『ちいかわ』が“幸福論を問う作品”であるという決定打 なぜ「オフィスグリコちゃんのカエル」でTwitterがどよめいたのか:あのキャラに花束を(3/4 ページ)
この世界の鍵となる存在・モモンガ
『ちいかわ』の幸福論をより複雑にしているのが、準レギュラーとして出番の多いモモンガの存在です。一見かわいらしいふわふわのキャラクター。しかしなぜか色んな人に邪険に扱われています。鎧さんたちは普段、ちいかわ達に対して過保護ともいえるほど愛情を注いでかわいがっているのですが、モモンガにだけはやたら冷淡です。
このモモンガ、中身はでかつよで、小さくかわいい元モモンガと魂を入れ替えたことでかわいい身体を手に入れた、という過去があるようです。でかつよ側が無理やりに乗っ取ったような形。理由は恐らく、かわいくなりたかったから。
先ほどのオフィスグリコちゃんは自ら強くて大きな存在になる道を選びましたが、モモンガは一度大きく強い存在になったにもかかわらず、小さい身体になりたい、かわいくなって甘やかされたい、という欲望に飲まれた……ということなのかどうか。このあたりは「モモンガが誰にも相手にされず、邪険にされるギャグ」としてしか描かれていないので、周囲に本性が明らかになったときに大きく話が展開しそうです。少なくとも鎧さんたちは、既にモモンガの本性を知っている可能性はありそうですが……?
問題は乗っ取られた元モモンガの方。この子はモモンガの姿に当然戻りたいわけで。しかし乗っ取られたままなので、他のでかつよのように凶暴ライフを楽しむわけでもなく、一人孤独に過ごしています。
『ちいかわ』は基本的には、事件が少しでもいい方向に進もうとするのを繰り返す作品ではあるのですが、このモモンガ絡みは悪い方向にいったまま戻ってこれていない例の一つ。他にもちいかわの小さな友達の話など、「ちいかわ層とでかつよ層」の不一致による、悲しい結末のままの物語はいくつか存在します。やりきれない話ですが、どうしても価値観の違いで解決しないものはある、と認めざるを得ない。うまくいかなさも、『ちいかわ』という作品の魅力です。
ランカーさんが示してくれる、かわいくて強い生き方
ただしちいかわやハチワレのように、小さくてかわいいまま強くなりたいという思いを持つものも少なからずいます。とても難しいことですが、それを体現する存在として出てくるのが上位ランカーさん(ラッコ)。
ふわふわ小さくかわいらしい姿ですが、明らかに他の子と違う歴戦の勇者の表情。実際討伐数はものすごい数のようで、巨大な相手も倒してバリバリ稼いでいるようです。それでいて甘いものが大好きだったり、一人だと歌を歌うのが好きだったりとかわいらしい一面もしっかりあります。
ランカーさんはちいかわとハチワレの、少年漫画的な師匠ポジションとして登場します。2人の姿の中に何かを見いだしたのか、自らの経験から激励します。ふたりにとってのランカーさんは、他にない大事な「大人」の姿であり、憧れの人、師匠と呼びたい相手です。
生き方は「小さくてかわいい」と「でかくて強い」の二極化されているわけではない。小さくてかわいくて強く生きることもできる。ただしそれには、強靭(きょうじん)な精神力がいる。『ちいかわ』世界には労働や命の危険など過酷な面が多々あって、人生と命の選択を迫られる場面があります。それが分かれば分かるほど、ランカーさんの存在はこの作品の光、ちいかわやハチワレやうさぎが成長していく道の可能性を開いてくれます。
ちゃんと自身の武器で生き抜いて信念を貫くことはできる。ランカーさんは戦って強くなることに活路を見つけましたが、もちろん戦闘だけがこの世界を生き抜く術ではありません。
ちいかわは戦闘面では決して強くありません。頭もいい方ではないようです(草むしり検定5級頑張れ……!)。しかし意外とダンスを覚えるのは得意なようで(パジャマパーティーズの代役の際に発揮された)、しかも歌が上手らしい。戦うことはできなくても、みんなを鼓舞する才能をちいかわは持っていることを、ランカーさんは見抜いています。果たしてちいかわは一歩成長したときに、どういう選択をするのか。少なくとも、幾多の困難をハチワレとうさぎとともにいることで切り抜けてきたのですから、強い友情のきずながある限りでかつよになるルートは選ばなさそうです。
なあちいかわ、アイドルにならないか……?
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