。それこそ“才能がきちんと世の中の人に伝わったゴウ”というイメージでしたね。
本読みの際に一回お会いさせていただいたんですが、そのときの志村さんはすごく静かでじいっと周りの空気を見ていて、でも一言つぶやくとみんな大爆笑するような人。僕と誕生日が1日違いだった上、本読みの日もたまたま誕生日付近だったので、好きだというお酒をプレゼントさせてもらって。そのときにニコッと笑ってくれて、「一緒にこれ飲みたいね」と言ってくれたのが最後となりました。
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