レビュー
» 2020年11月29日 12時00分 公開

もし動物たちが文明を持ったら 独自の進化を遂げた“空想上のビーバー”を描く同人誌『ビーバー建築史』司書みさきの同人誌レビューノート

妄想がはかどる。

[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 11月末、晩秋らしい空気の冷たさを感じるようになりました。ひんやりした外気をかき分けて、おうちにたどり着くと肩の力が抜けます。居心地のいい家ってほっとしますね。今回は暮らしや家の様子から文明へと想像が及ぶ同人誌です。

今回紹介する同人誌

『ビーバー建築史』A5変形 40P 表紙、本文カラー

原案・構成:白井賢一

イラスト:かしこま

背景:ユウイチ

生物イラスト協力:青木直也

装丁:妄菌類


同人誌 図書館 司書 大きな木を思わせる外側と、小部屋が分かる図にわくわく!

うんうん、ビーバーって木で家を作るんですよね……えっ巨大建築? ビーバーが空想で大進化

 「そこは地球によく似た惑星。見えない“毒”に覆われたことで、独自の進化を遂げる動物が現れた」というのがこのご本の設定です。確かに森と湖のある光景は地球そっくりです。そしてそこに生息するビーバーも、私の知る姿と何ら違いなく見え、木々を集めて堤防のような住まいを作っています。

 けれど読み進めるとご本のなかのビーバーは暮らしをどんどんと変えていきます。キノコの栽培を始め、文字や通貨で意思疎通を図っていき、“こちら”のビーバーではありえない進化を遂げて、枝を積み上げただけの住居も、やがていくつもの部屋を持つ巨大な建築へ。

 イラストをメインにして解説が添えられた画面は、ビーバーや、彼らの住処になる木材を思わせる茶色がかった色彩が多く、長い歴史書をひもといているような落ち着きと、これからどうなるのか推測しきれない謎めいた雰囲気を漂わせます。それに加えて細やかに衣食住が描かれ、じわじわと「そんなことってある……? あるのかも!」と胸が高鳴る、現実と空想の織り交ぜが楽しいです。

同人誌 図書館 司書 住まいを中心に、食や文化も

丁寧な空想とエネルギッシュなビーバー

 ご本を手にしたときは表紙に描かれた建物図に、「もしかしてジル・バークレムの絵本『のばらの森』シリーズのような繊細で愛らしい雰囲気なの?」と思っていました……が、数ページで予想していたふんわりムードは覆されます。その要因はビーバーの表情の豊かさ! 小さな瞳はつぶらで、ちょっぴり歯がのぞく口元も愛らしく……愛らしいのです、ちゃんと。けれど、目に飛び込んでくるアグレッシブなビーバーさんは“建築してぇ……建築してぇよ……”と生来の建築家としての思いから慟哭(どうこく)し、食べ物を横取りされて“ギリィ”と立派な歯を食いしばり、ほんわかだけじゃない、エネルギッシュさをまとっています。

 彼らにいつの間にか肩入れし、見守る気持ちになるのは、愛嬌(あいきょう)の中からあふれる活動力が見事に表現されているからではないでしょうか。壮大な自然の風景や、描き込まれた建築イラスト、一つ一つに物語がありそうな解説、生き生きとしたビーバーの様子が一つになった緩急も愉快です。

同人誌 図書館 司書 個室、彫刻、そして異種族……空想の進化が楽しい

かわいいね、で終わらない。空想ビーバーの行く末は

 縄張りはあれどビーバー種族だけで暮らしていた時代から、他の生物から身を守り、時に交渉し、そして使役するものとされるものの発生……終盤にはさまざまな種族と共存して、ビーバーはついに巨大船で海へと乗り出していきます。

 これから私たちの種族「人間」と同じ経路をたどっていくのか、それともビーバーがかっぽする独自の世界を極めていくのでしょうか。彼らの今後の未来は読者の頭の中に委ねられます。かわいい! わくわく! と一緒に、「こちらのビーバーってどんなのだったかしら」「こんな風に変わっていくかな?」といつも脳裏に浮かび、空想で遊ぶことはリアルの生物を考えることにつながっていると感じるご本でした。

 Twitterで公開されている「ビーバーに育てられたイカと、弟」のマンガでも空想ビーバーさんたちの雰囲気を感じることができますよ。

同人誌 図書館 司書 不思議な巨木をビーバーは見つめているのでしょうか

サークル情報

サークル名:動物文明史研究会

現在入手できる場所:Booth

Twitter:@kemyth111



今週の余談

 世の中にヒーター付きのベストが次々に登場していることを知りました。中にはヒーター部分の取り外しができ、洗えるものもあるとか。なんと心強い……。暖かくなる道具がたくさん開発されてうれしいです。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。


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