木次線「奥出雲おろち号」の旅! お供にしたい駅弁は? 松江駅弁・一文字家:松江「島根牛すき焼き煮切り丼」(1230円)(2/2 ページ)
駅弁を通して、出雲地方の「米糀文化」を守りたい!
―景山社長は、出雲地方の食文化の、どのポイントを守りたいですか?
景山:食は自然相手なので、私たちの力ではどうにもならないことが多いです。私が小さいころに食べていた赤貝もしじみも、環境悪化のため漁獲量が激減してしまい、駅弁という範疇では成立しないことも多くなっています。錦織圭選手ゆかりの「のどぐろ」もしかりです。いろいろな要因が絡み合って、食材が変わっていくことは、仕方ないことだと思っています。ただし、そのなかでも変えてはいけないものは、出雲という土地が育んできた「米糀文化」です。
―「米糀文化」とは、具体的にどんなものですか?
景山:出雲地方で獲れる米によって作られる「酒」や「味噌」といった、地元の空気と水を吸い上げてできていくもの、それを料理の味付けに使っていくことですね。(コスト面だけを考えて)いきなり全国ブランドの調味料を使うようなことだけはしたくないと私は思っています。味噌以外では、魚料理に「出雲地伝酒(じでんしゅ)」を使っています。いまの「みりん」に近い、出雲ならではの酒です。
木次線で奥出雲の風を感じて駅弁を!
―これからニッポンの駅弁を、どんな形で盛り上げていきたいですか?
景山:「和食」はユネスコの世界無形文化遺産に登録されています。世界が認める「和食」です。欧米には、日本のような「弁当」の文化はありません。例えば、松花堂弁当は、料亭の吉兆が考え抜いて作り出したものです。洗練された「弁当」文化が日本にはあるわけです。そういったものをきちんと理解した上で世界に自慢して発信していくことが、今後は大切になると思います。
―景山社長お薦め、一文字家の駅弁を“美味しくいただくことができる”車窓は?
景山:一文字家の食材が育まれている奥出雲の風を感じながら召し上がっていただきたいです。いちばんいいのは、木次線(きすきせん)ですね。週末を中心に「奥出雲おろち号」というトロッコ列車が運行されています。とくに11月は中国山地の紅葉が美しいです。残念ながら、車両の老朽化に伴って、2023年度での運行終了が発表されていますので、ぜひ「島根牛みそ玉丼」などの駅弁を片手に、奥出雲の空気と一緒に駅弁を味わって欲しいです。
―創業120年から次の一歩へ向けて、景山社長の意気込みを聞かせてください。
景山:私が松江に帰ってきたころ、200社以上あった駅弁業者は、いま80社となっています。できるだけ早く、全国の多くの方が、大手業者の簡便な弁当の味に惑わされることなく、「本物の弁当の味」を見極めたり、伝えることができる文化を育んでいきたいです。そして、そういう国民でありたいと思います。そこをしっかり護ることができれば、日本の和食文化は、生き延びていくことができると思うんです。東京からJRでいちばん遠い県とされる島根だからこそ、余計にそういったところにはこだわっていきたいです。
「島根牛みそ玉丼」と合わせていただきたいのが、「島根牛すき焼き煮切り丼」(1230円)。平成29(2017)年の京王百貨店新宿店「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」に合わせ開発された駅弁です。醤油にはみそ玉丼でおなじみ、奥出雲・井上醤油店の2年間熟成させたという井上古式醤油(本醸造)が使われています。下に敷き詰められているご飯は、もちろん、飯南町産のコシヒカリです。
【おしながき】
- ご飯(島根県飯南町産コシヒカリ)
- 島根牛のすき焼き風煮(牛肉、玉ねぎ、こんにゃく)
- とろとろ玉子
- 大根のしそ漬け
「煮切り」は牛肉を醤油や砂糖を水が少なくなるまで煮詰めて、うま味を閉じ込める製法。これによって生まれた別添の「煮切り汁」には、一文字家伝統のスッポンを使った万能出汁、熱処理していない蜂蜜や地伝酒などを加えていて開発に4年かかったそう。このうま味が凝縮された煮切り汁をたらして、とろとろ玉子に箸を入れる瞬間が最高です。濃厚な香りと肉のうまみを存分に満喫しながら、じっくり味わいたい駅弁です。
「奥出雲おろち号」と出雲坂根駅で交換した、キハ120形気動車1両の備後落合行が、スイッチバックに挑んでいきます。今回、「島根牛みそ玉丼」の製造を見せていただいて、調理場にフワっと広がった味噌の香りがいまも忘れられません。まるで天然醸造味噌の酵母の息遣いが聞こえてくるかのような芳醇な香りでした。たたら製“鉄”が育んだ文化を感じるためにも、やっぱり、いつまでも出雲地方は“鉄道”で旅をしたいもの。「日本のこころ」を感じに、あなたも駅弁と一緒に出雲地方を旅してみませんか?
(初出:2021年11月22日)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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