祭りの雰囲気を一冊の絵本に 奈良・春日大社の“祭祀”を描いた同人誌『はじめてのおんまつり』司書みさきの同人誌レビューノート

“ぱたぱた”とめくる楽しみ。

» 2022年05月15日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 桜も青葉になり、気温の高い日には半袖の人も見掛けるようになりました。春から初夏へと移り変わり、少しずつ夜明けは早く、日暮れはゆっくりになってきています。今回は昼と夜の移り変わりも美しい、一つのお祭りを描いた同人誌です。

今回紹介する同人誌

『はじめてのおんまつり』A6 18ページ 表紙・本文3色刷り

著者:奈良都民


同人誌「はじめてのおんまつり」 表紙の3人がお祭りを追っていきます

奈良の祭を不思議な3人が案内

 こちらのご本は奈良の春日大社の冬の祭祀(さいし)がテーマになっており、町の人々が衣装を着て、華やかに、おごそかに祭りを行う様子が描かれた絵本です。すっきりと線をまとめられた絵柄は丸みを帯びほのぼのとした雰囲気で、この一冊の案内役が「ちいさなようせいたち」という少し不思議な世界観にもぴったりです。かわいく、土地の由来を感じさせるちいさな彼らが、非日常の特別な空気を素直な目線で追っていきます。

同人誌「はじめてのおんまつり」 いつもと違う町の様子に気づいた3人

昼と夜それぞれのまぶしさが輝く。がらりと変わる雰囲気を紙面で捉える

 黒い表紙をめくると、ぱっと明るい黄色のページが広がります。そこに描かれた祭りに関わる人々は、浮き上がるような緑で色分けされており、注目ポイントが自然に目に飛び込んできます。

 そして祭りが進むと状況は一変し、黒がベースの闇の世界へ。黒の紙に重なる灰色の人影や、ぱちぱちとたいまつの炎が燃え上がるさまも印象的な金色など、昼の街の賑わいから、荘厳な夜への切り替わりが紙の色、インクの色で表現されているのが見事!

 この鮮やかな場面転換は、本のとじ方も重要な要素になっているのではないでしょうか。普通の本のようにノリや糸でとじるのではなく、ぱたぱたと折り込まれただけの、じゃばらの作りになっています。ぱたぱたと次のページを読む感じ……“ぱらり”ではなく“ぱたぱた”なんですよ。ぱたん、とめくると、明るい昼間から、すっと夜の暗がりへと変わる様子は、にぎやかさと神秘的な高揚感という、祭りが持つ雰囲気を1冊の中に入れ込むことに一役買っています。

同人誌「はじめてのおんまつり」 手のひらに収まるサイズ感もかわいらしくてぴったりです

東京に居ながら奈良を愛して。旅人と住人の間の穏やかな目線

 作者さんは奈良市の特産品のラベルをデザインするコンペに参加したのをきっかけに奈良への興味が増し、東京に住みながら奈良をモチーフにした自主制作を続けていらっしゃるそうです。一度だけ訪れた旅人ではなく、さりとて住民でもない、作者さんの立ち位置がちょうどよく、土地の注目してほしい部分にスポットを当てることと、場に慣れているからこそのじわじわと湧き上がるその土地特有の空気をつかみ、一冊に昇華することへとつながっているように感じました。

 この、とじられていない作りのご本は、紙面全体をひとつながりに広げてみることもできます。切れ目のない画面は、祭りが昼から夜へと続いているさまと、土地の人々により過去から今まで、長いあいだ祭りを執り行ってきたことにも重なるようです。地元の人だけでない、多様な関わりから生まれてきた、そんな軽やかさもすてきなご本です。

同人誌「はじめてのおんまつり」 闇の中で、人も不思議なものも、絵も字も一体となるようです

サークル情報

Twitter:@naratomin

Instagram:@naratomin

Facebook:@naratomin

入手できる場所:MOUNT ZINE百年の二度寝奈良都民のオンラインショップ

Webサイト:https://naratomin.com/


今週の余談

 お祭りなら、これから夏祭りの時期ですね。時間によって、季節によって、どんな参加の仕方をするかによって……お祭りってさまざまに雰囲気を変えますね。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

関連キーワード

同人誌 | 図書館 | コミケ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2505/13/news020.jpg 小5のときに描いた絵→4年後…… 「ねぇ何があったん?」「鳥肌立った」中3になって描いた絵が160万再生
  2. /nl/articles/2505/15/news047.jpg コンビニコーヒー「Sください」と言ったのに…… “店員のミス”を指摘もまさかの赤っ恥に「これは絶対に間違える」「私もやった」
  3. /nl/articles/2505/13/news104.jpg 「娘の目が大きいのは赤ちゃんだから」と思っていたママ、成長すると…… 驚きの姿に「ディズニープリンセスだ」【海外】
  4. /nl/articles/2505/15/news034.jpg ショウガを土に埋めて水やりすると……「すごすぎる!!」 想像もつかなかった、とんでもない状態に37万再生
  5. /nl/articles/2505/13/news195.jpg ママ「保育料の口座にお金入れて」→よく見ると……  パパ絶叫のやり取りに「スゴー!」「振り込め詐欺かとww」
  6. /nl/articles/2505/15/news024.jpg 高校生息子にリクエストされたお弁当を作ったら…… 驚きの出来上がりに「えっこれ全部息子さんの分?」「うらやましい」 話題になった投稿者に聞いた
  7. /nl/articles/2505/13/news015.jpg ジブリパークで「シータだ、かわいい!」と言われまくった9歳娘→思わず納得の見た目に「久々ときめいた」「完璧」
  8. /nl/articles/2505/15/news144.jpg 7歳だった“乃木坂46ファン”が7年後……“白石麻衣とのエモすぎる会話”に「すごい話だ……」「受け継がれるアイドル」と感動広がる
  9. /nl/articles/2505/13/news058.jpg 猫の“今にも抜けそうな毛束”を引っ張ったら……「思ってた抜け方と違う」 420万再生の光景に「ふぉぉぉ!」「マジで全然違った」
  10. /nl/articles/2505/14/news015.jpg スーパーで買ったアサリの殻を開けたら…… もぞもぞ動く“寄生者”が「初めて見た」と話題 あれから生き物はどうなった?
先週の総合アクセスTOP10
  1. 急性骨髄性白血病で闘病中だったVTuber、死去 「復帰を目指して闘病」 専門学校の講師としても活動
  2. 万博の“着物ショー”に天皇陛下だけ許される「装束」登場で物議…… 「深くお詫び」主催者謝罪
  3. 「腹筋捩じ切れましたwww」 夫が塗った“ピカチュウの絵”が……? 大爆笑の違和感に「うちの子も同じ事してたw」 投稿者に話を聞いた
  4. 大人なら解けないと恥ずかしい? 「(1/8)−(1/8)」を計算せよ!【算数クイズ】
  5. 「女の子みたいな顔だね」と言われ続けた男の子、20歳になったら→「神がかってる」姿に驚がく 「人体の不思議」「オーラが凄い」
  6. 使わなくなったカラーボックス→“ずぼらシンママ”が簡単DIYしたら…… 天才的な仕上がりに「かしこーい!!」「これ作ってみよう」
  7. クリスマスに出会ったギャルとギャル男が21年後…… 誰も予想できない現在に「素直に凄い」「人に歴史あり」と称賛の声
  8. カルディ全店で販売の生ハムから「サルモネラ属菌」検出…… 「心よりお詫び」7万個自主回収
  9. マクドナルド、次回ハッピーセットコラボに「待ってました!」 人気作の登場に混乱の懸念も「すぐ売り切れそう」「初週ヤバいぞ」
  10. お隣さんから丸見えの土地→巨大ウッドフェンスを7日かけてDIYしたら…… 雰囲気ガラリで「すごい大作ですね」「ワクワクした」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 築53年家賃4万円・何てことない団地のドアを開けると…… まさかの空間出現に驚きの声「素敵」「ここまでお洒落に」
  2. 小学生時代「こんなプラモ誰が買うんだよw」→40年後…… “大人になった”を実感するエピソードに「分かる」「特大ブーメランw」
  3. 49歳病没の大宮エリーさん、生前開催の個展で「体調も万全でなかったので不安」 3カ月前には苦しげな姿も「声が出にくい」
  4. 自販機に“1000円”を入れたら……? 出てきた“とんでもないお釣り”にお口あんぐり「こんなん初めて見た」
  5. 自宅の犬小屋に住み着いた野良猫、1年後の姿に「泣いた」と大反響 それからどうなった?現在の様子を聞いた
  6. 100万円の“錦鯉”を自宅の池に入れたら…… 「おかしいでしょ」3日後、まさかの事態に「鯉は難しい…」「信用が大切ですね」
  7. パパに、保育園へ行く娘のヘアアレンジを任せたら…… ママがひっくり返った“仕上がり”が400万表示「重力どこ?」「頑張った感がいい!」
  8. 「成長したらそのうち襲ってくる」と言われたワニ、16年後……→ 280万回再生を突破した驚きの姿に「初めて見た」の声
  9. 人里離れた山にカメラを設置→1週間後…… 「なんで?」映っていた“意外すぎる住人”に「笑った」「実在していたのか!」
  10. 「神パンツきた」 ユニクロ新作“3990円パンツ”が品切れラッシュの大人気 「過去イチかも」「本当にこれは買い」