マンガ家が描く“秀吉愛” 同人誌『あつまれ!太閤の沼』を読んで秀吉の魅力に沈みたい:司書みさきの同人誌レビューノート
豊臣秀吉で卒論まで書いてしまうほどの秀吉愛。
歴史、お好きですか? 学校の授業の時間から離れても、ドラマや小説、史跡、受け継がれる過去からの品々……さまざまな場所で歴史を振り返るきっかけはあちこちにあります。今回の同人誌は、日本史の中でも大変著名な人物、豊臣秀吉への大好き! が詰まったご本です。
今回紹介する同人誌
『あつまれ!太閤の沼』 28ページ 表紙・本文カラー
著者:高枝景水
秀吉を熱く推す!
戦国時代、天下統一を成し遂げた秀吉。しかし有名でありながら実は近年は人気がいまひとつとの話も……? と、長らく秀吉を追いかけ続ける作者さんが、ご自身の目線でその人物像を掘り下げ、またゆかりの地の様子などもあわせて紹介されています。
武将といえばまず名前が上がるほどの人物ですもの、これまでにも関連書籍もたくさんあり、ドラマ化映画化も何度もされています。けれど、そんななかで「私はここに注目する!」「この目で銅像を見てきたよ!」と、自分の好きなポイント、気になるポイントに狙いを定め、明るく元気に見解を繰り広げてらっしゃるので、こちらもつられるように楽しい気分でページをめくっていきました。
ミーハーの視点、アカデミックの視点、マンガ家の視点……果たしてその実態は、全員自分の脳内会議
作者さんはプロのマンガ家さんとして活動をされており、ご本でも秀吉のあれこれについてマンガで紹介されています。そこに登場する案内役は、
- 学習マンガで太閤沼に落ちて32年! 単なるミーハー戦国ファンのタカエダさん
- 趣味が高じて大学は文学部史学科へ。卒論テーマは「豊臣政権の京都支配」だったタカエダさん
- 2004年に商業マンガ家デビュー! 史実とエンタメの幸せな融合を目指して創作するタカエダさん
……の3人に見えますが、結局のところは作者さん本人のみ。三位一体が自分脳内会議の実況中継のようにして描かれます。
「兄弟関係は?」「猿っぽいってホント?」と次々出てくる疑問点に、ミーハーさんは萌え心重視で、アカデミックさんはこれまでの記録などを基に、マンガ家さんは「そのキャラだとストーリー動かしやすい!」と口々に熱き思いをぶつけあいます。いや、つまりは意見を戦わせても自分なんですけれども! でもこのわちゃわちゃがとってもかわいらしく、そして実は立ち位置の違う三者が語り合うのが、疑問解決の分かりやすいナビゲーションになっているんです。
史実もフィクションも、そしてこれからも。秀吉愛を未来につなぐ
紹介では、創作の世界での秀吉像にも言及されています。性格はドライかウエットか? それとも陰か陽か? と作品ごとの秀吉のキャラクター性を分類した「歴史創作における秀吉キャラ分布図」に見ると、時に明るい主人公、時に影を背負ったラスボスにもなり得る幅広さにあらためて驚きます。ご本の中、解説マンガの中、あちこちにちりばめられた作者さんのコメントから、史実を踏まえながらも、イメージの振れ幅をも楽しんでいらっしゃる様子が伺えます。
大好きな対象をじっくり自分の中に取り込んだあと、今度は外に向けて愉快に表現して間口を広げ、より多くの人に対象の面白さに気付いてもらいたいというアプローチ。沼に引きずり込むだけでなく、さまざまな興味深い面を一緒に楽しむことで、歴史から未来へと考え、つなげていく人の力を紙面から感じました。
今週の余談
歴史小説から興味が出て、ゆかりの地や人物がまつられている場所をたどったりすること……ありますね! その人物や出来事に触れたような気持になるのが楽しく、また同志の気配を感じるのもうれしいのですよね。現地に置かれた感想ノートをめくった思い出がよみがえります。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。
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