あめちゃんは、ある側面では僕だった 「NEEDY GIRL OVERDOSE」あめちゃんとインターネットの壊れた世界:「NEEDY GIRL OVERDOSE」レビュー(2/2 ページ)
あめちゃんとインターネットの壊れた世界
本作には生きている人間は(ほぼ)あめちゃんしか登場しない。他の人間や、プレイヤーが扮(ふん)する「ピ」は、テキストでしか現れない、というかピは恐らく実際には存在せずあめちゃんのイマジナリーフレンド(※編注:重大なネタバレのため白文字にしています)にすぎない(ピの性別が特定されてないことは発売前から名言されており、大変好ましかったが、その「特定されてなさ」が物語の内部にまで関係してくるのはさすがだなと思った)。全ての場面がデスクトップ上のウィンドウとして表示されるので、このゲーム内にはあめちゃんと窓だけがある、ということになる。単に奇をてらってそうなってるわけではなく、そう語られる意味もある。つまり、これはあめちゃんの視野を通した世界の姿だ。だから色調がゆめかわっぽい雰囲気なのにも単なる「見た目の良さ」を超えた意味が付与されていて、総合的に優れたデザインになっているなと感じた。
あめちゃんとインターネットしか存在しない状態で語られる物語、という意味ではかつて隆盛を誇った「セカイ系」的な狭さをすこし思い出したりもした。ただ、本作では、例えば隕石が落ちてきて世界が崩壊するとか、大怪獣が攻めてきたのでロボットに乗って戦わねばならない、とか、そういったことは起こらない。葛藤もせいぜいインターネットをやめる/やめないというぐらいの規模のもので、あくまで自意識の問題に帰着していくところがセカイ系とは違うだろう。世界に大げさな変化を求めず、どこか諦観しているというのは現代のインターネットのモードとも通じる。感情的な人間はだからこそ目立ったりもするし、より強く傷つきやすい、というのも、よく見る光景だ。というか、みな、傷つきたくないから、無感情だったり、諦観していたり、俯瞰しているフリをしているんだろう。
あめちゃん以外の人物はモブであり、掲示板や配信、SNSへの書き込みという形で現れる。実際インターネットで出会う他人は(それが多ければ多いほど)個人と認識しづらい。不特定多数の書き込みは個人を離れた「流れ」や「勢い」、つまり「世界の空気感」のように感じられることがある。爆速で流れるコメントも、本当は全て違う人が打ち込んでおり、彼ら一人一人に人生がある……とか想像するとちょっと怖くなったりもする。
あめちゃんという存在には少々ファンタジックだったり誇張されたところがある(その誇張された集合意識感が神っぽく「超てんちゃん」というキャラクターに説得力があったりもする)が、モブの描写の解像度の高さは本当にすごく(すごいというと思考停止っぽいが他に表現の仕方がない)、本作の白眉であると思う。特に配信コメントは「本当にYouTubeでいったん配信したんか?」と思うほどにリアルに感じられた。なんかやたらに好意的なひと、バカっぽいアンチ、その場の空気で発言してるだけな感じ、などが適切な割合で存在する感じが……。
ゲーム中のインターネットコミュニケーション描写といえば、JINE(要はLINE)のことも書いておきたい。本作ではJINE上でスタンプを押すことであめちゃんとやりとりすることができるのだが、このスタンプのバリエーションがなんかステキだ。先ほど「あめちゃんはオレだ!」的なことを書いたばかりだが、僕はかつてこういう感じの人とLINEのやりとりをしていたことがあり、その具体的な記憶が思い出されたので(あくまで男目線からは)やりとりの温度感など結構リアルだなと感じた。「こういう人、見たことある気がする」というのは、本作をプレイしたインターネットのオタクは結構感じたんじゃあないかな……。
You're an addict, so be addicted. Just be addicted to something else.
タイトルにもある「オーバードーズ」とは、単に薬物の過剰摂取のことだけを指すのではない。配信もそうだし、掲示板も、SNSも、出会い系や、承認欲求を満たそうとすること自体に中毒性がある。ゲームをプレイするわれわれも、その感想を追う人も、記事を読む誰かも、恐らくみんな何かの中毒だ。そして、残念なことに単に中毒を脱し健康になれば幸福になれるというわけではない。どうせ中毒なんだから、諦めてやってくしかないんじゃない? 個人的にはこのあたりの描き方は、映画「T2 トレインスポッティング」を思い出させられた。予告編だけである程度僕が言いたいことのエッセンスが分かると思うけど、本作をプレイしたあと興味をもったらぜひ本編も見てみてください。
みんな何かの中毒で、バカにしながらも依存しているインターネットをやめることができない。本作はそんなわれわれの姿を、ときにバカにしながら、ときに憐れみながら、そして自分もその当事者であると認めながら、精密に描いている作品だ。ゲームとしてはウィンドウが多くなると進行を見落としがちだったり、周回が少々めんどくさかったり(スキップ類はある程度充実してはいるが)、バグってて挙動が変になることがあったり(パッチで改善されてはいるようだ)など荒々しい部分もあるが、国産インディーでこれだけのボリュームがあり、コントロールされた完成度がある作品が遊べるのは素直にうれしい。なにより、最初にも書いたけど、流行している間に遊んで他人と感想を話しあうのが楽しい作品だろう。
値段もボリュームに対してはかなりリーズナブルだと感じる。もちろん個人的に思うところがないわけでもない。最も「どうなんだろう」と思ったのは、「えっちなこと」が強力なメンタル回復コマンドになっているという点で、「えっそれファンタジーなんじゃねえの?」と感じてしまうのだが、「ピ」の性別が特定されていない点やオチのことを考えると必ずしも「男性目線」とはいえないし、「あめちゃんという人はそういう人」で説明できんこともないし、これもまたいろんな人の意見を聞かないと分からない。ともかくプレイして、SNSなどに色んな意見を書くといいよ。どのみちわれわれはインターネット中毒者なんだから、分かったような気になる前に「同じアホなら踊らにゃ損損」精神で踊ってみるってのも手だぜ。
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