作者は寿司屋の女将 仕入れた魚の美しい「ヒレ」をコレクションした同人誌『ウオヒレウロ子の素敵なウオヒレの世界』司書みさきの同人誌レビューノート

ヒレは下処理後にレジン樹脂でコーティングしているんだとか。

» 2022年05月01日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 「きらきらしたもの」とお題があったとしたら、何を思い浮かべるでしょうか。宝石、星、華やかなスポットライト……今回のご本は、きらきらした魚の、そのなかでも特に「ヒレ」が並ぶ同人誌です。

今回紹介する同人誌

『ウオヒレウロ子の素敵なウオヒレの世界』147ミリ×147ミリ 28ページ 表紙・本文カラー

著者:ウオヒレウロ子


同人誌「ウオヒレウロ子の素敵なウオヒレの世界」 色も形もさまざまなヒレたち

18種のヒレたち、見逃せない美が集合

 いつもはまじまじと見たことなかったなぁ……そんな魚のヒレが、ご本ではいくつも紹介されています。本体から離れたヒレだけの姿がどん、と大きく掲載され、それに魚の名前、“胸鰭(むなびれ)”“尾鰭(おびれ)”といった部位、大きさの基本情報と、作者さんのコメントが添えられた形です。

 東京・銀座のお寿司屋さんで女将(おかみ)をされているという作者さんが、ご自身で仕入れた魚の下処理を行う作業の中で、残ったヒレの美しさに気づいたのがヒレコレクションのきっかけなのだそうです。ご本にも「眺めてみるとうっとりするほど美しい……」と書かれている通り、ヒレのどれもがなんとまぁきらめいていることでしょうか。

 イトヨリダイの淡いピンクのかわいらしさ、イサキの背ビレのシャープなかっこよさなど、まずはインパクトの強いものに目を奪われ、さらにだんだんと「さすがの落ち着きと重厚感」とのコメントにうなずく、クエの趣のある渋さにも心ひかれる、さまざまなヒレを目で味わうことができます。

同人誌「ウオヒレウロ子の素敵なウオヒレの世界」 “かわいい”“可憐(かれん)”……いままでヒレに対して使ったことのなかった言葉が浮かんでくる愛らしさです

こんなに鮮やか、こんなに色とりどり。つやめくウオヒレ色と形を楽しむ

 掲載されているヒレは、下処理後にレジン樹脂でコーティングされているのだとか。なかには退色して、入荷時とは違う色になった、と書かれているものもありますが、それも含めてそのツヤが瑞々しく光り、水の中に居るときそのままのような鮮やかさにも見えます。

 このヒレの保存、そして写真の撮り方、紙面デザインも、ヒレが堂々と紙面の主役として輝く、大きな力になっているのを感じます。背景は爽やかな白一色、そこにはっきりと形が分かる美しいヒレを真ん中にして見せ、つやめきと同時に自然物の繊細な色を伝える撮影と印刷技術のすばらしさ。手元で見た美しさを写真などで同じように再現しようとしても、なかなか難しいものがあります。けれど、こちらのご本は見事にそれを超えて、ページをめくったときに「わぁ、きれい!」と思える環境が作られています。

 加えて、ページの端になじみのいいベージュ色で書かれたキャッチフレーズに見られるような、たくさんの魚と毎日出会ってきたからこその、作者さんの端的にまとまったヒレへの一言が効いているんです。形、色はもちろん、紙面では伝わりきらない手触りやにおいにまでが短い中にさらりと込められているのが、ヒレの魅力を一層伝えます。「蝶の羽のようなバランスのとれた広がり」はキンメダイの腹ビレ、「黄昏時、灯りを点ける前の暗い和室から格子戸越しに差し込む西日を眺めているような趣」なのはマダイの尾ビレです。魚を愛おしむ人だからこそ紡がれる言葉の数々に、おもわずすぐに魚に会いたくなってしまいますもの。

同人誌「ウオヒレウロ子の素敵なウオヒレの世界」 ご本の大きさが、掲載されたヒレの実物を思わせるような小さめな正方形なのもかわいらしい

本体から切り離された部位の持つ魅力

 文章には時々、魚の大きさや、顔など、紙面には載せられていない部分のことも出てきますが、このご本で魚の本体の絵図が出てくるのは、部位の位置を説明するための解説ページだけです。作者さんが営むお寿司屋さんでそうであるように、また読者である私の日常にも、いつもなら魚の“主”は胴体や、頭です。けれどこのご本では、常なら“副”として本体に寄り添う存在がきらめているんです。細やかな部分にも愛着を持たざるを得ないほどの作者さんの、魚が大好き!な思いが感じられます。

 いつもなら切り離されていくだけの部位にあらためて光を当てる、その美しい細部の世界が本になってやってきて、ゆっくりと開いて楽しめるのは宝石箱を開けるのに似ているとさえ思うひとときになりました。

同人誌「ウオヒレウロ子の素敵なウオヒレの世界」 渋いかっこよさも見逃せない

サークル情報

サークル名:ひれ処志喜

Twitter:@yamabe_emiko

Instagram:@yamabe_emiko@uohadalove

入手できる場所:ひれ処志喜 ウオヒレウロ子STORE東京・銀座4丁目「すし処志喜」(※食事利用時に冊子の販売、ウオヒレ実物展示見学可能。要電話予約)、シカク(大阪・大阪市)、タコシェ(東京・中野)、mount ZINE(東京・駒沢大学)、ブックギャラリーポポタム(東京・目白)、ひるねこbooks(東京・根津)、SPBS本店(東京・渋谷)、百年(東京・吉祥寺)、エルミHAO(兵庫・甲子園町)


今週の余談

 自然の造形ってその美しさに驚くほどですよね。そしてそれがとどまらず、刻々(こくこく)と変わっていくのもすてきです。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/16/news007.jpg まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  2. /nl/articles/2411/16/news013.jpg 自宅のウッドデッキに住み着いた野良の子猫→小屋&トイレをプレゼントしたら…… ほほ笑ましい光景に「やさしい世界」「泣きそう」の声
  3. /nl/articles/2411/15/news016.jpg 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. /nl/articles/2411/17/news066.jpg 「ヤバすぎwwww」 ハードオフに1万8700円で売っていた“衝撃の商品”が690万表示 「とんでもねぇもん見つけた」
  5. /nl/articles/2411/16/news014.jpg 330円で買ったジャンクのファミコンをよく見ると……!? まさかのレアものにゲームファン興奮「押すと戻らないやつだ」
  6. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  7. /nl/articles/2411/17/news038.jpg 58歳でトレーニングを始めたおばあちゃん→10年後…… まさかまさかの現在に「オーマイガー!!!」「これはAIですか?」【海外】
  8. /nl/articles/2411/11/news056.jpg 大量のハギレを正方形にカット→つなげていくと…… “ちょっとした工夫”で便利アイテムに大変身! 「どんな小さな布も生き返る」
  9. /nl/articles/2411/16/news077.jpg 大谷翔平、インスタ最新投稿で活躍シーンのハイライト公開 一瞬映る“妻・真美子さんと母・加代子さんの笑顔満開ハイタッチ”に注目
  10. /nl/articles/2411/17/news004.jpg 「水曜どうでしょう」“伝説のシーン”そっくりな光景にネット騒然 「ダメだ笑っちゃう」「なまら怖い」
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた