アンソロ同人誌ができるまで 主催者がやるべきことをまとめた『アンソロ主催 前のめり!!』がためになる司書みさきの同人誌レビューノート

大変だけど、それよりも楽しそうと思える一冊。

» 2021年11月14日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 “アンソロ”というものをご存じでしょうか。本の世界でアンソロジーと言えば、特定のテーマに沿って複数の作家の作品を収録した選集を指します。同人誌でもアンソロジー=アンソロと略するほどよく見かけますが、それは1人の選者によって採択される選集というより、「テーマを設定してみんなで参加して一冊の本を作ろう!」という合同誌の意味合いで使われることが多い印象です。

 オンリーイベントのアンソロ、他で見掛けないような切り口で集まったアンソロなどなど、さまざまな方の作品が一挙に読めるアンソロは盛り上がりますね。今回のご本は、みんなが楽しいアンソロが作られ、即売会に並べられ、読者さんの手に届くまでの進行がマンガで描かれます。

今回紹介する同人誌

『アンソロ主催 前のめり!!』A5 52ページ 表紙3色刷り・本文モノクロ

著者:ヤマダ


同人誌 図書館 司書 机に向かうお姿からわくわくが伝わってきます

アンソロ制作に必要なものはクリアファイルから胆力まで。制作から完成までを追う

 こちらのご本は、フルタイムで働きながら、執筆者24人、総ページ132ページの同人誌を2カ月で作り上げられた記録です。

 普段は“旅行”をテーマに活動されている作者さん。コロナ禍で旅もままならず、旅行記も書けず、旅行ジャンルとしても少ししょんぼりしているように感じる中、「旅行ができないなら、旅行記ができるまでのメイキングをマンガにしよう」と思い付きます。Twitterで発信すると、旅行記の書き手さんたちから反応が! ここから24人もの方々が参加されるアンソロジーへと発展していきます。

 裏表紙には「アンソロ主催に必要なもの」一覧が書かれています。そこには原稿・書類仕分け用のクリアファイル、印刷代、そして胆力も。日本国語大辞典によると胆力とは「物事に恐れず、臆せず、驚かない気力。動じない心」とのこと。気持ちも重要ですね。

同人誌 図書館 司書 ノリで主催になったあとのあれこれが明かされていきます

アンソロ主催がやるべきこと、やってよかったことを惜しみなく公開

 アンソロを主催するにあたり、まずはお金としめきりというものすごく大切なことをはっきりと書いた依頼書づくりからはじまり、進行予定、参加者さんとの連絡など、やるべきことはたくさんあるのが一読するだけで分かります。さらには即売会への参加の様子、帯も作ってみようか? と完成したその後についても書かれています。

 ご本ではその、しなければならないこと、やってうまくいったこと、気を付けたいことが、惜しみなくどんどんマンガで説明されていきます。本作り特有のページ配分表である台割りについて説明もあれば、データ保存の見やすいフォルダ分けもあって、まぁとにかく情報量がすごいんです。でもこんなに情報量がたくさんなのに、すっきりしたコマ割りでページごとに情報がまとまっているので、ぱらぱらめくって“あ、ここはいまの自分には特に必要そうだな”というページが見つけやすくてうれしい作りになっています。

同人誌 図書館 司書 うれしさと現実を見据えて……!

進行を楽しむ。マネジメントのヒントにも。アンソロは「祝!! 私!! たくさん読めてよかったね!!」

 作者さん自身もアンソロに参加しているため、ご自身の執筆と主催としての進行、調整が並行していきます。ご多忙な様子で、時に悩んだり迷ったり……。「ツイッターやってないで書け!! とは思わないけど〆切前はツイッターやりながら書け!! とは思っていました(笑)」なんて気持ちも率直に語りながら、迷ったときには参加者さんの意見も聞き、ご家族ご友人のアドバイスに胸を温かくされながら進んでいきます。

 そんな中、とりわけ印象に残るのは作者さんの笑顔です。手元に届いた参加者の原稿をチェックしながら「めっちゃ楽しい」、スムーズな連絡のためにExcelの関数を使い適切な数式が見つかると「めっちゃうれしい」と、晴れ晴れとしたお顔がそこここに。ツールを使い、計画を立てて滞りなく完成へと導く“進行そのもの楽しんでしまう姿”に、ページをめくっているとアンソロって大変そうという気持ちよりも、アンソロって楽しそう! な気持ちが勝りました。準備をうまく段取りして“進行そのものを楽しんでしまう姿”はアンソロに限らず、物事を管理、調整するときのヒントにつながるようにも思います。

 「祝!! 私!! たくさん読めてよかったね!!」とはじける笑顔がアンソロ主催楽しいよ、と後押ししてくれるようです。ここまでして完成された同人誌が読みたくなるのももちろん、これからアンソロを作ってみたい人には大大参考になるの間違いなしですよー!

同人誌 図書館 司書 こだわりも大切に、細部に思いを込めて

サークル情報

サークル名:十五堂(じゅうごどう)

Twitter:@jugodo2019

入手できる場所:BOOTH

次回イベント参加予定:COMITIA138(2021年11月21日、と11a)、コミックマーケット99(2021年12月31日、ネ-35a)


今週の余談

 冬のコミックマーケットの詳細が発表されましたね。ずっしりとした本の重みによろよろしつつ帰路に就く年末の復活でしょうか。今回のご本も、表紙の手触り、インクの明るさ、本文の紙替えのやさしいピンク色など、装丁からも作品の前向きさを感じたところでした。本の形にすること、それを手に取るうれしさ、楽しみですね。誰もが油断はできないと思うなか、できることをできるだけして、みんながそれぞれにできる地で前向きに創作に続けていけるように心から心から祈っています。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/08/news177.jpg イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  2. /nl/articles/2411/06/news180.jpg 「むりだろww」「笑いました」 ニトリでソファ購入 → 愛車の前でぼうぜん…… “まさかの悲劇”が1000万表示
  3. /nl/articles/2411/07/news182.jpg 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  4. /nl/articles/2411/07/news163.jpg 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. /nl/articles/2411/05/news138.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  6. /nl/articles/2411/08/news132.jpg peco、息子の近影を公開「すごーくりゅうちぇるに見えます!」「パパに似てる〜」 息子のスクールランチも色とりどりでおいしそう
  7. /nl/articles/2411/08/news143.jpg 高嶋ちさ子、3000万円超の“超高級外車”ゲットにドヤ顔も! 笑い止まらずハンドル握り「Woohoo!!!」
  8. /nl/articles/2411/07/news029.jpg 50代主婦が5日間、ひたすら草抜き&庭木の剪定→たった一人でやり遂げたとは思えないビフォーアフターに称賛の嵐 「尊敬する」「本当に脱帽です」
  9. /nl/articles/2411/08/news025.jpg 「そうはならんやろ」クルマ修理会社の壁を見ると…… まさかの“シュールすぎるイラスト”に9万いいね 「よすぎる」「天才か」
  10. /nl/articles/2411/08/news111.jpg 2人組ガールズユニット、突然の脱退を発表 マネージャー「本人の意思ではない」 母親とする人物からの脱退理由と経緯説明が物議
先週の総合アクセスTOP10
  1. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  2. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  3. 結婚相手を連れてくる妹に「他の人に会わせられない」と言われた兄、プロがイメチェンしたら…… 「鈴木亮平さんに見えた」大変身に驚がく
  4. 「2007年に紅白出場」 38歳になった“グラビア界の黒船”が1年ぶりに近影公開→驚きの声続々
  5. 「クソビビったwww」 ハードオフに38万5000円で売っていた「衝撃的な商品」が90万表示 「売った人突き止めたい」
  6. 夫婦喧嘩した翌朝の弁当を夫が作ったら…… “森”すぎるビジュアルに「インパクトすごい」「最高に笑いました」の声
  7. 約9万円の「高級激レアガンプラ」を10時間かけて制作→完成品に「家宝だ」「めっちゃくちゃにかっこいい!!」
  8. 天皇皇后両陛下主催の園遊会、“お土産”に注目 ジョージア大使「大好物です」「娘たちからも大好評」
  9. 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
  10. 事故で重体の人気日本人TikToker、1カ月の意識不明と家族ケア経て逝去……“旅立ち直前に会った”親友は「励ましに来てくれてたのかな」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた