現実に溶け込む“ひとさじの不思議” ちょっぴり非日常なイラスト集がいつもの散歩に刺激をくれそう司書みさきの同人誌レビューノート

妄想がはかどる。

» 2022年03月20日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 春ですね。寒さと暖かさを行ったり来たりしながらも、道端で見掛ける水仙のつぼみは日に日に膨らんでいっています。暖かくなると身軽に外へのお出かけに心ひかれます。今回の同人誌はゆっくり歩くのが楽しくなりそうなご本です。

今回紹介する同人誌

『散歩のとき何か描きたくなって』B5 20ページ 表紙・本文 色インク刷り

『猫も歩けば土管にあたる』B5 20ページ 表紙・本文 色インク刷り

著者:ハルゾウ


同人誌の表紙同人誌の表紙 犬と猫、それぞれの散歩姿。実は裏表紙や見返しのイラストにもつながっているのですよ

日常の道にひとさじの不思議。散歩の光景を描く

 ご本はペンで描かれたイラスト集です。作者さんが住んでおられるという、やきもののまち、常滑の様子をはじめとして、実際にある景色が1枚のイラストや、4コマのマンガになっています。2冊ともタイトルに「歩」の文字が入っているように、歩いているうちに出会いそうな町、道、人々の姿……そんな日常の風景が描かれています。

 ん? でもちょっと待って。ハシビロコウが信号を待っていることって、あるかしら? そんな、普通ではまず出会えない状況もするりと“いつも”に混ざりこんでいるんです。この、ひとさじの不思議さの配分が絶妙で、猫の足跡が車に残されている、なんて、いかにもありそうな一枚もあれば、信号待ちのハシビロコウという、人生でめったに出会わなそうな光景まであって……いえ、ハシビロコウと信号待ち、現実ならめったにどころか、絶対出会わなさそうな光景ですよね。ところが、虚実の入り組み、バランスで「絶対とはいえないかも。もしかしたら散歩していたらこんなところに出会うかも」という気分になってきたんです。

同人誌『猫も歩けば土管にあたる』 おばちゃまの穏やかさと、りりしいハシビロコウさんの立ち姿よ……(『猫も歩けば土管にあたる』より)

細密なペン画とくつろぎが重なる

 もしかしたら日常にこんなことがあるかも? の気持ちを後押ししてくれるのは、町の様子が丁寧に描かれているからかもしれません。建物や植物があじわい深く、細やかに描写されます。でもそこに居る人や動物の表情は決して硬質ではなく、おだやかで優しい存在感を持っています。装丁の落ち着いたクラフトの紙の質感や、ほんの少しだけ黄みがかった本文用紙も相まって、ああ、肩の力が抜けたいつもの暮らしがある道筋なんだなぁと感じられて、ページのこちら側にもくつろぎのムードがやってきました。特徴的なベンチのある公園や城跡など、土地の特有なところも織り込まれ、そこを歩いて、眺めてみたくなってきます。

同人誌『散歩のとき何か描きたくなって』 城壁に来たら心は忍者。城跡で「御意」って言ってみたくなるじゃないですか!(『散歩のとき何か描きたくなって』より)

日々に楽しさを連れて来てくれる目線

 本当の街並みに、空想の人や動物が描かれることで「本当にありそうな、でも、今日出会えなくても、いつか出会うかも……」という楽しい気持ちがふわりとやってきます。リアルに空想を重ねると、日々がちょっぴり面白くなる、そんな目線がどのページにもありました。見知らぬ町も、見知った町も、ご本の楽しさを頭に思い描きながらのびのびと歩きたくなりました。

同人誌『猫も歩けば土管にあたる』 こんなベンチがあるのかな? かわいい散歩姿に出会いたい(『猫も歩けば土管にあたる』より)

サークル情報

Twitter:@haruzo863_ekaki

入手できる場所:BASE

次回イベント参加予定:関西コミティア64


今週の余談

 良く知っている道も、歩く時間帯によって違う顔に見えたりします。歩き始めると意外と遠くまで行くのも苦ではなくなったり。日差しもやさしいこの季節、散歩にぴったりですね。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2407/24/news014.jpg 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  2. /nl/articles/2407/25/news017.jpg 「これが生えたら庭終了」 プロも降参する“何をやっても全部ムダな最恐雑草”の正体が400万再生「ほんとこれ厄介」「土ごと変えないと不可能」
  3. /nl/articles/2407/26/news151.jpg イトーヨーカドー春日部店が閉店へ 「クレヨンしんちゃん」に登場するスーパーのモデル 「残念」「寂しい」惜しむ声
  4. /nl/articles/2407/25/news012.jpg 夜、山中の側溝をのぞいてみたら…… 思わず声がもれる“あらぬ生物”の姿に「ヤバいw」「生で見てみたい」
  5. /nl/articles/2407/25/news007.jpg 水槽の中で卵を発見→慎重に見守って1カ月後…… 小さな命の誕生に飼い主も視聴者もメロメロ「まじで可愛すぎるほんとに可愛い」
  6. /nl/articles/2407/25/news138.jpg 「お父さんはママのオタクだった」 母親が「元・おニャン子」のタレント、アイドルとオタクが“つながっちゃいけない理由”を問いかける
  7. /nl/articles/2407/25/news050.jpg 「立体的に円柱を描きなさい」 中1の“斜め上の解答”に「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」
  8. /nl/articles/2401/26/news015.jpg スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
  9. /nl/articles/2407/26/news119.jpg 工藤静香、15歳の愛犬が天国へ 感謝の言葉つづるも……「泣いてばかり」「心が追いつかない」と悲痛な思い
  10. /nl/articles/2407/26/news008.jpg 外国人が来日して“3年後”…… マクドナルドの“オーダーの変化”に「胃袋が日本人のそれなんよw」とツッコミ
先週の総合アクセスTOP10
  1. プロが本気で“アンパンマンの塗り絵”をしたら…… 衝撃の仕上がりが360万再生「凄すぎて笑うしかないww」「チーズが、、、」
  2. 6年間外につながれっぱなしだったワンコ、保護準備をするため帰ろうとすると…… 思いが伝わるラストに涙が止まらない
  3. 「お釣りで新紙幣来た!!!!!と思ったら……」 “まさかの正体”に「吹き出してしまった」「逆に……」
  4. 赤いカブトムシを7年間、厳選交配し続けたら…… 爆誕した“ウルトラレッド”の姿に「フェラーリみたい」「カッコ良すぎる」
  5. ダイソーで買った330円の「石」を磨いたら……? 吸い込まれそうな美しさが40万回表示の人気 「夏休みの自由研究にもいいのでは?」
  6. 「これ最初に考えた人、まじ天才」 ダイソーグッズの“じゃない”使い方が「目から鱗すぎ」と反響
  7. もう笑うしかない Windowsのブルースクリーン多発でオフィス中“真っ青”になった海外の光景がもはや楽しそう
  8. アジサイを挿し木から育て、4年後…… 息を飲む圧巻の花付きに「何回見ても素晴らしい」「こんな風に育ててみたい!」
  9. スズメの首は、実は……? 「心臓止まりそうでした」「これは……びっくり!」“真実の姿”に驚愕の声
  10. 【今日の計算】「8×8÷8÷8」を計算せよ
先月の総合アクセスTOP10
  1. 18÷0=? 小3の算数プリントが不可解な出題で物議「割れませんよね?」「“答えなし”では?」
  2. 日本人ならなぜかスラスラ読めてしまう字が“300万再生超え” 「輪ゴム」みたいなのに「カメラが引いたら一気に分かる」と感動の声
  3. 「最初から最後まで全ての瞬間がアウト」 Mrs. GREEN APPLE、コカ・コーラとのタイアップ曲に物議 「誰かこれを止める人いなかったのか」
  4. 「値段を三度見くらいした」 ハードオフに38万5000円で売っていた“予想外の商品”に思わず目を疑う
  5. 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  6. かわいすぎる卓球女子の最新ショットが730万回表示の大反響 「だれや……この透明感あふれる卓球天使は」「AIじゃん」
  7. 「これはさすがに……」 キャッシュレス推進“ピクトグラム”コンクールに疑問の声相次ぐ…… 主催者の見解は
  8. 天皇皇后両陛下の英国訪問、カミラ王妃の“日本製バッグ”に注目 皇后陛下が贈ったもの
  9. 「この家おかしい」と投稿された“家の図面”が111万表示 本当ならばおそろしい“状態”に「パッと見だと気付けない」「なにこれ……」
  10. 和菓子屋の店主、バイトに難題“はさみ菊”を切らせてみたら…… 282万表示を集めた衝撃のセンスに「すごすぎんか」「天才!?」