マンガ家が描く“秀吉愛” 同人誌『あつまれ!太閤の沼』を読んで秀吉の魅力に沈みたい司書みさきの同人誌レビューノート

豊臣秀吉で卒論まで書いてしまうほどの秀吉愛。

» 2021年08月29日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 歴史、お好きですか? 学校の授業の時間から離れても、ドラマや小説、史跡、受け継がれる過去からの品々……さまざまな場所で歴史を振り返るきっかけはあちこちにあります。今回の同人誌は、日本史の中でも大変著名な人物、豊臣秀吉への大好き! が詰まったご本です。

今回紹介する同人誌

『あつまれ!太閤の沼』 28ページ 表紙・本文カラー

著者:高枝景水


同人誌 図書館 司書 集まるのは「森」ではなく「沼」なんですね……

秀吉を熱く推す!

 戦国時代、天下統一を成し遂げた秀吉。しかし有名でありながら実は近年は人気がいまひとつとの話も……? と、長らく秀吉を追いかけ続ける作者さんが、ご自身の目線でその人物像を掘り下げ、またゆかりの地の様子などもあわせて紹介されています。

 武将といえばまず名前が上がるほどの人物ですもの、これまでにも関連書籍もたくさんあり、ドラマ化映画化も何度もされています。けれど、そんななかで「私はここに注目する!」「この目で銅像を見てきたよ!」と、自分の好きなポイント、気になるポイントに狙いを定め、明るく元気に見解を繰り広げてらっしゃるので、こちらもつられるように楽しい気分でページをめくっていきました。

同人誌 図書館 司書 まずはゆかりの地紹介から。銅像や城跡も

ミーハーの視点、アカデミックの視点、マンガ家の視点……果たしてその実態は、全員自分の脳内会議

 作者さんはプロのマンガ家さんとして活動をされており、ご本でも秀吉のあれこれについてマンガで紹介されています。そこに登場する案内役は、

  • 学習マンガで太閤沼に落ちて32年! 単なるミーハー戦国ファンのタカエダさん
  • 趣味が高じて大学は文学部史学科へ。卒論テーマは「豊臣政権の京都支配」だったタカエダさん
  • 2004年に商業マンガ家デビュー! 史実とエンタメの幸せな融合を目指して創作するタカエダさん

……の3人に見えますが、結局のところは作者さん本人のみ。三位一体が自分脳内会議の実況中継のようにして描かれます。

 「兄弟関係は?」「猿っぽいってホント?」と次々出てくる疑問点に、ミーハーさんは萌え心重視で、アカデミックさんはこれまでの記録などを基に、マンガ家さんは「そのキャラだとストーリー動かしやすい!」と口々に熱き思いをぶつけあいます。いや、つまりは意見を戦わせても自分なんですけれども! でもこのわちゃわちゃがとってもかわいらしく、そして実は立ち位置の違う三者が語り合うのが、疑問解決の分かりやすいナビゲーションになっているんです。

同人誌 図書館 司書 3人に見えるけれど全員自分

史実もフィクションも、そしてこれからも。秀吉愛を未来につなぐ

 紹介では、創作の世界での秀吉像にも言及されています。性格はドライかウエットか? それとも陰か陽か? と作品ごとの秀吉のキャラクター性を分類した「歴史創作における秀吉キャラ分布図」に見ると、時に明るい主人公、時に影を背負ったラスボスにもなり得る幅広さにあらためて驚きます。ご本の中、解説マンガの中、あちこちにちりばめられた作者さんのコメントから、史実を踏まえながらも、イメージの振れ幅をも楽しんでいらっしゃる様子が伺えます。

 大好きな対象をじっくり自分の中に取り込んだあと、今度は外に向けて愉快に表現して間口を広げ、より多くの人に対象の面白さに気付いてもらいたいというアプローチ。沼に引きずり込むだけでなく、さまざまな興味深い面を一緒に楽しむことで、歴史から未来へと考え、つなげていく人の力を紙面から感じました。

同人誌 図書館 司書 あなたが気になるのはどのタイプの秀吉でしょうか? 秀吉の知らない一面をのぞきたくなります

サークル情報

サークル名:なまず堂

入手できる場所:おもしろ同人誌バザール in 東急ハンズ池袋店(8月20日〜9月12日)、なまず堂BOOTH

Webサイト:なまず堂.com


今週の余談

 歴史小説から興味が出て、ゆかりの地や人物がまつられている場所をたどったりすること……ありますね! その人物や出来事に触れたような気持になるのが楽しく、また同志の気配を感じるのもうれしいのですよね。現地に置かれた感想ノートをめくった思い出がよみがえります。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10
  1. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  2. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  3. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議
  4. スーパーで買った半玉キャベツの芯を植え、5カ月育てたら…… 農家も驚く想像以上の結末が1300万再生「凄い」「感動した」
  5. 東京藝大卒業生が油性マジックでサンタを描いたら? 10分で完成したとんでもない力作に「脱帽です」「本当にすごい人」
  6. 定年退職の日、妻に感謝のライン → 返ってきた“言葉”が約200万表示 大反響から7カ月たった“現在の生活”を聞いた
  7. 【ヤフオク】“3万円”で購入した100枚の着物帯 →現役着付師が開封すると…… “まさかの中身”に驚き
  8. 「立体的に円柱を描きなさい」→中1の“斜め上の解答”に反響「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」 投稿者に話を聞いた
  9. 「すんごい笑った」 “干支を覚えにくい原因”を視覚化したイラストが勢いありすぎで1700万表示の人気 「確かにリズム全然違う!」
  10. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  3. 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  4. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  7. 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  8. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  9. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  10. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」