テニプリ、10年ぶり映画新作で伝説の“恐竜滅亡”に挑戦状 映画「リョーマ!」、ファン歴22年の記者が許斐先生の美技に酔う
懐かしくて新しい2021年の「テニプリ」。
「テニプリっていいな」 あらためてそう口ずさみたくなる、そんな映画ができました。アニメ「テニスの王子様」シリーズから、2011年以来10年ぶりとなる映画「リョーマ!The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様」が9月3日から大ヒット公開中。テニプリ初の3DCG映画作品となっています。
完璧なつかみから、ありそうでなかった真夏の大冒険へ
1999年の原作連載開始から数えて、テニスの王子様歴22年の記者。3DCGってどうなんだ? ピクサー的なやつ? 上映前に抱いていた懸念は、上映開始数秒で吹き飛びます。なぜなら眼前にあったのはまごうことなくテニプリだったから。
同作は、全国大会決勝から3日後にリョーマが渡米する場面からスタート。『テニスの王子様』で描かれた夏から、ジュニア選抜が舞台となる続編『新テニスの王子様』(以下、新テニ)秋まで3カ月の空白期間を描いた作品で、この状況設定を「Dear Prince〜テニスの王子様達へ〜」をBGMに採用することで瞬時に理解させてしまうのです。
「Dear Prince〜テニスの王子様達へ〜」は2008年3月に発表された原作コミック『テニスの王子様』最終回で、文字通り“描かれた”楽曲。CDとして発売されたのは翌月のことで、未発表曲の歌詞のみを採用したクライマックスシーンは、コマ外にひっそり添えられた「JASRAC申請中」という一言とともにネットをざわつかせました。
そんな懐かしさに引き込まれたファンを待ち受けているのは、想像の斜め上から再構築された名場面。2Dのコミックとして生まれ、アニメ化を経て、新たに3Dで再映像化されたテニスシーンにはこれまでの「テニプリ」にはなかった新解釈が加えられ、全く異なった印象を視聴者に与えます。「Dear Prince」誕生エピソードに現れているように、「その発想はなかった」という超展開こそテニプリのお家芸。私たちが20年間、愛し続けていた作品が形を変えてここにありました。
恐竜を越えていけ、シリーズ初のラップバトル
テニプリの映画といえば、2005年公開の第1作「劇場版 テニスの王子様 二人のサムライ The First Game」の印象が強烈です。“豪華客船を舞台に繰り広げられるテニス”との触れ込みでしたが、ふたを開けてみれば手塚ゾーンで部長が恐竜を滅亡させる展開で観客の度肝を抜き、13年後に発売されたOVA「テニスの王子様 BEST GAMES!! 手塚 vs 跡部」のコメンタリーをはじめことあるごとに手塚役の置鮎龍太郎さんがいじられるほどの伝説に。これを越えるインパクトはなかなか生み出せないのではと思わせるほど『テニプリ』の歴史を語る上で圧倒的な存在感を誇ります。
そんな映画テニプリが、原作の許斐剛先生を製作総指揮に迎えた「新生劇場版」で、恐竜越えの武器として選んだのは歌とダンス。アニメキャストを起用したキャラクターソング(キャラソン)の数は900曲を超え、日本武道館で許斐先生自らポップアップで登場してライブパフォーマンスをするイベント出演の経験を持つなど、考えてみれば材料はそろっていました。さらに2.5次元ブームの火付け役となったミュージカル『テニスの王子様』の影響も感じられます。
許斐先生は劇中に登場する全オリジナル楽曲の作詞と作曲も担当。シリーズに欠かせないテニスシーンも、歌を組み合わせたことで大型スクリーンとスピーカーに映えるよりドラマチックなものに。単なる勝ち負けを越えて、登場人物がどんな思いで試合に挑むのか、なぜテニスをするのか、感情の深い部分まで描き出すことに成功しています。
さらにゲスト声優として杉田智和さんを迎え、テニプリ初の“ラップバトル”を展開。主人公・越前リョーマが立ち向かう対戦相手は凡百のラッパーではなく、テニスをたしなむギャング。ライムとビートを刻みながらボールを打ち合うなんてお手のもの。たとえ落書きだらけの路地裏が舞台でも、ラケットとボートさえあればそこはコートに早変わり。確かなテニプリDNAを感じられる名場面となり、恐竜越えへの挑戦状となりました。
