アンソロ同人誌ができるまで 主催者がやるべきことをまとめた『アンソロ主催 前のめり!!』がためになる:司書みさきの同人誌レビューノート
大変だけど、それよりも楽しそうと思える一冊。
“アンソロ”というものをご存じでしょうか。本の世界でアンソロジーと言えば、特定のテーマに沿って複数の作家の作品を収録した選集を指します。同人誌でもアンソロジー=アンソロと略するほどよく見かけますが、それは1人の選者によって採択される選集というより、「テーマを設定してみんなで参加して一冊の本を作ろう!」という合同誌の意味合いで使われることが多い印象です。
オンリーイベントのアンソロ、他で見掛けないような切り口で集まったアンソロなどなど、さまざまな方の作品が一挙に読めるアンソロは盛り上がりますね。今回のご本は、みんなが楽しいアンソロが作られ、即売会に並べられ、読者さんの手に届くまでの進行がマンガで描かれます。
今回紹介する同人誌
『アンソロ主催 前のめり!!』A5 52ページ 表紙3色刷り・本文モノクロ
著者:ヤマダ
アンソロ制作に必要なものはクリアファイルから胆力まで。制作から完成までを追う
こちらのご本は、フルタイムで働きながら、執筆者24人、総ページ132ページの同人誌を2カ月で作り上げられた記録です。
普段は“旅行”をテーマに活動されている作者さん。コロナ禍で旅もままならず、旅行記も書けず、旅行ジャンルとしても少ししょんぼりしているように感じる中、「旅行ができないなら、旅行記ができるまでのメイキングをマンガにしよう」と思い付きます。Twitterで発信すると、旅行記の書き手さんたちから反応が! ここから24人もの方々が参加されるアンソロジーへと発展していきます。
裏表紙には「アンソロ主催に必要なもの」一覧が書かれています。そこには原稿・書類仕分け用のクリアファイル、印刷代、そして胆力も。日本国語大辞典によると胆力とは「物事に恐れず、臆せず、驚かない気力。動じない心」とのこと。気持ちも重要ですね。
アンソロ主催がやるべきこと、やってよかったことを惜しみなく公開
アンソロを主催するにあたり、まずはお金としめきりというものすごく大切なことをはっきりと書いた依頼書づくりからはじまり、進行予定、参加者さんとの連絡など、やるべきことはたくさんあるのが一読するだけで分かります。さらには即売会への参加の様子、帯も作ってみようか? と完成したその後についても書かれています。
ご本ではその、しなければならないこと、やってうまくいったこと、気を付けたいことが、惜しみなくどんどんマンガで説明されていきます。本作り特有のページ配分表である台割りについて説明もあれば、データ保存の見やすいフォルダ分けもあって、まぁとにかく情報量がすごいんです。でもこんなに情報量がたくさんなのに、すっきりしたコマ割りでページごとに情報がまとまっているので、ぱらぱらめくって“あ、ここはいまの自分には特に必要そうだな”というページが見つけやすくてうれしい作りになっています。
進行を楽しむ。マネジメントのヒントにも。アンソロは「祝!! 私!! たくさん読めてよかったね!!」
作者さん自身もアンソロに参加しているため、ご自身の執筆と主催としての進行、調整が並行していきます。ご多忙な様子で、時に悩んだり迷ったり……。「ツイッターやってないで書け!! とは思わないけど〆切前はツイッターやりながら書け!! とは思っていました(笑)」なんて気持ちも率直に語りながら、迷ったときには参加者さんの意見も聞き、ご家族ご友人のアドバイスに胸を温かくされながら進んでいきます。
そんな中、とりわけ印象に残るのは作者さんの笑顔です。手元に届いた参加者の原稿をチェックしながら「めっちゃ楽しい」、スムーズな連絡のためにExcelの関数を使い適切な数式が見つかると「めっちゃうれしい」と、晴れ晴れとしたお顔がそこここに。ツールを使い、計画を立てて滞りなく完成へと導く“進行そのもの楽しんでしまう姿”に、ページをめくっているとアンソロって大変そうという気持ちよりも、アンソロって楽しそう! な気持ちが勝りました。準備をうまく段取りして“進行そのものを楽しんでしまう姿”はアンソロに限らず、物事を管理、調整するときのヒントにつながるようにも思います。
「祝!! 私!! たくさん読めてよかったね!!」とはじける笑顔がアンソロ主催楽しいよ、と後押ししてくれるようです。ここまでして完成された同人誌が読みたくなるのももちろん、これからアンソロを作ってみたい人には大大参考になるの間違いなしですよー!
サークル情報
サークル名:十五堂(じゅうごどう)
Twitter:@jugodo2019
入手できる場所:BOOTH
次回イベント参加予定:COMITIA138(2021年11月21日、と11a)、コミックマーケット99(2021年12月31日、ネ-35a)
今週の余談
冬のコミックマーケットの詳細が発表されましたね。ずっしりとした本の重みによろよろしつつ帰路に就く年末の復活でしょうか。今回のご本も、表紙の手触り、インクの明るさ、本文の紙替えのやさしいピンク色など、装丁からも作品の前向きさを感じたところでした。本の形にすること、それを手に取るうれしさ、楽しみですね。誰もが油断はできないと思うなか、できることをできるだけして、みんながそれぞれにできる地で前向きに創作に続けていけるように心から心から祈っています。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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