深刻な目玉不足に悩まされる、小ネタのオンパレード
全国大会終了後、リョーマは青春学園を離れてアメリカへ。同作はタイトルの通りリョーマのルーツをたどる物語で、ひょんなことから同級生の竜崎桜乃と一緒に、父・南次郎が現役テニスプレーヤーだった過去へタイムスリップしてしまいます。“ひょんなこと”の正体は、最後までふんわりとしたままですが、熟練のファンであればフィーリングで理解できるはずです。たぶん。
少年少女が真夏の大冒険というストーリー展開は王道。テニプリにはありそうでなかった要素ですが、振り返ってみれば桜乃は連載第1話からのキャラクターで、劇中にはこのことを思い出させる原作第1話のオマージュが含まれています。
こうしたオマージュや細かな小ネタは劇中、あちこちに仕込まれていてオールドファンを喜ばせます。例えばラケットを破壊された南次郎が取る奇策や、桜乃が大切に守ろうとしているアイテムなど。一つ一つが『テニスの王子様』『新テニスの王子様』で見られたあらゆるシーンへの伏線となっていて「だからあのときリョーマは」と答え合わせにつながるのです。
また、過去の越前家にはリョーマと一緒に越前リョーガの姿も見られます。このキャラはもともと劇場版1作目「二人のサムライ」にリョーマの兄として登場するオリジナルキャラクターでしたが、2009年に『新テニスの王子様』が連載開始されるとジュニア選抜の参加者として登場し原作に合流。同作で過去のエピソードに加わったことで、過去の劇場版と『新テニ』をリンクさせる役割を担っています。
ねとらぼのインタビューで、原作、そして同作の製作総指揮を務めた許斐剛先生はこれらの仕掛けを「22年間応援してくださったたくさんのファンの方たちを、ものすごく喜ばせたい」という意図で組み込んだと話していました。正直、サービス精神の大盤振る舞いにこちらが追い付けない状況で、数え切れないほどのイースターエッグがファンを待ち受けています。
リョーマとテニプリを導く2つの個性
目が足りない、そんなテニプリファンに朗報です。同作は<Decide>と<Glory>のバージョン違い2タイプで上映。それぞれに数人ずつリョーマと一緒に作品を引っ張ってきた青学レギュラー陣や、他校のキャラが登場しています。これで何度でもフレッシュな気持ちで見に行けるな!
<Decide>には青学から手塚国光と立海の幸村精市、そして<Glory>には氷帝の跡部景吾と四天宝寺から白石蔵ノ介らが登場。劇中ではおおよそ同じ役割を担う2人ですが、両者の個性を生かしたストーリー作りがなされていてこのギャップも見どころのひとつ。
全国大会が終わってもなお部長としてリョーマを導こうとする手塚。行き詰った後輩へ授ける言葉は、真面目でどんなときもテニスを忘れない手塚らしいものながら、優しさを感じさせます。一方で跡部様は、しょっぱなから“跡部様”感フルスロットル。他校の生意気な1年生に助け舟を出そうという気があるのかないのか。「着いていきます!」とひざまずきあがめて奉りたくなる仕様です。この2タイプ上映の差分は本編以外にも上映開始前とエンディング後にも含まれているため、鑑賞の際には時間に余裕を持って席につくことを強くお勧めします。
エンディング後の映像は、900曲を超えるキャラクターソングから、厳選された楽曲を使用した「シアター☆テニフェス petit!」。手塚がメインの<Decide>は部長たちの楽曲を中心にチョイス。一方、跡部メインの<Glory>は学校ごとに特色が現れた楽曲を次々にフィーチャー。原作のイラストが使われた映像でこれまでの物語を振り返るエモい映像となっています。
『リョーマ!The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様』
9月3日(金)より大ヒット公開中!
制作・配給:ギャガ 製作:新生劇場版テニスの王子様製作委員会
(C)許斐 剛/集英社 (C)新生劇場版テニスの王子様製作委員会
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